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地球温暖化予測、気候変動の解明に迫る! ノーベル物理学賞受賞・真鍋博士の研究を解説
(著:真鍋 淑郎/アンソニー・J・ブロッコリー 監訳:阿部 彩子/増田 耕一 訳:宮本 寿代)
今年の梅雨明けは衝撃だった。晴れわたった空に、強烈な日差し。それは確かに見慣れた夏の光景だったが、6月にしては早すぎて、自分の目が信じられなかった。これまでに体験してきた季節感から、あまりにも遠すぎる。私と同じように戸惑う人々を映すニュースを眺めながら、いったい何が起きているのだろうと、つい考えこんでしまった。
とはいえ近年、「異常気象」といわれる事象は増えつつある。ゲリラ豪雨、大規模な洪水、急な豪雪、35度を超えるような連日の猛暑など、枚挙にいとまがない。おそらく今年の梅雨明けも、その1つに当たるのだろう。はたして、これはいつ頃から起きている現象なのか。そしてこれから、どうなっていくのだろう──。
本書はプリンストン大学上級気象研究者であり、2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏と、ラトガース大学環境科学部環境・生物科学科特別教授のアンソニー・J・ブロッコリー氏による共著である。左開きで横書きの造本からもわかる通り、元は英語で書かれた1冊で、2020年に『Beyond Global Warming』というタイトルで出版された。本書はその邦訳に当たる。内容については少し長くなるが、「監訳者あとがき」のことばを借りてご紹介したい。
本書は、真鍋先生の主要な業績の意義を現在の視点で確認しながら、気候モデルによる研究スタイルを紹介し、地球温暖化の基本的な仕組みを論じた本である。原題『Beyond Global Warming』の「Beyond」には、「地球温暖化の予測だけでなく、その基礎となる気候システムの仕組みの理解を目指す」という研究姿勢が表れている。
そうして執筆された原著は、執筆から完成までに15年もの時間を要したそうだ。 特に苦心したのは、「『地表も大気もなぜ温暖化するか?」という本書の根幹となる説明」だったという。本書では全10章を通じて、真鍋氏のそうした思考と研究の成果が、年代順に展開されている。
正直に言えば、私にとってはかなり高度な内容だった。それでも面白く感じたのは第2章で、先人たちによる初期の研究が紹介されている。世界で初めて大気の温室効果の存在を予想したのは、ジャン・バティスト・フーリエ。「フーリエの法則」でも知られる、高名な数理物理学者だ。彼は1824年と1827年に小論を発表した。その中で、スイスの科学者、オラス=ベネディクト・ド・ソシュールが手掛けた実験に触れ、大気の温室効果の存在を正しく推測したという。およそ200年も前に、今へとつながる研究の芽が出始めていたとは! 思っていたよりもかなり早い。
その後、地球環境に影響を与える大気の成分を特定し、地球に与える効果の違いを気体ごとに評価したのは、アイルランドの物理学者、ジョン・ティンダル。彼は1859年と1861年に論文を発表し、以下の結論へと至る。
窒素や酸素などの主要気体成分は長波放射を吸収しないが、水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、オゾンといった主要成分とはいえない気体成分が長波放射を吸収・射出し、温室効果を発揮するのだ、とティンダルは結論づけた。さらに、こうした吸収作用のある気体のうち、大気中で何よりも強い吸収力を持つのが水蒸気であり、それに続くのが二酸化酸素であることを見出した。水蒸気と二酸化炭素は地表の気温を支配するもっとも主要な気体ということになる。
約160年前に「二酸化炭素が増えると地球は暖かくなる」という事実がわかっていた、ということは感慨深い。そこから実際に「二酸化炭素の排出量を減らさないとマズイ」という現在の流れになるまで、なんと時間がかかったことか。人間の賢さと欲深さをいっぺんに見ている気がする。
そして19世紀末、スウェーデンの科学者、スヴェンテ・アレニウスは大気中の二酸化炭素濃度の変化が、大規模な気候変化を引きおこす可能性について論文を発表した。彼が手掛けた研究と気候モデルは、その後の実験や解析にも大きな影響を与えた。その流れの先で真鍋氏の研究は、このように位置づけられている。
真鍋先生は、大気・海洋・陸面・雪氷などが相互作用する気候システムという複雑系について、エネルギー保存則をはじめとする基本的な物理法則に基づいた気候モデルを世界で初めて開発し、それによって「数値実験」を行う研究のスタイルを開拓した。そのいちばんの核になるものが、「放射」と鉛直方向の空気が混ざる「対流」の組み合わされた熱バランスを考慮に入れた1960年代の仕事にある。
気候変動を研究してきた者たちにとってその研究は、未来を予測することであると共に、地球がどう成り立ち、今に至ったかを知る過去への旅でもあった。その足跡を、本書を通して追ってみてほしい。
- 電子あり
地球温暖化、そして「気候変動」は、どうすれば解明することができるのか?
2021年、ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎博士。
この受賞は、「気候システム」という複雑系の物理分野に贈られた初のノーベル賞でもありました。
その「気候システム」という遠大な謎への挑戦が、本書では詳細に語られます。
真鍋先生が初期の研究で用いた大気層を18層に区分、その放射・対流を計算する「1次元鉛直モデル」からはじまり、成層圏までを、さらに雲による太陽放射の反射率の変化、陸上と海上の違い、極域での氷の面積の変化、緯度・経度による変動や季節要因による変化。さらには、海洋の対流による深層への熱の移動、そして土壌や河川における水の移動まで、2万年前の古気候を再現するというプロジェクトから始まった気候システム解明への挑戦は、その努力によって精緻なシミレーションを可能としました。
この研究の成果は、非常に高い精度で「地球温暖化」の予測を可能にしていることも知られています。
シミュレーションの中で、CO2の濃度を変化させていったときに、どのような結果が表れるのか。
その結果は、カラーの図とともに本書の随所でていねいに解説されています。
地球温暖化とはなにか? それは、どう考えるべきものなのか?
いま大きな科学、社会的な関心事でもある地球温暖化についても、深い理解を得ることができます。
本書は、プリンストン大学での真鍋博士の講義をもとに構成されています。
また、本書の監訳を担当した、増田耕一博士、阿部彩子博士も、真鍋先生が1983年に東京大学で行った講義や、その講義録で学んだ研究者でもあります。
「気候システム」という大きな謎、そして地球温暖化という人類的な問題に挑む科学者の探求の軌跡として、21世紀を生きる私たちにとって必読の科学書の登場です。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。
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