今日のおすすめ
皇帝ネロもナポレオン皇妃も! ただの「花」が国も時代も超え人々を虜にしてしまう。
一番好きな花はバラ!!という人は多いと思いますが、バラの中で一番好きなのは?と問われ、品種を答えられる人は少ないのではないでしょうか??
バラ園に行っていつも驚くのは、その種類の多さ!! 同じ花に見えるのに違う名前がついていて、ネーミングもお洒落(しゃれ)だったり、著名人の名前がついていたり。
何十年も前に新種として登録されたものもあれば、つい最近登録されたものもあり、バラって面白いなぁという単なる興味から『バラの世界』を読み始めたのですが、もう知らないことだらけで、改めてバラの奥深さを感じました。
【バラの雨に埋もれて窒息!?】
バラの起源は、なんと紀元前。バラの発展の歴史に欠かすことができない古代ギリシャ、古代ローマ時代のエピソードは第一章から第三章まで載っていますが、私が一番興味を持ったのは、ローマ皇帝たちのケタ外れのバラの愛(め)で方。
皇帝ヘリオガバルス(204~222年)は、晩餐会の天井からバラの雨を降らせ、その花の重みで来客が窒息したという逸話があります。
しかも、その話をもとにした油絵まであるのです。
Wikimedia Commons
また、キリスト教徒の迫害などで暴君と呼ばれた皇帝ネロ(37~68年)も、異常と言っていいほどのバラ好きで、浜辺や歩道までバラで埋め尽くし、そのために莫大な経費がつぎ込まれたといいます。
まぁ、それは無理としても、自分の葬儀には菊ではなく華やかなバラがいいなと思っていたら、当時の葬儀にはバラが使われていたとありました。
いにしえの昔から、バラの花は人々を魅了し続けていたのですね。
【100以上ある野生種は、わずか8種から】
バラというと、花屋で売られているバラをイメージしがちですが、あれは品種改良などによって作られた園芸品種のバラ。
おおもとは野生種なのですが、100以上ある野生種の中で、現代の園芸品種作りに貢献したのは、わずか8種に過ぎないといわれているそうです。
しかも、そのすべてがアジアのバラで、日本のノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスも含まれていると知り、驚きました。
バラは、ヨーロッパから日本に渡ってきた花だとばかり思っていたので。
イラスト:中島睦子
実は近所に、小さな白い花をたくさんつける野生のバラがあり、それがノイバラだということを最近知ったのですが、この本を読んで愕然としました。ノイバラにも色々なノイバラがあり、見分けがつかないのです(笑)。
でも偉大なルーツを持つ日本の野バラだということがわかり、より親しみが湧きました。
ちなみに、日本語のバラの語源はどこからきているのかというと、『万葉集』に出てくるウマラ(宇万良)がイバラ(荊)に転じ、それがさらに変化してできた言葉だそうです。
【ヨーロッパで園芸植物の基となった4種】
意外にも19世紀初頭のヨーロッパで栽培されていたバラは、ローザ・ガリカ、ローザ・アルバ、ダマスクバラ、キャベジ・ローズのわずか4種。
イタリア・ルネサンス期を代表するボッティチェルリの『ヴィーナスの誕生』に描かれている白い花も、この4種の中のローザ・アルバの品種セミプレナというバラ。
Wikimedia Commons 「ヴィーナスの誕生(部分)」
『ヴィーナスの誕生』は何度も目にしたことがあるのに、バラの花が描かれていたことは、この本を読まなければきっと気づかなかったでしょう。
この本は学術書というだけあって、植物学の話はもちろん、バラはいつから存在したのか、人々の生活にどれだけバラが浸透していたのか、園芸植物としての交配の歴史や系譜、バラを巡る歴史上の人物の逸話まで、バラに関するあらゆる話が載っています。
バラ好きを称するのであれば、ぜひとも読んでおきたい1冊だと思います。
- 電子あり
冬のバラを好み、わざわざエジプトから取り寄せていたという皇帝ネロ。晩餐会で天井から大量のバラの雨を降らせ、客を窒息させたほどの愛好家だった暴君ヘリオガバルス。古代ローマ人は悪酔い防止にバラの花冠が効くと信じ、中世の詩人や作家、画家はこぞってバラを描いた……。ただの「花」がなぜ憧れの象徴となり、かくも人々を虜にし続けるのか。野生から改良種まで、世界の多様な品種を眺めつつ、はてなき美の世界を旅する!
まえがき
第一章 クノッソス宮殿の謎
クノッソス宮殿/青い鳥/それはバラか、バラなら/バラとする根拠/ロナ・ハースト/バラは単なる花
第二章 ギリシアとバラ
テオフラストス/バラを詠む/バラ熱の兆し/何が魅力か
第三章 ローマとバラ
高貴な花へ/日常を飾る花に/休日はペストゥムで/ローマのバラとは/バラの花環/生活に欠かせぬ花に/バラの下で
第四章 バラの植物学
レーダーはいった/バラの容姿/バラの葉/托葉/バラの花
第五章 バラの園芸化の歴史を辿る
八つの野生種/一八六七年/グループとは/オールド対モダーン
第六章 オールド・ガーデン・ローズ
ローザ・ガリカ/バラ水のバラ/ジョセフィーヌの幸運/2000を超す園芸品種/ダマスクバラ/バラ戦争/マルメゾン庭園のダマスクバラ/秋に返り咲くダマスクバラ/秋に咲くダマスクバラの再来/ローザ・アルバ/ボッティチェルリの『ヴィーナス誕生』のバラ/<ジャンヌ・ダルク>/キャベジ・ローズあるいはセンティフォリア
第七章 モダーン・ガーデン・ローズの黎明期
コウシンバラとは/ハーストの見解/コウシンバラの標本/英国のコウシンバラ/英国外でのコウシンバラ/二つのチャイナ・ローズと二つのティー・ローズ/スレーターズ・クリムソン・チャイナ/パリ自然史博物館の標本/カルカッタ植物園/パーソンズ・ピンク・チャイナ/ヒュームとパークスのティー・ローズ/ノワゼットバラの誕生/ブルボン
第八章 バラの花譜
バラの画家ルドゥーテ/マルメゾンの館/フランスのバラ図譜/英国のバラ花譜/ドイツ・オーストリアのバラ花譜
第九章 世界の野生バラ
〇中国のバラ
〇ヒマラヤのバラ
〇西アジアのバラ
〇ヨーロッパのバラ
〇アルプスのバラ
〇ヨーロッパのノバラ
〇アメリカのバラ
〇アパラチアのバラ
第十章 日本のバラ
ノイバラ/テリハノイバラ/ミヤコイバラ/ハマナス/サンショウバラ/カカヤンバラ
第十一章 バラの現在・未来
[初出 本書は『バラの誕生 技術と文化の高貴なる結合』(中公新書 1997年11月刊行)を改題、修正加筆、写真を加えたものです。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp
関連記事
-
2020.07.24 レビュー
なぜ英国人はこれほど旅に焦がれ続けたのか。「旅の真の効用」とは?
『英国流 旅の作法 グランド・ツアーから庭園文化まで』著:中島 俊郎 解説:桑木野 幸司
-
2023.06.02 レビュー
連想ゲームのように知識がつながり、世界が広がる。『齋藤孝の大人の教養図鑑』
『齋藤孝の大人の教養図鑑』編:齋藤 孝
-
2019.05.02 レビュー
動けない植物の仰天の戦略。病原体との5憶年サバイバルレースの舞台裏
『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』著・編:日本植物病理学会
-
2023.04.18 レビュー
植物がおもしろい! 親子で楽しめる読み聞かせ植物図鑑【動画DVD付き】
『はじめてのずかん しょくぶつ』監修:瀧 靖之/斎木 健一
-
2023.04.04 レビュー
ナボナ、ティラミス、マリトッツォ……明治から令和まで、流行スイーツ史!
『日本人の愛したお菓子たち 明治から現代へ』著:吉田 菊次郎
人気記事
-
2024.09.05 レビュー
【緊急出版】石破茂、もうこの男しかいない。今こそ保守リベラルの原点に立ち返れ。
『保守政治家 わが政策、わが天命』著:石破 茂 編:倉重 篤郎
-
2024.08.23 レビュー
橋下徹の画期的提言! 自民党がどうであろうと野党が腹を括って決断すれば「政権変容」できる
『政権変容論』著:橋下 徹
-
2024.08.21 レビュー
【自民党と裏金】安倍派幹部はなぜ逃げ延びたのか。その答えがここにある
『自民党と裏金 捜査秘話』著:村山 治
-
2024.09.01 レビュー
南海トラフ巨大地震──いつか必ず起こる震災のリアル。そのときが来る前に知っておかなければならない現実!
『南海トラフ巨大地震 2』原作:biki 漫画:よしづき くみち
-
2024.09.11 レビュー
【トラウマ】自然に治癒することはなく、一生強い「毒性」を放ち心身を蝕み続ける。その画期的治療法を解説
『トラウマ 「こころの傷」をどう癒やすか』著:杉山 登志郎