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【住まいの終活】全国720万戸が空き家予備軍。あなたの家は大丈夫?

2019.01.21
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超高齢化社会を象徴するように「相続」を扱ったコマーシャルがテレビでさかんに流れています。書店でも相続を扱った書籍が並んでいます。相続のセミナーも目白押しです。そして相続の中でも住まい(不動産)はさまざまな問題をはらんでいます。不動産が「負動産」に化ける……そんなことが起こりうる日本になっています。


住宅過剰社会がはらむ危機

東京ではその近郊を含めていまだにマンションや一戸建て住居の建築ラッシュが続いています。もちろん東京だけではありません。大都市周辺では日本中どこでも同じ光景が見られます。これはまさしく、著者のいう「住宅過剰社会」そのものです。住宅過剰社会とは「世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げながら、大量に住宅をつくり続け」ている社会のことです。(『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』より)

都心への人口流入も続いています。考えてみれば少子高齢化社会日本の中で人口が増加し続けているエリアがあること自体が日本のいびつな社会環境をあらわしているのではないでしょうか。人口動態の変化と過剰な住宅供給がもたらすものは「空き家」の増大です。著書がいうように「焼畑的に広がる住居」はそのまま「焼畑的に広がる空き家」を生むもとになっています。

空き家といえばこんなニュースがありました。温泉地の別荘が1円で売り出されました。相続したものの、使うことはまれで、固定資産税をはじめとして維持費がかかるため売却。もちろん始めから1円ではなく数百万だったと思いますが、売却できず1円になったのです。(といっても購入した人はリフォーム費が別途必要だろうといっていました)

これはバブルの名残という側面もありますが、やはり空き家の行方を示しているように思います。またその一方で、都心の空き家の解体処分もニュースになりました。長く放置されていた空き家が倒壊の恐れもあり、公機関によって取り壊されたのです。これらの空き家の例は特別ではありません。

日本中で処分(売却や取り壊し・整地)が必要な空き家が増え続けています。都内でも「空き家予備軍」というべき家屋が増えています。(「空き家予備軍」というのは「高齢者のみの世帯が住む住宅」のことです)


高齢化社会は「空き家予備軍」を生む

まずこの本の「地方別の空き家予備軍率ランキング」を読んでください。「空き家予備軍」は東京都周辺で30%以上になっています。ちなみに東京都の品川区が横浜の栄区と並んで関東圏では第1位(32.2%)、練馬区(31.9%)、北区、(31.6%)の順となっています。

(地方別の戸建ての空き家予備軍率ランキング/総務省住宅・土地統計調査(2013年)をもとに作成)

予備軍が空き家となる大きな原因は「相続」のありかたです。

核家族化が進行した現代では、子供世代は実家を離れ、それぞれ自分の家をもっていることが多く、相続した実家に住むというケースは少なくなっています。就職や結婚などで、実家には戻らないと決めたときから、実家の空き家化は始まっているわけです。

また、相続しても実際には住むことはなく、適切な対策をすることなく保持したままにしておくと「荒廃空き家」となってしまいます。そして「安全・衛生・生活環境・景観など」の悪化など地域に悪影響を及ぼすようになってきます。


「不動産」ではなく「負動産」

「荒廃空き家」と見なされると「自治体から適正に管理するよう求められる」ことも起きてきます。

この連絡を受けても改善せず、地域住民の生命、財産、生活環境等に著しく影響を及ぼすおそれがある「特定空家等」と自治体から認定され、所有者等に対して勧告されると、土地の固定資産税の住宅用地としての軽減措置が適用されなくなり、固定資産税が3~4倍に跳ね上がります。もし、自治体から危険と判断され、行政代執行という方法で空き家を除却されると、その除却費用は所有者に請求されます。

では戸建てでなく分譲マンションはどうでしょうか? ところがマンションの空き部屋だとさらに「管理費や修繕積立金」が必要なため、「戸建てに比べて保有コストの負担が重い」ことになってしまいます。

