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暗号通貨(仮想通貨)はいかにして「お金」になるのか。【21世紀の貨幣論】
(著:小島 寛之)
本書は、ビットコインに代表される暗号通貨(仮想通貨)の特色を簡略に述べたものです。ただし、そのしくみだけに着目しているのではありません。『暗号通貨の経済学』というタイトルどおり、本書は暗号通貨の経済的側面に重点を置いて述べられています。暗号通貨に関する書物は数々出版されていますが、ここに着目した書物はすくなく、本書は貴重かつ重要な情報をもたらしてくれます。著者は経済学者です。
暗号通貨はなぜ「お金」と認識されるのか。それを述べるために、著者は「お金」というものの性質について、かなりの分量を割いて論述しています。
お金をお金たらしめるのは、「みんながお金を利用するから、自分もそうする」という「しがらみ」状態です。これは、集団的な振る舞いであって、個人の判断だけでは実現できません。つまり、お金がお金の機能を果たすには、ある意味で「みんながよってたかって支える」ことが必要なのです。これは公共性に他なりません。
お金ってとってもミョーなものです。たとえば1万円札。1万円札は1万円のモノと交換可能とされていますが、あんな紙切れに1万円の価値があるはずがありません。原価は数十円といわれています。つまり、数十円の紙切れに「1万円の価値がある」と信じ込ませて流通させているのです。
この信用を与えているのが、国です。円の場合は日本です。海外旅行を経験した方ならご存じでしょう。ほとんどの場合、円は日本の外では価値を持ちません。日本が与えた「信用」がなくなるためです。1万円札は本来の「紙切れ」という本質をあらわにしてしまいます。外国に行くと両替しなくてはならないのはそのためです。
つまり、なんらかの通貨を使うことは、その通貨を発行している国を介在させることでした。暗号通貨はこれを解消しました。これが「暗号通貨は非中央集権である」といわれるゆえんです。
国って、すごくあいまいなものです。四方を海にかこまれた日本ではあまり実感できませんが、大陸には国境線というものがあります。道路のこっち側はA国であっち側はB国、この線からは公用言語も通貨も変わりますよ。そういう「線」があちこちにあるのです。
こことそこは地続きじゃないか。気候も気温も湿度も海抜も変わらないじゃないか。農作物も植生も一緒、自然が与えた条件はまったく同じなんだ。なのに、政治システムも経済システムもちがうって、おかしいだろ!
まさに正論ですが、その正論は通用しません。国境線とはそういうものです。
しかもこの「線」、人為的なものですから、しょっちゅう変わります。夏目漱石が樺太に中学校の校長をしている同級生がいる、と書き残しています。樺太は当時、日本領だったので、公務員たる先生は樺太に赴任することもあったのです。当然、樺太では日本の通貨が使われていました。
漱石の時代はそうだったのですが、今、樺太に1万円札を持っていっても、何それといわれるだけでしょう。樺太は日本が円に与えた「信用」が通用しない場所になったからです。
どちらの例もまったくくだらねえと思います。人が決めたルール、しかも自分の都合ではなくしょっちゅう変わるルール。それってどうなのよ。囲碁将棋やトランプゲームのルールのほうがずっと長生きだし、しっかりしてるよ。
かといって、従来はそれに唯々諾々としたがうほか方法はなかったのです。
暗号通貨はそれを解消してくれました。人を自由にしたのです。これが希望の技術でなくてなんだろう!
しかし、本書を読むことで、こんな感慨も生まれました。
お金には、取引に使われる以外に重要な役割がある。そのひとつが、景気のコントロールだ。現状では、暗号通貨にその役割を果たすことは難しいのではないか。
お金ってなんだろう。国ってなんだろう。
本書は、暗号通貨をきっかけに、そんな根本的問題を考える機会を与えてくれる良書であります。
- 電子あり
「お金とは何か」から暗号通貨を捉え直し、ブロックチェーンの可能性をゲーム理論で追究する。ビットコイン、イーサリアム、リップル……暗号通貨(仮想通貨)はいかにして「お金」になるのか。
技術・経済・社会の大転換期、この革命的な技術が世界をどう変えるのか、総合的に把握するための1冊。
暗号学×経済学=暗号経済学の誕生。
ナンダ、そういうことだったのか!
◎RSA暗号・楕円曲線暗号解説も収録。
*
第1部では、ビットコインを始めとする暗号通貨の基礎となるブロックチェーンの仕組みの要点を、数式など使わずにわかりやすく解説します。
ブロックチェーンという革新的な暗号技術は、世界をどう変えていくのか? オープンソースとプロプライエタリ、中央集権と分散化といったブロックチェーンが提起する哲学的な意味、そして通貨以外でのインパクトについても言及します。
第2部では、「お金とはなにか」を考えます。
価格の乱高下やセキュリティ問題など、いまだ暗号通貨を疑問視する声も強いのが現状ですが、これまで経済学が培ってきた貨幣理論を参照しながら、暗号通貨はいかにして「お金」たり得るのかを見ていきます。価格が安定する時とはすなわち、暗号通貨が「お金」になる時といえるでしょう。お金とはなにかという見識は、投資にも役立つかもしれません。
第3部は、ゲーム理論でブロックチェーンを検討します。
人間の行動は不合理すぎ、理論通りにいかないことが指摘されるゲーム理論ですが、アルゴリズムであるブロックチェーンの世界では、理論のままに均衡が実現されることになります。「囚人のジレンマ」などのゲーム理論をざっくりとおさらいしつつ、新しい世界を垣間見る章です。
補章として、公開鍵暗号とハッシュ関数の原理について、本文では簡略化した詳細部分を解説します。「そういうことだったのか!」と膝を打つこと間違いなし。数理暗号として、有名なRSA暗号と楕円曲線暗号の両方に言及しています。
レビュアー
早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 』(講談社)。2013年より身体障害者。
1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。https://hon-yak.net/
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