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【毒舌爽快】周囲の「バカ」が気になる人は『博愛のすすめ』を読め!
(著:中川 淳一郎/適菜 収)
毒舌を楽しむだけでなく、どこか胸のつかえがとれるような思いがする対談です。ふたりのキーワードはB層というものです。
「B層という言葉は、広告会社が作った言葉です。2006年の小泉郵政選挙の前に、自民党がスリードという広告会社に『メディアを使って選挙戦をどう戦うべきか』という分析をさせたんですね。そのときの企画書では国民がA層、B層、C層、D層に分類されています。B層とは、『マスコミ報道に流されやすい、比較的IQが低い人たち』で、『具体的なことはわからないが小泉純一郎を支持する層』のこと。広告会社は、彼らをターゲットに選挙戦を戦うべきだと分析しました」(適菜収氏「日本をダメにした“B層”ってなんのこと?」より)
このスリードの孫請けとしてテリー伊藤と竹中平蔵が登場するパンフレットを制作したのが対談者の中川さんでした。その時の裏話(博報堂、スリードの関係や制作費等)もこの本で詳しく語られています。
──中川:(略)単に「郵政民営化がバラ色の未来をもたらすということを書いてくれ」と言われたので、「はい、書きますよ」と。それだけです。
適菜:私がスリードとB層の件にこだわったのは、大衆社会の問題と切り離せないからです。ただお菓子を売るとか、アイスクリームを売るとかだけじゃなくて、マーケティング的な発想が、文化全般に、挙げ句の果てには政治にまで組み込まれてしまっている。これはかなり危ないと。
中川:危ないです。──
その時のことを中川さんはこう振り返っています。
──中川:反省としては、その頃「B層」というものをオレはそこまで知らなかったんですよ。まさかこの社長がバカを誘導しようとしているとか、そのためにテリー伊藤をつかったとかもね。あくまで編集をやる人間として呼ばれただけという認識だったんです。
適菜:スリードが作成した企画書には、どうやって無知な人間を誘導して、郵政民営化がプラスになると思わせるかという戦略が赤裸々に書いてある。マーケティング的なね。──
このとき始められた政権のマーケティング戦略、それは今でもイメージ戦略等として拡大され続けています。その危険性はこの本の重要な指摘の1つとなっています。
──空気に流される層を、マーケティング的な手法で誘導したほうが効果的だと連中はわかっている。だから、徹底的にメディア対策を行い、大多数を占める大衆にウケるようなことをやることになる。──
なにが大衆に受ける事柄(テーマ)なのでしょうか? それが実は「現状否定と改革」という言葉(スローガン、キャッチフレーズ)なのです。これらの言葉は、現状へ安住することなく、未来へ向けているように思えます。そこには“自ら選択する”という雰囲気も漂わせています。けれど問題なのは、現状がどう見えているのかということです。
──彼らの目には世界がこのように見えているらしい。「安倍さんは拉致問題や靖国問題に信念をもってやってきた政治家だ。(略)安倍さんのおかげで株価は二倍になった。外交もうまくいってる。憲法は押し付けられたものだから、安倍さんの言うとおりに変えるのが当然だ。こんな偉大な総理はこれまでいなかった。(略)政策がダメだというなら対案を示せ。(略)安倍さんの手法は乱暴なところもあるが、中国や北朝鮮の問題が山積する中、急いでいるのだから仕方ない」と。ミジンコ脳って幸せですね。──
徹底的な安倍首相批判の書を持つ適菜さんならではの強烈な言葉です。周りを見渡せば、これに類した言葉を口にする人がたくさんいることに気づかされます。これはイメージ戦略で作られた「空気とイメージ」で動かされていることのほうが多いのです。一見、自ら、主体的に何かの理由付けをしているように思えますが、それは積極的にムードにのっている、そのムードに流されることを選んでいるのです。
このことを気づかせるためにこの本は書かれたといっていいように思います。舌鋒するどい論難の背後にある“愛”がこの厳しい指摘なのでしょう。『博愛のすすめ』という書名の由来の1つです。
今総選挙の最中ですが、選挙についてこんなことが話されています。
──問題は、多数決が正しいという発想です。住民投票や国民投票は五一対四九なら、五一が勝つんです。これが民主主義です。でも、議会主義は選挙の過程で一定の選択原理が働くし、熟議、合意形成、利害調整が必要になる。だから、議会主義は民主主義の危険性を封じ込めるものでもあります。だから、なんでもかんでも「民意を問え」と言って国民投票や住民投票にかけるのは政治の自殺なんですよ。──
部分的に引用すると誤解されそうなので、ぜひ手にとって読んでみてください。
ところで“バカ”という言葉が飛び交うこの対話で、適菜さんによる“バカ”の定義がありました。
──バカとは何かと言うと、私は「価値判断ができないこと」だと思っています。では価値とは何かと考えなければいけない。そうすると、少なくとも数世紀はさかのぼって考えたほうがいいのではないかと。大衆社会の問題、B層の問題は価値判断の問題です。私が橋下や安倍を批判しているのは、それにより、近代および近代的歴史観、価値判断の転換の問題が見えてくるからです。それでどうしても、哲学や社会学を参照せざるをえなくなるんです。──
自分の考えと思っているものが、誰かの受け売りであったり、メディアに追従しただけであったり、まわりの空気に流されたりしているのではないか、その怠惰さに陥っているのではないか……。私たちが本当に直面している問題はなにかということに気づかされる個所です。
大衆社会の問題に正面から語っているこの本は、政治やメディアの問題だけでなく、グルメ、ディズニーランド、不倫、愛国心、保守から天皇までが縦横に語られています。そのどこからも熱い血の通った言葉で満ちています。最近の政治家やメディアの言葉が血の通っていない、根拠のない自信(?)にあふれた上から目線であるのとは実に対照的な言葉です。リラックスした対談ですから、すいすい読めると思います。そしてふたりの対話のあちらこちらから読み飛ばせないものが感じられると思います。楽しい1冊です。
- 電子あり
憐憫の情か、それとも──これは「愛」なのか!? 世のバカを憂うばかりでなく、「愛」ある視線で見守る博愛主義かつ偏愛主義な2人の対談集! 毒舌の果てに見た新境地。このロクでもない世界で幸せに生きる知恵。それが「博愛」──。 これからの社会を動かすキーワードは「愛」。いつも「世界人類が平和になりますように」と祈っている博愛主義者・適菜収が、同じく博愛主義である中川淳一郎と、今こそ必要な「愛」について語りつくした!
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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