今日のおすすめ

ChatGPTも! 創作する能力をも獲得したAIが人間の生活にもたらすもの

2023.03.03
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます

「今、そこにあるAI」がもたらしてくれるもの

ライターにとって面倒な作業といえば、インタビューの文字起こしです。「楽をする」「お金をかけない」ことにかけては貪欲な私。先日「Whisper」というAIを使って、約40分のインタビュー文字起こしに挑戦しました。すると、なんということでしょう! コマンドを打ち込んで数秒で作業は完了。テキストの精度は約80%程度で、漢字の誤変換や句読点の欠落はあるものの、通常3時間は覚悟しなければならない作業時間を大幅に圧縮できました。「Whisper」を開発したのは、イーロン・マスクらによって設立された人工知能研究所「OpenAI」。ありがたいことに、Whisperは無料で使えます(2023年2月現在)。イーロン・マスクよ、ありがとう!

現在、文章生成AIの「ChatGPT」(これもOpenAI製)や、画像生成AIの「Midjourney」「Stable Diffusion」などが登場し、ネットを賑わしています。AI自体は、お掃除ロボットからエアコンまで、ありとあらゆるものに組み込まれているのに、なぜ今これらのAIが騒がれているのか? それは「ChatGPT」や「Midjourney」が、「なんだかんだ言っても、これは人間の領分だよね」と思っていた"創作する能力"をも、AIが獲得したからではないでしょうか。「ChatGPT」は文章を書く能力で、「Midjourney」は絵を書く能力で、ライターやイラストレーターを失業させてしまうかもしれない……。ええ加減にせえよ、イーロン・マスク!

はたして、AIは人間を幸せにするのか? それとも不幸にするのか?
アイザック・アシモフが『私はロボット』で提起し、手塚治虫が『鉄腕アトム』で問いかけ、ジェームズ・キャメロンが『ターミネーター』でエンタメにしたこのテーマを取り上げた、小学生向けの物語が『おはなしサイエンス AI(人工知能) ロボットは泣くのか?』です。

切実さを持ってAIと生きることになる子どもたち



主人公はコミュニケーションロボット「ピコ」と生活する小学生の新くん。彼は学校で行われるディベートで、「AIは必要か?」というテーマに肯定派として臨みます。なぜかいつも新くんを睨(にら)んでくる瑛人くんらAI否定派に勝利できるのか……? という物語。ディベートといっても「それってあなたの感想ですよね」的な論破に向かうのではなく、否定派と肯定派が交互にAIの可能性について提示しあうガチな展開。読み進めると自然にAIへの理解が進むようになっているのですが、この物語、かなり深い内容にまで踏み込んでいます。

まずディベートの論点として出てくるのが「ネット依存症」や「ゲーム障害」(小学生にとっては切実な問題!)。さらにAIが人には理解し難い判断を下す『ブラックボックス問題』や、人間とロボットの境界線をどう設定するのかという論点も提示されます。特に後者は古典とも言える哲学的な命題ですが、AI義手がもたらす可能性や、半導体の代わりに人工培養された脳細胞を使った「ディッシュブレイン」の研究など最新の例も飛び出し、縦横無尽に議論が交わされます。

さまざまな論点のなかでも面白いのが、AIが人間の仕事を奪う「テクノロジー失業」についてです。
AI否定派が「AIは人の仕事を奪う」という論点を提示すれば、AI肯定派は「たしかにAIは人の仕事を奪うけれど、その一方で新しい仕事が生まれる。それは産業革命が起こるたびに起きたことである」と主張します。これに対してのAI否定派の瑛人くんの反論がとても興味深いのです。

えー、さっき肯定側は、転換期に職を失う人が出ても仕方がないと言った。しかし、それはちがう。なぜなら、皆が同様にリスクを負うわけじゃなくて、不公平だからだ。(中略)
他人のことになると『仕方がない』なんて言えるかもしれないけど、自分の親のことだとしたら、どうする?

これは、マクロとミクロの視点の違いかもしれません。しかし、すべての人が時代の要請に沿えるわけではないのも事実です。さらに瑛人くんはこう続けます。

AIが人間の知能を超える、シンギュラリティという現象が実際に起きて、いずれ人間はAIに支配されるかもしれない。支配されないとしても、AIが人権を主張してくるかもしれない。(中略)
AIやネットは、人間の生活を豊かにするための技術で、主人公は人間であるべきなんだ。

これからAIと密接に関わっていく子どもたちは、「主人公は人間だ」と考える時代を生きるのです。ぼんやり「ロボットはともだち」ぐらいに思っている親の世代とは異なります。そのことにハッとさせられました。

