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一点をボーッと見るだけ! 毎日のストレス解消に最適「ブレインスポッティング」

2023.01.13
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問題は日常のストレスという人へ

50歳を超えて体に無理が利(き)かなくなった。気持ちに体がついてこなくなると、今度は気持ちが弱くなる。気はふさぐし、なにかに常に急き立てられているようで落ち着かない。
さらに睡眠の質の低下が追い打ちをかける。噂の乳飲料も飲んでみたが眠りの浅さは変わらず、毎朝5時には目が覚める。布団のなかで必死に眠りのしっぽを捕まえようとしても、頭では心配事がグルグル? グルグル?

この本のタイトルは、『一点をボーッと見るだけ! 脳からトラウマを消す技術』となっています。
トラウマと聞くと、生死に関わる心的外傷やPTSDなど、心の大きな傷をイメージするかもしれませんが、ここではもっと広く捉えてこの言葉が使われています。たとえば、上司に叱られた、部下と言い合いになった、まわりからの疎外感、自分がどう思われているか気になる……。このような日常的なストレスからくる心身の変化は「ストレス反応」と呼ばれ、時間が経てば自然に消えるものとされています。このようなストレス反応も「日常のトラウマ」と呼び、ケアの対象とされているのです。

さて私はといいますと、年々ストレス反応が消えるまでの時間が長くなっていて、それが毎朝のグルグル案件になっています。これを積極的に解消していきたい! ならば、実行するしかありません! いざ、ボーッと一点を見るぞ!

この本で紹介するのは、心の傷を癒やすために考案された新しいメンタル・ケアの手法です。その名も「ブレインスポッティング(Brainspotting)」。長いので、本書では略して「BSP」と呼びましょう。

「トラウマを克服したい」と思っているあなたがBSPで行うことは、「一点(スポット)を何分間かボーッと見続ける」だけ。実にシンプルです。シンプルですから、自宅にいながらひとりで行うこともできます。
見続けるべきスポットは、人により、克服したいトラウマの内容により異なりますが、それにしても、なぜ、「見る」だけで心の傷が癒やされるのでしょうか。
ものすごく手短に書くと、
そのスポットを見ているとき、脳はトラウマ処理に最適の状態を維持できるから
だと考えられています。

さまざまなストレスに対して、BSPを行ったことで効果が得られた症例が、漫画などでわかりやすく紹介されています。ここまで読んで、正直「ちょっと、簡単すぎやしませんか?」と思いました。なぜなら、悩みを抱えたクライエントとカウンセラーがやっていることは、

・クライエントと解決したい問題について話す
・指示棒を使って一点を見続けてもらう
・クライエントの様子を見ながら、ときどき言葉をかける

だけなのです。

しかし、脳というやつは意外にコントロールが利くものです。集中力を高めるときに決まったルーティンを行う人もいるし、やりたくない仕事に取りかかるときに気分をアゲる方法ならば、誰でもひとつふたつあるのでは。そこで、シンプルだから疑うのではなく、シンプルだからやってみるぐらいの気持ちに切り替えます。
しかも、カウンセラーがいなくても、ひとりでBSPはできるとあります。これは「セルフ・スポッティング」とよばれ、以下の手順で行います。

さっそくやってみました。

「あ、ラクかも」の状態になると、かなり救われる

実施時間は15から20分程度で、「嫌な感じが十分軽減した」と思えるまで続けるとのこと。
環境を整えて準備する
家族が出はらった家の仕事部屋。寒くも暖かくもないくらいに室温を設定し、机の上を片付け、パソコンもオフ。

ストレスの度合いを数値化する
とありますが、アンケートがあるわけでもなく、自分の主観で判断します。本で示されている指標も、この程度の感じです。私のストレスの度合いは「9」くらいかな(仕事が溜まっているし)。

❸バイオラテラル音楽をかける
「バイオラテラル音楽ってなに?」と思いましたが、本の巻末にあるQRコードを読み取って流してみると、ごく普通のイージーリスニング曲。イヤホンで聴くと、ギターの音が左右に動いている(揺らいでいる?)ように聞こえます。

❹身体のリソースを見つける
とありますが、具体的には、身体に意識を向けて、皮膚や内臓などになにか感じる場所を探す。腕や背中、お腹に「あたたかい感じ」や「落ち着いた感じ」がある場合もあるし、「肩が張る」「胸が押し付けられる」といった場合もあるようですが、そのなかからなんとなく気持ちがいい、力強い、苦痛がない場所を決めます。そう言われても「どこが正しいのやら……」と、とまどいました。とりあえず、そのとき手のひらが熱かったので、手のひらに決めました。この場所を「身体のリソース」というそうです。

