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【正論はなぜ不要か?】身内が重い病気に。岐路となる場面と言葉選び
(著:樋野 興夫)
この本の巻末に日本全国にある100ヵ所近くの「がん哲学外来・(メディカル)カフェ」の案内が載っています。この(メディカル)カフェとは「がん哲学外来」から生まれた集まりで、患者だけでなく、家族や医療者が対話する場になっています。
この本は「がん哲学外来・(メディカル)カフェ」の生みの親・樋野さんが初めて「がん患者の家族」のために書いた1冊です。樋野さんには『がん哲学外来へようこそ』を始めとして『あなたはそこにいるだけで価値ある存在』『いい人生は、最期の5年で決まる』『苦しみを癒す「無頓着」のすすめ』『病気は人生の夏休み がん患者を勇気づける80の言葉』など多くの著書がありますが、いままでの著書はがん患者を中心にして書かれたものでした。
もちろん病気は患者が第一であることはいうまでもありませんが、同時に家族などその人と深く関わっている人たちにも重大な問題です。けれどいままでは充分な関心を呼んではきませんでした。
多くの人は、自分自身又は家族など身近な人ががんにかかった時に初めて死というものを意識し、それと同時に、自分がこれまでいかに生きてきたか、これからどう生きるべきか、死ぬまでに何をなすべきかを真剣に考えます。一方、医療現場は患者の病状や治療の説明をすることに手一杯で、がん患者やその家族の精神的苦痛までを軽減させることができないのが現状です。 そういった医療現場と患者の間にある「隙間」を埋めるべく、「がん哲学外来」が生まれました。科学としてのがん学を学びながら、がんに哲学的な考え方を取り入れていくという立場です。(一般社団法人がん哲学外来HPよりhttp://www.gantetsugaku.org/index.php)
家族が遭遇するのはどのような場面でしょうか。
1.受け入れる:宣告・治療の選択
・幼い子供たちに父親の病気をどう伝えるべきか悩んでおります。
・無神経な告知をした担当医師に不信感がぬぐえません。信頼できる医師とはどんな医師?
・がんになった母がある宗教に入会し、多額のお布施も始めました。何とかやめさせたいのですが……。
・夫婦で話し合いベストと思われる治療を選択。なのに夫の母から「息子が死んだらアナタのせいよ」と言われました。
2.共にたたかう:治療
・こんなに看護をがんばっているのに病気じゃない私は誰からも褒めてもらえません。
・夫の看護にかかりっきりで子供へのケアが行き届かない。そのせいか子どもが反抗的に……。
・母ががんになって初めて一人では何もできない父親が残されたらどうしようと青ざめました。
・妻の分子標的治療薬代がかさみ経済的に苦しい。家族が崩壊しそうです。
・抗がん剤治療で見た目が変わり引きこもるようになってしまった妻を元気づけたい。
3.寄り添う:転移・再発・緩和ケア
・がんになった夫は過去に離婚話をしたことがあるため見捨てられるのでは、と怯えています。
・夫が再発の事実を隠していました。私にあれこれ言われるのが嫌だったようです……。
・ひとり身の妹のもとに突然現れた孫。末期がんと知っての財産目当てではないかと心配しています。
・がんになった妹に死後の世界について聞かれたががどう答えてよいかわかりませんでした。
家族が直面するさまざまな問い、それらひとつひとつに丁寧に答えていったのがこの本です。今悩みを抱えている人、どうすればよいか迷いのなかにある人たち、それらすべての人の心に届く言葉がここにはあります。
病気とかがんとかいったことは、不条理なものです。だからWhyは問えない、Howを問うのです。いかに対応するか、そこだけが人間の自由意志ですから。
悩みを聞くだけではありません、対話し、一緒になにかを見出そうという姿勢が一貫しています。
時には次のような言葉が必要なときもでてきます。
・ごちゃごちゃ口出ししてくる人は「放っておけ」です。
・治療についてよく知ったうえで、良い覚悟をしましょう。
・全力を尽くした家族は、亡くなった後も後悔がないものです。
このどの言葉も、訪れた人ととことん対話をすること、そこからしか発せられないものです。
巻末の池上彰さんとの対談で樋野さんがこう話しています。
大切なのは、正論より配慮ですよね。相手が間違っていても時には認めないと。正論は誰がみても正しいけれど、言われた相手は傷つきますね。旦那さんががんになったときは、奥さんが余計なおせっかいを焼き、奥さんががんになったときは、旦那の心の冷たさに悩む。そういう意味で、いまの日本人のがん患者は「冷たい親族」に悩んでいる人が多いですね。これが日本人の特徴ですね。
なにより重要なのは「寄り添う」ということです。
家族にとって大切なことは、最後まで患者を見捨てないということですよ。患者にとって大切なことは、自分の後ろ姿をいつも気にしてくれる人がいる。最後まで見捨てないという人がいるかどうかということですよ。
がんだけでなく重い病気に悩んでいる人、そのような人が身近にいるかたには必読です。自分の心を確かめるすべになる本です。
- 電子あり
「がん哲学外来」の提唱者が、初めて「がん患者の家族」のために書いた1冊。
苦しんでいる患者を前に、「健康な自分が弱音を吐くことなどできない」と1人悩まれている家族の方は、この本を読むことで、少しは気持ちがラクになっていただけるのではないでしょうか。また家族だけでなく、患者自身もこの本を読んで、家族の思いを知ってほしいと思っております。
八方ふさがりでも、天は開いています。私の言葉をきっかけに、それぞれに自分の足下を照らす懐中電灯を見つけていただけたら嬉しく思います。(「はじめに)より)
今や、2人に1人ががんになる時代。自分、もしくは家族ががんになることから逃れられない時代といえます。
医学の進歩により、がんという病気そのものは治りやすくなりました。しかし、がんをきっかけにうつ的な症状があらわれたり、これまで表面化していなかった家族間のひずみがあらわになることもあるといいます。がんになることで、うつや家庭の崩壊が起こってしまう。これはがんが引き起こす第2の病と言っていいでしょう。
著者は、これまで3000人以上のがん患者の相談を受けてきた順天堂大学医学部教授で「がん哲学外来」提唱者の樋野興夫先生。がんを上手に乗り越えられる「がん患者の家族」の心がまえを、具体的なエピソードを交えつつ紹介。がん患者を「支える側」の悩みや不安に優しく寄り添います。
特別対談 池上彰×樋野興夫
「がんは人生を見つめるチャンス」
特別付録 各地のがん哲学外来・カフェ
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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