いずれにせよ空き家の保持は不動産ではなく、著者のいう「負動産」になることが多いのです。

そこで著者がこの本で提案しているのが「住まいの終活」です。終活という言葉・行動は広く知られるようになりました。では「住まいの終活」とは何でしょうか? 著者はこう定義しています。

相続が発生する前から、所有者やその相続予定者が、住まいに関わる様々な情報を整理・共有し、相続発生後の選択肢を考え、そのために安心して相談できる人的なつながりをつくっておくなど、住まいを円滑に「責任ある所有者・利用者」へ引き継ぐための一連の活動

この住まいの終活の具体的な進め方は……
Step1住まいの思い出を整理しよう
Step2不動産をリスト化し、基礎資料を揃えよう
Step3不動産に関する情報を整理しよう
Step4まちに関する情報から民間市場での流通性を判断しよう
Step5住まいの終活のための選択肢と相続先を考えよう

これらの各Stepの内容チェックには巻末の「書き込み式 住まいのエンディングノート」がとても役立ちます。誰もが直面する「負動産化」を避けるために必要なことすべてがチェックできます。

このStep5でいう選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか。住まいの状態と「貸す」「売る」という心構えでどのようなことが考えられるかが一覧表になっています。選択の参考になります。

さらに空き家の「お試し賃貸」等を行っている「空き家コンシェルジュ」、空き家の再活性化を目指している「空き家バンク」や「安心R住宅」の活動も詳説されています。リバースモーゲージまで含めれば、「負動産」にさせない方法の考えられるすべてがこの本にあるといっていいでしょう。

「不動産」は大きな相続財産ではありますが、その分、大きな負債にもなりかねません。自分が住んでいる不動産、相続する(される)不動産を正しくその価値を知るためにも、「終活」の大きな1つとして考えてはどうでしょうか。極めて実践的な1冊です。

  • 電子あり
『老いた家 衰えぬ街 住まいを終活する』書影
著:野澤 千絵

大量相続時代の到来とともに、注目され続ける「空き家問題」。2033年には約3戸に1戸が空き家となる。今すでに戸建ての4軒に1軒が「空き家予備軍」となっているのだ。

そんなこれからの日本で、最重要課題となってくるのが、住まいを「終活」することである。子供世代にとって、実家を相続した瞬間から、空き家問題は始まっている。親世代は、自分の子供に、所有する家や土地の何をどのように伝えておけばよいのかを考えておかねばならない。

特別付録「書き込み式 住まいの終活(エンディング)ノート」に書き込みながら、あなたの住まいについて真剣に考えてみよう。

全国の「空き家予備軍率ランキング」も一挙公開! あなたの家は将来、本当に大丈夫ですか?

<主な内容>
第1章 国民病としての「問題先送り」症候群
1・「問題先送り空き家」の実態
2・誰のものかわからない戸建て、分譲マンション
3・「空き家予備軍」は大量に控えている

第2章 他人事では済まされない相続放棄
1・相続放棄というサイレントキラー
2・相続放棄空き家への対応には限界がある
3・老いた分譲マンションと相続放棄
4・不動産のままで国庫に帰属できるのか?

第3章 世界でも見られる人口減少という病
1・アメリカ・ドイツ・韓国の人口減少都市
2・デトロイト市ランドバンクの取り組み
3・人口減少都市の土地利用転換に向けて

第4章 空き家を救う支援の現場から
1・住まいのトリアージとは何か
2・空き家バンクの最前線―島根県江津市の尽力
3・売り手支援の最前線―マッチングサイトの仕組み
4・空き家解体支援の最前線―和歌山県田辺市の先進性

第5章 さあ、「住まいの終活」を始めよう
1・住まいの終活、その手順
2・民間市場で流通性がある戸建ての選択肢
3・民間市場で流通性が低い戸建ての選択肢
4・分譲マンションの選択肢
5・「住まいの終活」への支援策の提言

特別付録 書き込み式「住まいの終活(エンディング)ノート」 (←ミシン目から切り取って保存できます)

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。

note⇒https://note.mu/nonakayukihiro

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