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【新聞・テレビが絶対に報じない真実】デジタル文化大革命でヒトラーと化す習近平!

2018.11.19
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インターネットを利用するということは、そのアクションをすべて記録するということです。

たとえばあなたが「北京」という語を検索して、紫禁城について調べていたとしましょう。ネットを利用するかぎり、その行動はすべて記録されています。検索に使用したサービスは何か、検索語は何か、いつ調べたのか、どこで知識を得たのか、何を知りたかったのか。質問しようと友達にメッセージを送ったら、そのことも。

この記録はどこにあるかというと――ひとつはあなたのマシン、PCやスマホの中です。もうひとつはISP、すなわちインターネットの出入り口を供給している場所にあります。日本ではニフティやSO-NETなどのプロバイダ、ドコモやソフトバンクなどの携帯電話会社などです。

中国の「デジタル文化大革命」はインターネットのこの特性を使って、国民の行動を把握するものです。中国ではISPにあたる機関が共産党の管理下にありますから、国民のすべての行動が共産党に筒抜けになっています。何を調べたかも、誰に連絡をとったかも、共産党にはすべてわかります。

日本でもほぼ同じことができますが、そのためには警察や裁判所などしかるべき機関の許可が必要になります。しかし、中国共産党にはそんなものいりません。

さらに、中国では国民のID制度(日本のマイナンバーのようなもの)が発達していますから、インターネット使用履歴は個人情報――住所、電話番号、学歴、親は誰か、出身地はどこかなどの情報――と簡単に結びつけられます。つまり、なぜあなたが紫禁城について調べていたのか、その理由の類推も容易になっているのです。

このシステムが、国民の監視を可能にしました。日本同様、中国でもネットにはさまざまなメッセージが飛び交っていますが、政権批判・共産党批判はありません。それが露見したら、危険人物と目されることはもちろん、場合によっては処刑されることさえあり得るからです。したがって、中国人は絶対にネットで政権の悪口は言いません。「習近平」「天安門事件」「毛沢東」など、敏感詞(ヤバイ言葉)を使うこともありません。ウェブへの書き込みはむろんのこと。個人的なメールでもそれをしません。「見られている」が前提だからです。

本書によると、「パンダ」や「肉まん」も敏感詞になっているそうです。なんで? 理由は本書をご参照いただきたいのですが、そういう滑稽な現象さえ起こるほど、当局のネット検閲は深刻だということでしょう。(ちなみに、日本語にも「敏感詞」はあります)

本書は、こうしたシステムがなぜ成立したのかを、とてもていねいに述べています。

「デジタル文化大革命」あるいは「監視」というキーワードを中心にすると、どうしてもそのシステム自体の説明に終始してしまいがちです。しかし、本書はそこよりも「どうしてこのシステムが生まれねばならなかったのか」「なぜ必要だったのか」を述べることに多くのページを費やしています。つまり、本書は「デジタル文化大革命」を通して、現代中国の姿を語ろうとしているのです。

本書には、多くのことが述べられています。都市への人口流入、不動産バブルの崩壊、身分格差、習近平の汚職摘発の理由、人口ピラミッド、米中貿易戦争の影響、さらには数々の王朝によって支配されてきた歴史や、それによって醸成されてきた人々の性向まで。

著者も述べていますが、こうした情報の多くは、北京や上海のインテリ層に取材をおこなった程度では得ることができません。中国は広く、人も多い。それでは判断できないことが多すぎるのです。中国に何十回も足を運び、農村の現状を見なければわからないことが多くあります。その点でも、本書が提供する情報はたいへん深いものだと言えるでしょう。

著者はこう述べています。

中国人は自国の歴史に誇りを持っている。そのため、「自分たちのシステムはヨーロッパなどが作り上げたものより優れている」との自負が、心のどこかにある。民主主義が優れたシステムであると聞いても従う気になれない。

この「自負」が進歩を阻害し、中国の経済成長を止める一因となるだろう、というのが著者の見解です。基本的には同意していますし、自分にはこれを否定するだけの知識もないのですが、ひょっとするとこの「自負」ゆえに伸びるかもしれないな、と考えている分野があります。今後、ITがAI開発に向かうのは間違いありませんが、AIはビッグデータが基本です。それを得るために、中国が圧倒的なアドバンテージを持っているのは間違いないでしょう。なにしろ、個人情報も、著作権も、知的所有権も、それを得たことにたいする批判も、中国共産党のもとではないのと同じです。しかも、人口(サンプル)は世界一多いんですから! 亡命中の元CIA局員、エドワード・スノーデンの告発はたいへん刺激的ですが、中国ではああいう人が生まれる可能性もとても低くなっています。

データはどんなに大量に集めても、それを役立つ形で提示できなければ意味がありません。一流の食材を集めても、優れたコックさんがいなければ、おいしい料理が生まれないのと同じことです。中国の制度はそういう一流のコックさんを生み出し得るのだろうか。そのことも合わせて、たいへん興味があります。

こうした興味も、本書から数々の情報を得たことから生まれました。本書はまちがいなく、現代中国、いや、現代世界を知るために、最上のテキストのひとつです。

ところで。

中国にはGreat Firewallと呼ばれるものがあり、Google、Yahoo!、Twitter、Facebook、LINEなど、海外産のインターネット・サービスのほとんどを使用することができません。まさに現代の万里の長城ですが、これらがないことで中国国民が技術的に遅れたものを強いられているかというと、それはありません。バイドゥ、アリババ、テンセント、3つ合わせてBATといわれる中国企業が、欧米先進国と同じサービスを展開しているからです。当初はサルマネだと批判されることも多かったBATですが、現在ではGoogleやFacebookとは異なったオリジナルなサービスを提供しはじめています。断じて、壁の内側が遅れているということはありません。

むしろ、あなたが自分で築いてる壁の方がGreat Firewallより高いってことはないですか? あなたは自由だと思っているが、日本語のサイトしか見てないんじゃないですか? 日本語のサイトのアクセス数はMAX一億(日本の人口)ですが、中国のニュースサイトは最低でもその十倍です。さて、世界がせまいのはどちらでしょう?

  • 電子あり
『習近平のデジタル文化大革命 24時間を監視され全人生を支配される中国人の悲劇』書影
著:川島 博之

著者の書籍は中国のブラックリストの載った。もう中国を訪問することはできない。中国の空港で飛行機からイミグレーションに向かおうとした瞬間、顔認証システムを備えたカメラが筆者の顔を捉え、官憲によって別室に連れていかれ、スパイ容疑で逮捕される可能性があるからだ。
――これが、4億人の既得権者たる都市住民が、9億人の農民戸籍者たちから搾取しながら成長する現在の中国の体制を守るため、習近平が始めた「デジタル文化大革命」の恐ろしい実態だ。
1966年の文化大革命――それが中国に何をもたらすか、正しく見通すことができた人はいなかった。「デジタル文化大革命」が始まった2018年の状況は、1966年によく似ている。隣国である中国で新たな運動が始まった。日本人はその動きを注視し、その行方を的確に見通す必要がある。

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 』(講談社)。2013年より身体障害者。
1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。https://hon-yak.net/

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