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聖地巡礼──稀代の講談師・神田伯山が講談ゆかりの地を訪ねる、魅力発見の旅

講談放浪記
(著:神田 伯山)
2023.08.19
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講談の世界を描いたマンガ『ひらばのひと』(著・久世番子/講談監修・神田伯山)のレビューがきっかけで、希代の講談師・六代目神田伯山にすっかり魅了された一人として言いたい。
講談をもっと深く味わいたいなら、神田伯山をもっと知りたいなら、絶対に読んでおくべき本です!!

【186段の石段を馬で上る!?】

浅草演芸ホールで初めて聴いた伯山先生の講談は、『出世の春駒』でした。
正直、興奮しました!! 講談ってこんなに面白いのか!!と。

       

『出世の春駒』は、愛宕神社の急勾配の石段186段(※)を馬で上り、梅の花をとってこいという三代将軍・徳川家光公の難題を駄馬に乗った家臣が挑んで、日本一の馬術の名人として讃えられたというお話。

私はたまたま愛宕神社(港区)に行ったことがあったので、あの石段を馬で上るなんて無茶だ、と想像することができました。この見たことがあるか、ないかの差は大きい。

この本では、講談の舞台やゆかりのある場所が色々と紹介されていて、交通アクセスも載っています。

※講談では186段ですが実際の愛宕神社の男坂は86段です。

【講談師、見てきたようなウソをつき】

ともすれば、講談に出てくるのは作り話なのではないかと思ってしまいます。
特に子供のころテレビで見た盲目の渡世人「座頭市」や、浅草名画座で観た高倉健や藤純子の任侠映画のような世界は、今の時代とはまったく異なるので。
だから、講談に出てくる侠客(きょうかく)ものも作り話なのではないかと思ってしまいますが、さにあらず!!

「落語は基本的に架空のフィクションですが、講談は元ネタのあるフィクションなのです」。

『天保水滸伝』に出てくる侠客たちも、実在する人物だと知り驚きました。
YouTubeチャンネル『神田伯山ティービィー』では、「天保水滸伝遺品館」を伯山先生が訪れたときの様子が見られて面白いです。
この『講談放浪記』と合わせて見ると、より登場人物を身近に感じることができます。

伯山先生の師匠である人間国宝・神田松鯉(しょうり)先生との対談でも、松鯉先生がこんなことを言っています。
「講談師、見てきたようなウソをつき」ではなく、「講談師、見てきた上でウソをつき」だと。自分の目で確かめた上であれば、真実味を帯びてくると。
伯山先生の渾身の迫力ある講談も、こうして創られたのですね。

【いつかは講釈場をという強い思い】

『天保水滸伝』の中のひとつ、「ボロ忠売り出し」を伯山先生が寄席で主任(最後のトリのこと)のときに、見ることができました。
個人的には伯山先生のお茶目な声色が好きなので、またしても大興奮!! 
最初から話に引き込まれ、45分があっという間でした。

「日本一チケットのとれない講談師」というのは私自身も経験していますが、寄席であればまだ見ることができます。
そして驚くのは、こんなに売れっ子なのに寄席には本当によく出ているということ。
はっきり言って出演料(ワリという)はかなり安く、本当にワリに合わないらしいのですが、それでも出続ける理由が書いてありました。

「講談界が講釈場を失った要因のひとつに、人気の出た講談師が講釈場に出なくなってしまったから、ということがあります。(中略)講釈場を大事にせず、金儲けのお座敷にばかり行ってしまう」ということがあり、その歴史を知っているからこそ、寄席を大事にしているというのです。
カッコいい!! そして安定の“猫背”も愛おしい!!

【あとがきにリアルな!? 神田伯山】

私もラジオ番組『問わず語りの神田伯山』を聴いている、伯山先生曰く“どこにでもいる問わず語りリスナー”なので、『講談放浪記』の裏話は知っていたのですが、「あとがき」を読んで笑ってしまいました。
ここにも“本音”が溢れていて、さすが期待を裏切らない男です!!

ほかにも、怪談を語るテクニックや、『中村仲蔵』『淀五郎』をなぜ激しい読み口にしているのか、どこまでなら崩していいのかなど、私が知りたかったことを知ることができました。
やはり講談ファンなら、神田伯山ファンなら、絶対に読んでおくべき本だと思います!!

  • 電子あり
『講談放浪記』書影
著:神田 伯山

独演会チケットは即日完売!
講談普及の先頭に立つ稀代の講談師六代目 神田伯山の著書、いよいよ登場!!
講談ゆかりの地を訪ねて講談の魅力を発見する──。

伯山が名作講談の舞台となった場所を訪ねて、講談の持つ物語としての魅力を紹介します。
また、他芸能・他ジャンルの城ともいうべき場所を訪ねて、講談という芸能の未来について再考しています。
現場に行っての論考だからこその臨場感が迫ってきます。

2021~2022年の1年間にわたった文芸誌「群像」連載を大幅加筆。
加えて、師匠・人間国宝の神田松鯉氏との師弟対談も収録!

目次
第一部  講談の舞台を訪ねる
第一章  『赤穂義士伝』泉岳寺が伝える四十七士の虚実
第二章  『天保水滸伝』房総に遺された侠客たちの息吹
第三章  『源平盛衰記』壇ノ浦で死して生きる源氏と平家の物語
第四章  『出世の春駒』愛宕神社の石段数とリアリティ
第五章  『四谷怪談』お岩さまと伊右衛門夫婦のフィクション性
第六章  『寛永宮本武蔵伝』巌流島に伝わる決闘の真実

第二部  来るべき講釈場のために
第七章  国技館と相撲幻想
第八章  歌舞伎座での新たな邂逅
第九章  いまを生きる寄席の魅力
第十章  日光東照宮で想う江戸の講釈
第十一章 失われた講談の城、本牧亭の面影

特別師弟対談
人間国宝・神田松鯉に講談の神髄を聞く

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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