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武者小路千家次期家元が興福寺中金堂の「献茶の儀」で使用した茶道具を初公開
■初公開! 天平の空間を再現した献茶道具
参列者は13,000人!
奈良・興福寺中金堂(ちゅうこんどう)の落慶法要が営まれたのは平成30年10月のこと。300年ぶりに荘厳な中金堂創建当初の姿が蘇り、落慶法要が5日間にわたって執り行われました。ここで御仏にお茶を献じる「献茶の儀」に挑んだのが、『茶のある暮らし 千宗屋のインスタ歳時記』の著者である、武者小路千家家元後嗣の千宗屋(せん・そうおく)さん。
延べ13,000人の参列者が、遥かに仰ぎ見るだけだった法要の献茶道具が、この秋、名古屋市千種区の古川美術館分館為三郎(ためさぶろう)記念館で初めて一般公開されることになりました。
中金堂の朱塗りの柱に映える及台子(きゅうだいす)と道具組。
「あんたの好きなようにしたらいい」
ひとりの茶人が5日間連続で奉仕するのはまさに前代未聞。当時の興福寺貫主・多川俊映師より「直々に」しかし「立場は度外視して」、「好きなように」していいと依頼された宗屋さんは、日頃信頼をおく新進気鋭の作家による、すべて新調された道具によって献茶に挑んだのです。
伝統を継承する一方で、今に生きる茶人として国内外でも注目を集める宗屋さん。まさに今の茶の湯の担い手として、時として「利休再来」と称される宗屋さんのプロデュース力によって整えられた、若手作家によるエネルギー溢れる洗練された世界でした。
連日、濃茶と薄茶の二碗が、御本尊に捧げられた。
塗師(ぬし)赤木明登作の茶器、天目台。「白瑠璃碗」は津田清和作。「奈良三彩」の茶碗は加藤亮太郎。神代欅(じんだいけやき)製の台子(だいす)は佃眞吾作。釜、風炉、南鐐製の水指などの作者は長谷川清吉。
茶道具以外での造形活動も展開する活躍目覚ましい若手作家たちの、しかし天平の心を宿した道具によって、献茶の儀は奉じられました。3年半にも及ぶ準備、そしてそれ以上に長い宗屋さんと作家たちとの繋がりによって生まれたものでした。
緑あふれる空間で今に生きる茶の湯展「茶―祈りと楽しみ」
興福寺献茶道具が公開される展覧会の会場は、名古屋市の閑静な住宅街にある邸宅美術館。ヘラルドグループ創業者・古川為三郎の収集品を展示する「古川美術館」の分館として公開されている、為三郎が住んだ数寄屋造りの日本家屋「為三郎記念館」です。日本庭園を眺めながら抹茶と和菓子を楽しめる(有料)など、普段から「茶の楽しみ」を味わえる空間ですが、今回は「武者小路千家―官休庵」そして「官休庵と名古屋」など多彩な展示で、「千宗屋好み―興福寺中金堂献茶道具初公開」の世界の理解がより深くなる構成です。
会期:2019年10月19日(土)〜12月8日(日)
休館日:月曜日 ただし11月4日(月・振休)は開館、翌日休館
古川美術館 分館為三郎記念館
http://www.furukawa-museum.or.jp/memorial
〒464-0066 名古屋市千種区池下町2-50
『茶のある暮らし 千宗屋のインスタ歳時記』には、赤木明登さんの「青海盆」(左ページ)や加藤亮太郎の「紅志野茶碗」(右ページ右下)などの作品が登場します。日々の稽古や暮らしのなかで、宗屋さんの審美眼に適った作品です。
『茶のある暮らし』p.36-37
出典元:https://kurashinohon.jp/1144.html
写真提供:古川美術館分館爲三郎記念館
1975年、京都府生まれ。武者小路千家家元後嗣。斎号は隨縁斎。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学大学院前期博士課程修了(中世日本絵画史)。2003年、武者小路千家十五代次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名。08年には文化庁文化交流使としてアメリカ・ニューヨークに一年間滞在。現在、慶應義塾大学総合政策学部特任准教授、明治学院大学にて非常勤講師も務める。17年にはキュレーターとしてMOA美術館にて「茶の湯の美」をテーマに展覧会を行った。古美術から現代アートにいたるまで造詣が深い。著書に『茶―利休と今をつなぐ』(2010)、『もしも利休があなたを招いたら』(2011)ほか。
『茶のある暮らし 千宗屋のインスタ歳時記』のほか、料理、美容・健康、ファッション情報など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。
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