身体のリソースが強く感じられるスポットを見つける
一番大事なのが、ボーッと見るスポットを探すこの工程です。視線をイラストのように移動させます。コツは視線を水平(もしくは垂直)に保ちながら眼球を動かし、「左→中央→右(もしくは上→正面→下)」と動かし、「身体のリソース」を感じる部分を探すのです。私はすぐに手のひらがジワっとする感覚があり、比較的簡単にスポットを見つけました。右側の中央、少し外めです。

スポットを眺めながら内面を観察する
じっと見続ける、といってもまばたきしてもいいし、眼球を動かさなければ目をつぶってもいいそうです。
そこからは無心……、といっても頭の中にはいろいろ浮かびます。貯金や手付かずの仕事、子どもの成績……。しかし、それをちょっと俯瞰(ふかん)する気持ちで、スポットを見続けます。私は、そこから15分くらいで終わりにしました。

終えてみると「スッキリ!」「気分爽快!」という感じではありません。サウナで「整ったぁ!」みたいな感覚を予想していたのですが、それとは異なります。あくまで「あ、ラクかも」という感覚です。「なにも手につかない」という状態から「さぁ、はじめよか」という気分、❷で「9」あったところが、「2」ぐらいになりました。ただし、これはあくまで私の感覚で、感じ方は人によって異なると思います。

なぜBSPによりトラウマを消すことができるのか? その解説にも多くページが割かれていますが、なかでも心身が元に戻ろうとする機能「ホメオスタシス(恒常性)」によるものとする説明が、興味深く感じました。そもそも人間が体に備えている機能を、効率的に引き出す手法としてBSPを捉えるといいのかもしれません。
また、セルフ・スポッティングを行ううえでの注意点、うまくいかない、感覚的な部分がよくわからないという場合のチェックポイント、アドバイスがたいへんわかりやすく書かれています。

ただ、本書でも注意喚起されていることですが、このセルフ・スポッティングを行うにあたっては、私のような「日常のトラウマ」レベルにとどめておくこと。心に大きな傷を残す深刻なトラウマの場合は、専門のカウンセラーに頼るべきで、その診療方法のひとつとしてBSPも選択肢として考えたほうがいいでしょう。

  • 電子あり
『一点をボーッと見るだけ! 脳からトラウマを消す技術』書影
著:鈴木 孝信

★★★一点をボーッと見るだけで、心の痛みがスーッとひいていく!★★★
魔法のような心理療法「ブレインスポッティング」。
一点を見るだけでいいから、一人でもできる!
トラウマ克服、ストレス解消に最適な新療法のすべてがわかる、初の一般向け入門書がここに。
* * * * *
つらい体験、苦しかった過去がふと思い出されて、苦しくなる……。
今日いやなことがあった。なかなか立ち直れない……。
人の心は、人生のなかで遭遇する大事件や、日々経験する摩擦で傷つき、疲れていきます。
本書は、そんな「トラウマ」を負ったすべての人におすすめです。

「ブレインスポッティング」は、見る位置と脳の働き方が密接に関係することを利用した心理療法です。
2003年にアメリカで開発され、世界中に急速に広まりました。

方法は非常に簡単。「ある一点を、しばらくの間ぼーっと見つめ続ける」だけ。
それだけで感じているストレスが大きく軽減され、トラウマが消えてしまったかのように元気になる人も!
実例とともに、本書で詳しい方法を解説します!

【本書で紹介されている著効例(一部)】
●10年苦しんだ「うつ」を克服した
●交通事故のトラウマから立ち直った
●日々のストレスが驚くほど減った   ほか

【おもな内容】
●新しい心理療法「BSP」とはどのようなものか
●そもそも、トラウマとは何か?
●なぜ「見る」だけでトラウマが克服できるのか
●恐れず、冷静でいられればトラウマは克服できる
●セルフ・スポッティング 一人でもできるBSP ほか

【著者】鈴木孝信(すずき・たかのぶ)
1979年、東京都生まれ。公認心理師、東京多摩ネット心理相談室代表。
米国ケンタッキー州立大学で心理学と哲学を、マサチューセッツ州立大学でカウンセリング学を修め、2022年にアダムス州立大学で博士号を取得(カウンセラー教育学)。
自身の相談室のほか、都内のクリニックや大学で心理士としてカウンセリングに携わる。
トラウマの心理療法「ブレインスポッティング」の国際トレーナーであり、
BTI-J(ブレインスポッティング・トレーニング・インスティテュート日本)の代表。
パニック障害完治を目指すレニハン認知療法やマインドフルネスの実践者でもある。
著書・翻訳書多数。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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