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ビットコインと違う! 新しいセキュリティ「ブロックチェーン」はなぜ不正できない?

2019.02.15
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●ブロックチェーンとビットコインは違う

本書は、「ブロックチェーン」についてわかりやすく述べた本です。ブロックチェーンはビットコイン(暗号通貨)との関わりで語られることが多くなっていますが、両者は異なるものです。本書はこう述べています。

ビットコインとブロックチェーンは違う、ということ。ブロックチェーンはビットコインを構成している基盤技術だが、使いようによっては他の分野に転用がきくこと。(人によっては)世界を変えるとまで言われているが、そんなに万能のしくみなのか、という疑問。こういったことは、その技術を知ることで答えが出る。

この言にしたがい、本書はまず、ブロックチェーンのしくみにせまっていきます。最初に説明されるのは、ブロックチェーンを構成する「ハッシュ関数」という技術です。
ハッシュ関数はPCを持っていれば、誰でも簡単に扱うことができます。ソフトをインストールしたり、インターネットに接続したりする必要はありません。PCにはじめから備わっているのです。

本書は作業することでハッシュ関数についての理解を深めます。これは本書ならではの優れた方法であると言えるでしょう。千万言を費やすよりも、実際にやってみた方が深く理解できる。ここに著者ならではの確信があります。事実、この本を参考にハッシュ関数を少しいじってみただけで、ブロックチェーンという新しい技術が、とても身近に感じられるようになるのです。


●ハッシュとはなにか

ハッシュとはデータの圧縮技術です。どんなものか簡単に紹介しましょう。

日本文学最大のロングセラー、夏目漱石『こころ』はこんな一節ではじまっています。

私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。

この文章をハッシュ関数にかけると、こんな値になります。

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さらに、漱石さんには悪いが、いくつかの漢字をひらがなに直し、現代人にも読みやすいものに変えてハッシュ値を出してみましょう。

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文字を少し変更しただけ(声に出して読めば変わらない)なのに、ハッシュ値がまったく異なったものになっていることがわかります。

『こころ』全文のハッシュ値を出すこともできます。次のようなものです。

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これだけで、ハッシュ関数の大きな特徴は示されています。

・長い文章も、コンパクトにできる
・文をすこし変えると、まったく別のハッシュ値になる

さらに、次の特徴がブロックチェーンを成立させました。

・非可逆圧縮である

非可逆圧縮とは、「元に戻せない」ということです。上の数字アルファベットまじりの文字列(16進数)は『こころ』から作成したものですが、文字列から『こころ』を作ることはできません。

●ブロックチェーンは「不信」に立脚している

ブロックチェーンとは、これらのハッシュの特性を使い、あるアクティヴィティ(取引の場合は金銭のやりとり)を記録し、その記録を数珠つなぎにつなげたものです。基盤となっているのはハッシュ関数ですから、書き換えができません。少しでも書き換えるとハッシュ値がまったく異なるものになり、すぐにわかります。

これを通貨に応用したのが暗号通貨です。
たとえば、実際は1万円の取引しかしていないのに、3万円の取引をしたことにすれば、さまざまなメリットを得ることができます。「取引記録の改竄ができたらなあ」と考えたことのある人もいるはずです。
しかし、暗号通貨でこれはできません。ひとつの値を変えるためには、過去のすべての取引のデータを変えないと、辻褄が合わなくなってしまうからです。労力的に、そして経済的に、データを書き換えることは不可能です。

また、国際取引をしていれば、こんな疑惑からも逃れることができないでしょう。
「このお金、大丈夫かな?」
日本では円という安定した通貨が使われていますからあまり実感できませんが、お金はそれを発行し流通させている国が危うくなると成立しなくなります。今は1万円札を持っていればそれなりに買い物できますけれども、お金の価値が極端に下がれば、1万円では何も買えなくなります。
そんなことが起こるのかって? 起こり得ます。たとえば、ジンバブエでは国が発行するお金がすべて価値を失ってしまいました。同じことが日本で起こる可能性も、ないわけではありません。

本書のサブタイトルは「相互不信が実現する新しいセキュリティ」です。不信とは主に「お金や国にたいする不信」「人間がつくる(取引)記録にたいする不信」です。信用できないものに囲まれているからこそ、ブロックチェーンという技術が発達したとも言えるでしょう。

ただし、本書が指摘するとおり、暗号通貨は万能の技術ではありません。従来の通貨よりも優れた点はむろんあるが、劣っている部分も多くあります。本書では、そんな「暗号通貨(ブロックチェーン)の弱点」についてもふれられています。
重要な側面ですが、あまり述べられることはありません。具体的な実例(事件)がないため、誰にもわかるように述べるのが難しいためです。

しかし、本書の読者になら伝えることができます。ハッシュ関数を実際にいじり、ブロックチェーンのしくみについて、ある程度の理解ができているからです。しくみがわかっていれば、できることもできないことも生じてくる問題もわかります。
言ってみれば本書は、「不信」によって生まれたシステムを、「信頼」によって説明した本であると言うことができるでしょう。

  • 電子あり
『ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ』書影
著:岡嶋 裕史

なぜ不正できないのか?
暗号資産(仮想通貨)との関係は?
どこまで応用できるのか?

参加者が誰もお互いを信用し合っていないからこそ、正確な計算結果が世界中で未来永劫保存される──。

暗号通貨(仮想通貨)ビットコインを支える仕組みとして登場したブロックチェーンは、かつてのインターネットのように新たなインフラへと育ちつつある。その本質は、構造はどうなっているのか?

社会を一変させる可能性を秘めた新技術の根幹と限界を見きわめるべく技術解説書のトップ著者が挑んだ、「これ1冊で網羅できる」ブロックチェーンの決定版入門書!

【目次】
第1章 なぜ社会現象になったのか
第2章 特定の値を導く「ハッシュ」
第3章 さまざまな事象への「ハッシュ」の応用
第4章 不正できない構造が連鎖していくしくみ
第5章 ブロックチェーンが抱える課題と他分野への転用
終章 最初の理念が骨抜きにされると、普及が始まる

〈「あとがき」より抜粋〉
ブロックチェーンが社会に浸透するにつれて、「初期の理想」とは違う方向へ技術が書き換えられ、運用の方法に変更が加えられていくだろう。
技術を理解し、使いこなそうとするとき、最初の印象を引きずり続けないこと、変化に柔軟に対応していくことはとても重要である。
本書は、思想に左右されない技術の核心部分を捉えられるように構成した。読者の学びの一助になれば幸いである。

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 』(講談社)。2013年より身体障害者。 1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。https://hon-yak.net/

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