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iPS細胞の研究で2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏と2021年11月に史上最年少で四冠を達成した藤井聡太氏。二人の偉才が、将棋、医学、AIなどあらゆる分野について語り合った。その対談が『挑戦 常識のブレーキをはずせ』という一冊の本となって刊行された。人生と格闘し努力し続けるすべての人へのメッセージとなる本書から、第4章(「負けから学ぶ」)の一部を抜粋、再構成してお届けする。
負けから学ぶ
山中 藤井さんは勝った喜びと負けた悔しさと、どっちのほうが印象に残るタイプですか?
藤井 やはり負けた将棋のほうが、印象に残っていることが多いと思います。負けた将棋でいちばん気になるのは、いつ形勢が傾いたか、初めて形勢が傾いたポイントのところです。
山中 「形勢が動いた」というのは、優劣がついたということですか?
藤井 ええ、そうですね。自分が負けてしまった将棋を振り返ると、自分が対局でミスをするのは、中盤で駒がぶつかる辺りと、あと中盤から終盤にさしかかる入り口の局面で相手に後れを取ってしまうような展開が多かったと思っています。ですから、そこの判断を改善するのが一つの課題です。
山中 やっぱり負けたところから、どれだけ学べるかにかかってますよね。僕たち研究者も思い通りにいかなかった実験、予想外の実験をどれだけ大切にできるか。たとえ予想と違っても、結果をどれだけちゃんと記録して、ちゃんと解析もするか。そこから本当に思いがけないことにつながりますから。
自分との闘い
(左)山中伸弥氏 (右)藤井聡太氏
山中 対戦相手によって戦術を変えるということはないんですか?
藤井 もちろん、対局ごとに、ある程度の戦型を想定して臨んでいるんですが、相手に合わせて研究するというよりは、ふだんから自分用の定跡を整備しているので、一局ごとに特定の戦型を掘り下げるということは、あまりしていません。
山中 今の目標はあるんですか?
藤井 自分は具体的な目標はあまり立てないほうで、というか、今まで立ててなかったんですけど。単純に強くなりたい、最善に近づく、というのが理想です。
山中 対戦する相手によって心の持ち方って変わるものですか。たとえば羽生善治さんだと、人柄は温厚だと思いますが、将棋となると対局していて怖く感じることはありませんか?
藤井 いえ、対局が始まってしまえば、その相手が誰であろうと自分は気になりません。やはりどのような状況でも、落ち着いて自分の力を出せるというのが非常に大事なことなので。やっぱり平常心でその局面一つ一つ、最善を追求していくことが、結果的にも勝ちにつながることかなと思っています。
山中 対局前に緊張して眠れないということもない?
藤井 それはありません。対局前でも7時間、十分寝ています。むしろ対局後のほうが難しいです。二日制の場合、一日目の夜は対局の前より眠れないことが多いので、そこは自分として課題かなと感じています。
山中 大事なのは、プレッシャーを感じながら、自分のメンタルを自分でマネジメントできるかどうかですよね。 対局をしていたら、悪い手は誰でも指すと思うんです。一手が一手で済んだらいいんですけど、一手のミスが三手にも五手にも連鎖反応でつながっていくこともありますよね。
藤井 悪手を指したと思ったら、完全に切り替えるというのは、やっぱりなかなか難しいなと感じます。悪手には対局中に気づくものと、対局後に振り返って気づくものの二つがあるんですが、自分の場合、対局中に気づいた時はやっぱり精神的にかなり落ち込みます。でも対局中に以前の局面を考えるというのはマイナスにしかならないので、ぱっと切り替えて、今の局面における最善手を探すようにしています。
三十手先を読む
(左)山中伸弥氏 (右)藤井聡太氏
山中 藤井さんは指し手だと、どれくらい先を読むんですか?
藤井 局面によって、読みが重視される局面、あるいは正確な形勢判断が要求される局面と、いろいろあるんですけど。いちばん読みが重視されるのは終盤です。場合によっては三十手先を読まなければなりません。
山中 三十手! すごいですね。頭の中でどんなふうに駒が動いているのか。いや、藤井さんの脳を見たいなぁ。
藤井 ははは(笑)。いや、頭の中では盤上で駒を動かしているわけではありません。イメージとしてはあっても、はっきりと画像が映っているわけではないです。
山中 NHKの番組でやってたんですが、アインシュタインの脳の断片を集めてCGで脳を再現したら、明らかに普通の人より大きくてシワの数も多い。脳から見ても本当に天才だったんですね。藤井さんもそうなんじゃないですか。
藤井 いえいえ。アインシュタインはもうハードウエアから違っていたということですね。
山中 藤井さんの脳と羽生さんの脳を比べたら、どちらがシワの数が多いでしょうね(笑)。でも脳のシワの数で、どちらが強いか予測できたら全然面白くないね。僕はだから絶対、自分の脳を調べてほしくないですね。「普通よりも一本少ない」とか言われたら、めっちゃ恥ずかしい(笑)。
1962年生まれ。医師、医学者。京都大学iPS細胞研究所所長・教授。カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所上席研究員。文化勲章受章者。「成熟細胞が初期化され多能性を獲得しうることの発見」により、2012年のノーベル生理学・医学賞をジョン・ガードン氏と共同受賞した。
2002年生まれ。将棋棋士。2016年に史上最年少(14歳2ヵ月)で四段昇段・プロ入り。そこから無敗のまま公式戦最多連勝記録(29連勝)を樹立。その後、最年少一般棋戦優勝・タイトル獲得、史上初の10代九段・二冠・三冠・四冠など多くの最年少記録を更新している。杉本昌隆八段門下。
- 電子あり
藤井聡太、史上初、10代四冠達成! 「iPS細胞という新技術をいかに多くの患者に届けるか」をミッションとする研究者。「数字・記録よりも、自分自身としてどこまでも強くなりたい」と語る棋士。
研究者と棋士。分野は違っていても、過酷な競争の世界で最前線で前人未到の挑戦を続けるふたり。彼らの日常の準備、学び方、メンタルの持ち方、AIとの向き合い方……。
日々努力を続けるすべての人へ贈るメッセージ。
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