15年前、ボストンダイナミクス社が倒れない4足歩行のロボット「Big Dog」を発表し、話題になりました。その性能を示すため、ロボットが人間に蹴られる動画(https://www.youtube.com/watch?v=cNZPRsrwumQ)を見て「かわいそうだ」と思ったのは私だけではないでしょう。かわいげのない無機質で無骨なロボットであっても、日本人は感情移入してしまう。それは鉄腕アトムから続くロボット文化が、日本人のDNAに刻んだ抗えない感情です。しかし、子どもたちはそんな感情だけではなく、多様な視点をもってAIに向き合う時代がきているのです。

瑛人くんの意見に対して、すでにロボットと生活を共にする新は、こう反論します。

人間そっくりのロボット、つまりアンドロイドが、泣きながら人権を主張したら、人権を与えたくなるのではないでしょうか。見た目がロボットそのものでも、同じことかもしれません。
もし、うちのピコが泣いたら、いくらそれが『感情機能』であっても、ぼくはおろおろすると思います。(中略)
でも、人権を与える、ということは、つまり人として認めるってことですよね。そうなったらもう、人間が、ロボットという「人」の脳をプログラミングするなんてこと自体が、おかしくなってきます。人の脳を支配することになるんですからね。

「AIは人間を幸せにするのか? それとも不幸にするのか?」という命題に、答えはありません。人間は火や内燃機関、インターネットを使う。それらが人間を幸せにしたのか? 誰も明快な答えを導けないのと同様に、子どもたちはAIを使いながら最適解を探し続けることになるのです。そういう意味でこの本は、そんなAIやロボットと共に生きる時代に突入する子どもたちに必要な、今一番新しい知識と多様な視点を与えてくれる1冊です。

イラストレーション(C)酒井以
『おはなしサイエンス AI(人工知能) ロボットは泣くのか?』書影
作:佐藤 まどか 絵:酒井 以

【物語の概要】
「AI(人工知能)は人間の生活に必要なのか──?」
小学校のディベートの授業で、こんなお題が出された。
朝早く仕事に出かけて帰りも遅い父と二人暮らしの新(あらた)は、AIロボット「ピコ」のいない暮らしなんて考えられない。だから、新は、もちろん「AI肯定側」としてプレゼンテーションをすることになった。
仲間は小学生ゲームプログラマーの卓己と、プレゼン上手なはるなの二人だ。

調べていくうちに、「AI義手」や「AI医療診断」など、たくさんの事例を見つけることができた。
でも、「否定側」からは、AIこそが人類にとって危険だという意見も出てきた……ハラハラドキドキのディベートの結末は、クラスメイトたちの投票で決まる。その勝敗は!?

●シリーズ「おはなしサイエンス」の刊行趣旨
科学的な知識をもとに、論理的に考え、適切な答えを導く──。
それは、新しい時代を生きるために必要な力です。
その力を身につけるには、理科に親しみ、興味を持つことがいちばん。
理科の学習は、これまで以上に重要になってきています。
「おはなしサイエンス」は、
理科=科学の、おどろきや感動を、物語をとおして伝え、
「科学する心」を育むシリーズです!

●現代を代表する一流の児童文学作家の書き下ろし。
●物語を味わいながら、科学への関心を深めます。
●物語の背景を、豊富なグラフや図表で説明。
●上質なイラストもたっぷり。楽しみながら科学を理解できます。
●巻末の「おはなしサイエンスひとくちメモ」で、各巻のテーマと小~中学校で学ぶ理科の内容との関連を解説します。
本書は、主に環境を考慮した紙を使用しています。

●シリーズ「おはなしサイエンス」のラインナップ※刊行予定も含みます

遺伝子工学 光るマウスが未来を変える』 森川成美・作 石井聖岳・絵 
美容の科学 神永くんは知っている』 神戸遥真・作 藤本たみこ・絵 
未来のたべもの 未来の給食、なに食べる?』楠木誠一郎・作 下平けーすけ・絵
AI(人工知能)ロボットは泣くのか?』佐藤まどか・作 酒井以・絵
未来の医学 これからも、リッキーといっしょ』片川優子・作 大管雅晴・絵 
『バイオミメティクス(生物模倣技術)マンボウ、空を飛ぶ』吉野万理子・作 黒須高嶺・絵
『鉱物・宝石の科学 七つの石の物語』小手鞠るい・作 サトウユカ・絵
『宇宙の未来 パパが宇宙へ行くなんて!』松素めぐり・作 木村いこ・絵
『恐竜 恐竜の町で見つけたこと』松原秀行・作 梶山直美・絵
『危険生物 ひょうたん池の怪魚?』赤羽じゅんこ・作 ウラケン・ボルボックス・絵

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます