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皇帝ネロもナポレオン皇妃も! ただの「花」が国も時代も超え人々を虜にしてしまう。

バラの世界
(著:大場 秀章)
2023.07.27
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一番好きな花はバラ!!という人は多いと思いますが、バラの中で一番好きなのは?と問われ、品種を答えられる人は少ないのではないでしょうか??

バラ園に行っていつも驚くのは、その種類の多さ!! 同じ花に見えるのに違う名前がついていて、ネーミングもお洒落(しゃれ)だったり、著名人の名前がついていたり。
何十年も前に新種として登録されたものもあれば、つい最近登録されたものもあり、バラって面白いなぁという単なる興味から『バラの世界』を読み始めたのですが、もう知らないことだらけで、改めてバラの奥深さを感じました。

【バラの雨に埋もれて窒息!?】

バラの起源は、なんと紀元前。バラの発展の歴史に欠かすことができない古代ギリシャ、古代ローマ時代のエピソードは第一章から第三章まで載っていますが、私が一番興味を持ったのは、ローマ皇帝たちのケタ外れのバラの愛(め)で方。

皇帝ヘリオガバルス(204~222年)は、晩餐会の天井からバラの雨を降らせ、その花の重みで来客が窒息したという逸話があります。
しかも、その話をもとにした油絵まであるのです。

            Wikimedia Commons

また、キリスト教徒の迫害などで暴君と呼ばれた皇帝ネロ(37~68年)も、異常と言っていいほどのバラ好きで、浜辺や歩道までバラで埋め尽くし、そのために莫大な経費がつぎ込まれたといいます。

まぁ、それは無理としても、自分の葬儀には菊ではなく華やかなバラがいいなと思っていたら、当時の葬儀にはバラが使われていたとありました。
いにしえの昔から、バラの花は人々を魅了し続けていたのですね。

【100以上ある野生種は、わずか8種から】

バラというと、花屋で売られているバラをイメージしがちですが、あれは品種改良などによって作られた園芸品種のバラ。

おおもとは野生種なのですが、100以上ある野生種の中で、現代の園芸品種作りに貢献したのは、わずか8種に過ぎないといわれているそうです。

しかも、そのすべてがアジアのバラで、日本のノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスも含まれていると知り、驚きました。
バラは、ヨーロッパから日本に渡ってきた花だとばかり思っていたので。

             イラスト:中島睦子    

実は近所に、小さな白い花をたくさんつける野生のバラがあり、それがノイバラだということを最近知ったのですが、この本を読んで愕然としました。ノイバラにも色々なノイバラがあり、見分けがつかないのです(笑)。

でも偉大なルーツを持つ日本の野バラだということがわかり、より親しみが湧きました。

ちなみに、日本語のバラの語源はどこからきているのかというと、『万葉集』に出てくるウマラ(宇万良)がイバラ(荊)に転じ、それがさらに変化してできた言葉だそうです。

【ヨーロッパで園芸植物の基となった4種】

意外にも19世紀初頭のヨーロッパで栽培されていたバラは、ローザ・ガリカ、ローザ・アルバ、ダマスクバラ、キャベジ・ローズのわずか4種。

        
イタリア・ルネサンス期を代表するボッティチェルリの『ヴィーナスの誕生』に描かれている白い花も、この4種の中のローザ・アルバの品種セミプレナというバラ。

 

Wikimedia Commons 「ヴィーナスの誕生(部分)」    

『ヴィーナスの誕生』は何度も目にしたことがあるのに、バラの花が描かれていたことは、この本を読まなければきっと気づかなかったでしょう。

この本は学術書というだけあって、植物学の話はもちろん、バラはいつから存在したのか、人々の生活にどれだけバラが浸透していたのか、園芸植物としての交配の歴史や系譜、バラを巡る歴史上の人物の逸話まで、バラに関するあらゆる話が載っています。
バラ好きを称するのであれば、ぜひとも読んでおきたい1冊だと思います。

  • 電子あり
『バラの世界』書影
著:大場 秀章

冬のバラを好み、わざわざエジプトから取り寄せていたという皇帝ネロ。晩餐会で天井から大量のバラの雨を降らせ、客を窒息させたほどの愛好家だった暴君ヘリオガバルス。古代ローマ人は悪酔い防止にバラの花冠が効くと信じ、中世の詩人や作家、画家はこぞってバラを描いた……。ただの「花」がなぜ憧れの象徴となり、かくも人々を虜にし続けるのか。野生から改良種まで、世界の多様な品種を眺めつつ、はてなき美の世界を旅する!

まえがき

第一章 クノッソス宮殿の謎
クノッソス宮殿/青い鳥/それはバラか、バラなら/バラとする根拠/ロナ・ハースト/バラは単なる花

第二章 ギリシアとバラ
テオフラストス/バラを詠む/バラ熱の兆し/何が魅力か

第三章 ローマとバラ
高貴な花へ/日常を飾る花に/休日はペストゥムで/ローマのバラとは/バラの花環/生活に欠かせぬ花に/バラの下で

第四章 バラの植物学
レーダーはいった/バラの容姿/バラの葉/托葉/バラの花

第五章 バラの園芸化の歴史を辿る
八つの野生種/一八六七年/グループとは/オールド対モダーン

第六章 オールド・ガーデン・ローズ
ローザ・ガリカ/バラ水のバラ/ジョセフィーヌの幸運/2000を超す園芸品種/ダマスクバラ/バラ戦争/マルメゾン庭園のダマスクバラ/秋に返り咲くダマスクバラ/秋に咲くダマスクバラの再来/ローザ・アルバ/ボッティチェルリの『ヴィーナス誕生』のバラ/<ジャンヌ・ダルク>/キャベジ・ローズあるいはセンティフォリア

第七章 モダーン・ガーデン・ローズの黎明期
コウシンバラとは/ハーストの見解/コウシンバラの標本/英国のコウシンバラ/英国外でのコウシンバラ/二つのチャイナ・ローズと二つのティー・ローズ/スレーターズ・クリムソン・チャイナ/パリ自然史博物館の標本/カルカッタ植物園/パーソンズ・ピンク・チャイナ/ヒュームとパークスのティー・ローズ/ノワゼットバラの誕生/ブルボン

第八章 バラの花譜
バラの画家ルドゥーテ/マルメゾンの館/フランスのバラ図譜/英国のバラ花譜/ドイツ・オーストリアのバラ花譜

第九章 世界の野生バラ
〇中国のバラ
〇ヒマラヤのバラ
〇西アジアのバラ
〇ヨーロッパのバラ
〇アルプスのバラ
〇ヨーロッパのノバラ
〇アメリカのバラ
〇アパラチアのバラ

第十章 日本のバラ
ノイバラ/テリハノイバラ/ミヤコイバラ/ハマナス/サンショウバラ/カカヤンバラ

第十一章 バラの現在・未来

[初出 本書は『バラの誕生 技術と文化の高貴なる結合』(中公新書 1997年11月刊行)を改題、修正加筆、写真を加えたものです。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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