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“売り込み”は絶対NG。2018年に「人を動かす」新たな3原則とは?
(著:ダニエル・ピンク 訳:神田 昌典)
“セールスの世界が変貌している”という著者の観察からこの本は始まります。
“わたしたち”は、わたしが名づけた売らない売り込みに従事しているのだ。自分が所有するものと引き換えに相手が所有するものを差し出すように説き伏せ、納得させ、働きかけている。(略)仕事時間の四〇%以上が人を動かすことにあてられていることがわかった。しかも、それが仕事の成功には不可欠だとみなされている。
セールスが「売り込む」という旧来の手法から「人を動かす」に変わってきたということを示しています。訳者の神田さんがこうまとめています。
彼が教えているのは「売り上げにならない、売り込み」ではなく、実は「売り込みをしない、売り上げのあげ方」、または「売り込みもしない、収入のあげ方」「売り込みしない、評価のあげ方」なのだ。
このようになってきた原因の1つに売り手と買い手の情報が均一化されてきたことがあげられます。かつては情報は売り手が多くの情報を持ってセールスを行ってきました。そこでは買い手がだまされないように気をつけることが重要でした。著者がいう「買い主は気をつけよ=買い手危険負担」の関係性です。
ところが現在は買い手も多くの情報に接することが可能になり、そのため売り主は“買い主の納得”ということがなにより必要になってきたのです。つまり、「売り主は気をつけよ=売り手危険負担」の関係性が現れてきました。
かつてセールスは「Always Be Closing(必ずまとめろ契約を)」をモットーにセールステクニックを磨いてきました。そのテクニックで重要なものは買い手の知らない情報を駆使するというものでした。
けれど現在ではこのようなセールスのテクニックが「疎まれるもの」として感じられることが起きてきたのです。そこで重要なことになってきたものが「人間性の深い理解に基づくセールス」というセールスのあり方です。一方向の「売る・買う」から双方向ともいえる関係になってきた中でこのようなことが必要となってきたのです。
著者はかつてのセールスのモットーだったABC(Always Be Closing)に替わる新たなABCをこの本で提唱しています。それが次のABCです。
A(Attunement):同調。これを身につけるには「観察」「待つ」「控える」という3つのルールが必要です。
B(Buoyancy):浮揚力。精神的強靱(きょうじん)さと楽観的見通しを併せ持つこと。
C(Clarity):明確性。不透明な状況を理解する能力。
これらの要素はかつても必要と考えられてきたものに思えますが、その内実は変化してきています。
同調は、かつては“説得”のための補助でしかありませんでした。しかし「人間味を持たせることで戦略的になること」が必要となり、有力な、中心的な要素となってきました。多くの情報に接している買い手にとってまず必要なのが情報の判断、選別です。同調はその判断に寄与するものとして考えなければなりません。かつてのように一方向の説得では強引さを感じさせることにもなりかねません。ですから同調においては「待つ」「控える」がより重要になってきているのです。
同じように明確性もその方向が変化しています。かつては問題“解決”にたけていることが重要でした。買い手への働きかけ(一方的な商品の説明等)である“解決”ではなく、現在では問題“発見”のほうがより重要になっています。これは、より買い手が抱えている問題への共感が求められるため、より買い手の視点に立つ必要がでてきたということです。
この2つはすぐに納得できると思います。そしてこの本の特長といえるのがBの浮揚力です。
浮揚力とは、言い換えればポジティブシンキングの持ち方といっていいと思います。どのようにしてポジティブシンキングを身につければいいのでしょうか。この本に次のような方法が紹介されています。
「悪い出来事が起こった時に自分に向けて次の3つの質問をしてみてください」
1.こんなことがずっと続くのだろうか?
2.どこも同じ状況なのだろうか?
3.自分のせいなのだろうか?
そして、これらすべてに「ノー」といえる「賢明な方法」を見つけ出してください。
というものです。
ここで肝心なのはネガティブなものにとらわれすぎて、自分を見失ってはいけないということです。
悪い出来事を“一時的なもの”、“固有なもの”、“外部の事情によるもの”だと解釈できるようになるほど、逆境に直面しても辛抱強く続けていけるようになる。その秘訣は、ポジティブ心理学者の言葉を借りれば、ネガティブな解釈に「異議を唱える」こと、「大惨事のように大騒ぎする傾向から脱する」ことだ。異議を唱えるには、頭の切れる弁護士が証人に反対尋問するように、各説明に立ち向かう。
勘違いしてはいけないのは、これは自分の責任の範囲を狭めようということではないということです。むしろネガティブなものに正面から向きあうことを求めているのです。
浮揚力を保つには、自分を沈ませるものが何かを、現実的に把握することも一つの手だ。それには、拒絶された回数を数えて──それをほめたたえることだ。わたしはこれを「列挙して甘受する」戦略と呼んでいる。
ネガティブを避けることではポジティブにはなれません。それはただの得手勝手・自己都合の逃避でしかありません。ネガティブなことに正面からむきあって、「異議を唱える」ことこそがポジティブになれる道なのです。
これら3つの要因は、セールスという世界を越えて、人とのつながり方に通じるものだということがわかります。そこにこそこの本の真の価値があります。「即興」「奉仕」などの能力が人を動かすための重要な要素ということにも触れられたこの本は、人とのつながり方、コミュニケーションに戸惑い、悩む人にも有益な助言があふれています。元気になれる1冊です。
実際に商品の売買を伴わなくても、売り上げをあげるような商取引でなくても、現代人はかなりの時間を、他人を動かして影響を与えることに費やしている。
具体的には、相手を説得したり、容認を求めたり、あるいはなにがしかの資源(リソース)と引き換えに利益を提供したりしている。
つまり、現代人は誰もがセールスパーソンなのだ。
『モチベーション3.0』のダニエル・ピンクがおくる、21世紀版「人を動かす」3原則!
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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