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【ストレスの脳科学】上司と部下、肉体と精神、どちらがきつい?
(著:田中 正敏)
あなたは、ストレスがありますか? と聞かれたら、大抵の人は「ある」と答えるのではないでしょうか? 「全くない」と言う人は、それを認めたくなくて強がっているか、本人が気づいていないか。
かくいう私も胃の検査時に、「胃潰瘍がありますね。でも、もう治ってます」と言われ、驚いたことがあります。痛みに気づくことすら、できなかったわけですから。
2015年12月、「労働安全衛生法」という法律が改正され、「労働者が50人以上いる事業場では、毎年1回、ストレスチェック検査をしなければならない」と義務づけられました。
本書は、久留米大学名誉教授であり、日本ストレス学会名誉会員、日本脳科学会理事など、この世界の第一人者である著者が、40年近くおこなってきた動物実験のデータや論文をもとに、ストレスが生まれる過程を検証。どうすれば予防できるのかを教えてくれます。
肉体的ストレス vs 精神的ストレス どちらが辛い?
ストレスにさらされたとき、体はどういった反応をするのかご存知でしょうか? まず、胃や十二指腸に潰瘍ができます。そして、免疫系で重要な働きをする胸腺とリンパ節が萎縮し、腎臓の重量が増加し、ストレスにもっとも敏感に反応する副腎皮質ホルモンの分泌も増えるそうです。
つまり、免疫力が弱まり、臓器が正常な働きをしなくなれば、それだけ病気になるリスクが高まるということです。
一方、脳の場合は、あらゆる部位を使ってストレスに対抗しようとし、実は肉体的なストレスより、精神的なものの方がストレス度は低いというのです。これは、一見、意外な気がしますよね。
ところが、肉体は慣れというものがあるので、継続的にストレスがかかる場合はストレス度が逆転します。
早い話が、酷暑の中の外回りが毎日続いたら最初はしんどいけれど、体が順応して、徐々にストレスは減って行く。けれども、嫌な人間といる心理的ストレスが続くと、ストレスはどんどん増えるというのです。
ああ、これわかる!と多くの方が思うのではないでしょうか?
しかも脳は、「出来事」+「不快な感情」をセットとして記憶してしまうので、過去の嫌な経験を思い出すことで、さらにストレスを生むというのです。
例えば、上司から怒られたら、そのときはストレスでも、時間が経てばストレスは減ります。しかし、家に帰ってもクヨクヨと思い出すことは、さらに強いストレスになるということです。
まさに私はこのタイプで、自分で自分にストレスを与えていたのだと知り、無駄なことしちゃったなぁと思いました。今日から、この悪いクセを封印するぞと決めたのですが、こういうことに気づくことが、ストレスと上手に付き合う第一歩だと感じました。
上司 vs 部下 どちらが辛い?
続いて、自分で意思決定をする上司と、その命令を受ける部下とでは、どちらがストレスを受けやすいと思いますか?
自分自身を振り返ると、下っ端の頃は「上は楽でいいな、下に仕事を押しつけて」と思ったのですが、いざ上の立場に立つと、責任の重さに押しつぶされそうになり、「いいよなぁ下は、お気楽で」と思ったものです。
この場合は、最初は上司の方がストレス度は強いのですが、自分で対処法を習得すると、その後はストレスが減っていくというデータが示されています。
高齢者 vs 若者 どちらがストレスに弱い?
次に、高齢者と若者では、どちらがストレスに弱いか? 実は、年齢によるストレスの差はないという、うれしい結果が載っていました。
しかし、問題は回復力。それは体だけでなく、脳の回復も歳をとると遅れるため、高齢になると回復のための十分な休息が必要となるそうです。
さまざまなストレスは、今、問題となっている過労死への引き金になることもあります。特に若い人たちの間では、肉体的な過労から精神的なストレスを誘発することが増えているといいます。
では、どうしたらストレスを減らすことができるのか? それもこの本は教えてくれます。
過労死予防は食事から
ストレスを減らすには、短くてもよいので「食事の時間を確保すること」が大事だそうです。完全に仕事から離れて休息をとることで、ストレスが減ると考えられているからです。
他にもいろいろな方法が紹介されているのですが、リラックスした状態を自ら作り出す「自律訓練法」は、用具もいらず、どこででも簡単にできて便利です。これは、簡単にいうとイメージトレーニングのようなものなのですが、私も、寝るときに取り入れてみたら、あっという間に眠れるようになりました。
そして一番、手っ取り早いストレス解消法は、こんなことでクヨクヨするのはバカバカしいと「見方を変える」ことだと著者は言います。
人間は弱いと認識する
実はこれらのデータを得るには、ラットを使った動物実験をし、それを人間に置き換えてあります。
視床下部、扁桃体、ノルアドレナリンといった聞き慣れない用語に最初は戸惑いますが、こうした実験を見たことがない私でも、「へぇ、大学の実験ってこんなふうにやるのかぁ」と興味を持ちながら、読み進めていくことができました。
そして、人間の代わりに頑張ってくれたラットたちに対し、ここで得られたことを生かさなければ申し訳ないと思いました。
最後に、長年、こうした研究を続けている著者だからこそ言える、こんな言葉がありました。
──人は弱いものであるという考え方は、とても重要だと思います。なぜなら、弱いと知っている人こそ、その弱さに対してどう対処したらよいかをいろいろ模索しているからです。それが結果的に人を強くすると思います──
その人にどの程度の闘う力があるのかが、ストレスを乗り越えられるか否かを決めるのだといいます。しかし、過去にストレスを乗り越えられたから、今度も大丈夫とはならないそうです。
そういった意味でもまず、自分がどれくらいのストレスを抱えていて、それに対してどう向き合うのかといったストレス・マネジメントは、これからの時代、非常に重要だと気づかされた1冊でした。
- 電子あり
【脳をしらべて初めてわかった新事実】
ストレスは誰もが経験するものですが、そのメカニズムは未解明の部分が多く残されています。ストレスにさらされた時、人の心と体のすべてをコントロールしているのは脳です。その時、脳はどのように変化し、心と体にどのような影響を与えているのでしょうか。
本書では、最新の実験方法を用いて測定された、さまざまなストレス状況での脳のストレス反応の結果を紹介しています。
例えば、
・嫌な体験を思い出すだけでストレス反応が起きる
・心理的なストレスは繰り返すと増強される
・解放されてもストレス反応はすぐに止まらない
・怒りをきっちり出せるとストレス反応が長引かない
・10分のストレスでも70分のストレスでも脳の反応は同じ
・突然のストレスは強い反応を生じる
・高齢になると連続するストレスは病のもとに
など、私たちが日ごろ、うすうす感じていることを裏づける結果もあれば、予想外の結果もあります。なかには、食事をとらずに働き続けると過労死のリスクが高まることを示唆する衝撃的な結果もあります。
本書で紹介する貴重な実験結果から得られた知見は、私たちがうまくストレスと付き合っていくための「ストレスマネジメント」に、大いに参考になるものです。脳をしらべて初めてわかった新事実、そこからストレス予防のヒントが見えてくるはずです。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp
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