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圧倒的リアリティでジェネリック医薬品の闇を暴く!「院内刑事ブラック・メディスン」

院内刑事 ブラック・メディスン
(著:濱 嘉之)
2018.08.19
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「院内刑事」という聞き慣れない造語から、架空の世界の話だと思っていたのですが、実際にこんな人たちがいる病院が、すでにあるといいます。

この本は、時代はもうここまで来ているのだという、現代のリアルな実情を私たちに教えてくれます。

主人公は、廣瀬知剛(ともたか)47歳。警視庁の警部だった廣瀬は、4年前に退職し、危機管理コンサルティング会社を経営するかたわら、講演活動をしています。その講演で、院内交番制度を提案したことがきっかけで、川崎殿町病院の理事長に乞われ、病院の危機管理を担当する「院内交番」の責任者として勤務することになったのです。

院内刑事の仕事は、患者トラブルの対応や苦情処理から、病院の運営まで広範囲。そして廣瀬は、常に冷静沈着で、一分の隙もない完璧な男。どんな難題も、病院内で即座に解決し、警察関係者から電話1本で情報をもらえるだけでなく、厚生労働省や文部科学省、政界とも太いパイプを持ち、闇社会にも精通した超ウルトラ・スーパーヒーローなのです。

その廣瀬をはじめとする様々な人物の言葉を借りて、私たちが気づかずにいる問題や、裏で行われているであろうことが語られます。特にヤクザと渡り合うときの刑事って、きっとこんな会話をしているのだろうなというやり取りは、とてもリアルです。それは、著者自身が元警察官で、公安部や内閣官房内閣情報調査室にいた経験があるからでしょう。

それだけでなく、こんなにズバズバ攻め込んだセリフを書いても大丈夫なの?と思うものもいっぱい出てきます。たとえば健康保険に関しては、「先進医療や高額医療には、一般の国民健康保険等が使えないと思っている人は多いが、そんな嘘にだまされちゃいけない」というのです。

さらに日本が老人大国になることは20年も前にわかっていたのに、「政治家という奴らはお構いなしだ」「国は保険会社と組んで先進医療特約というまやかしの制度を作ったんだよ。その代わりに保険会社が国債を買ってやっているんだ」という衝撃のセリフも。

思わず、自分の生命保険証を確認してしまいましたが、やはり先進医療特約を付けていたので、私もいいように乗せられた1人かもしれないと思ってしまいました。

ここに書かれていることは、あくまでも小説というフィクションの世界ではありますが、フィクションという世界だからこそ書ける真実もあり、元警察官というだけでなく、辞職後に衆議院議員政策担当秘書も務めたという経験を持つ、著者ならではのセリフだと感じます。

特に永田町にいた経験から、著者が常々思っていたであろうと想像したのは、「議員同士ですら『先生』と呼び合うから勘違いが始まる、『代議士』または『議員』と呼べばいい」というセリフ。

国会中継で見かける議員同士の褒(ほ)め殺しや、「先生、先生」と呼び合う姿は不快で滑稽だと感じていたので、思わず「その通り!」と叫びたくなりました。

ほかにも、ジェネリック医薬品についての切り込み方も鋭いです。

ジェネリック医薬品とは、特許が切れたものをほかの製薬会社が同じ有効成分でより安価に製造・供給する医薬品ですが、製造方法や薬の添加物、剤形が変わるだけで効能に差がでるらしいと語られています。

しかし、少子高齢化に伴う医療費抑制のため、厚生労働省の主導でジェネリック医薬品の普及が進められているというのです。確かに先日、行った調剤薬局では、最初から有無を言わさず「ジェネリックでいいですね」と念を押されたので、これは身近な問題になっていると実感しました。

院内刑事として、様々な問題を解決していく中で廣瀬は、このジェネリック医薬品がらみの大がかりな裏ルートがあることに気づきます。

早速、あちらこちらから情報を集める廣瀬。関わっているのは製薬会社、大手調剤薬局、暴力団が裏で運営している病院と仲介する医師、北朝鮮の病院、中国の臓器売買シンジケート、元与党の国会議員。これらに裏献金や贈収賄などが絡み、どこまでが本当でどこからがフィクションなのか、わからない話が次々と出てきます。

リアルな現場表現と取材力に定評のある著者ですが、この院内刑事に出て来る廣瀬は、まさに著者の分身なのではないか?
「世間では、こんなことが起きてるんだよ、君たち知ってるかい?」と問題提起されているような気がします。

これはもう小説というより、小説という形を借りた、著者から世の中への警告メッセージかもしれないと思いながら読むと、より楽しめる作品です。

  • 電子あり
『院内刑事 ブラック・メディスン』書影
著:濱 嘉之

文庫書きおろし!
警視庁公安総務課OBの廣瀬知剛は、政治家も通う大病院・川崎殿町病院に常駐する「院内刑事」。
モンスターペイシェント、院内暴力、セクハラ、暴力団関係者の来院……院内で起きる様々なトラブルの対処を一手に担っている。
ある日、川崎殿町病院を訪れた製薬会社のMRから、多額の賄賂を受け取っている医師が院内にいると聞く。ジェネリック医薬品の闇を追う廣瀬。すると、病院が北朝鮮からサイバー攻撃を受け――元公安部、そして危機管理コンサルティングを務める筆者だからこそ書ける、圧倒的リアリティでおくる新感覚刑事小説!

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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