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できる人はなぜ「情報」を捨てるのか? 第一人者がまとめた9つの基準

2017.05.17
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自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます

おもしろいエピソードが紹介されています。
──むかし、雑誌の人生相談コーナーで「仏教の教えに興味があります。どの宗派が信用できますか」ということを聞いた相談者に対して、作家で天台宗大僧正の今東光はこう答えました。
「どの宗派がいいかって? そんなの天台宗に決まってるじゃねえか。天台の坊主に聞けば天台が一番いいというのは当たり前だろうが」──
というものです。このエピソードには情報に対して私たちがどのように接しているか、どのようなものと思っているのかが端的にあらわれています。

「知らないこと(=情報)」は「知ってる人(=情報の発信元)」に聞けばいいと思いがちです。でもこの時すでに質問者は情報の海の中で溺れかかっているのかもしれないのです。

求める人の意識、目的等が定まらないと流れている情報に翻弄されるばかりです。それでなくてもインターネット、スマートフォン、SNS等の普及は情報過多になりかねません。トランプ大統領が流行らせた(?)フェイク・ニュースも、かつてと異なり大きな影響を与えるようになっています。それだけに情報の真偽・要不要を見抜く力が必要になっています。

情報に溺れないためには、まず必要なのは、自分の目的をハッキリとつかむことです。なんのために情報を求め、接するのかということを決して忘れないことです。

今東光への質問者はスタート(および目的地)はハッキリつかんでいました。

では彼はどこで間違えたのでしょうか。それは「情報の発信源」に対する判断ができていなかったことです。情報の「発信者のメリット」を考えに入れていなかったことにあります。この質問者は丁寧に教わるつもりでいたのでしょう。けれどそれでは得た情報が彼の求めているものなのかどうかがわかりません。その上、「発信者のメリット」を考えに入れなかったことです。ある価値観を持っている人はその持っている価値観に従って答えてきます。そこまで考慮にいれる必要がある場合が多いのです。ですから自分に必要な情報を見抜ける「目」を持つことが重要になります。

ではその目をどうすれば持てるようになるのでしょうか。

奥野さんは必要な情報を見抜くための9つの基準を挙げています。この9つの基準の中で気になるところを紹介します。
1.新旧:これ以上古くなりようがない情報を探す。
2.正確性:ウラをとる。
3.加工度:2次情報からは他者の視点を得る。
4.発信源:発言の動機、発信者のメリットを読む。
5.稀少性:どこででも聞ける話はいらない。
6.再現性:再入手できるものは捨てる。
7.効率性:知っている情報はとりあわない。
8.インパクト:サプライズを大事に。
9.コスト:処理コストが高いものはあきらめる。
これ以外の内容は本書のなかに詳説されています。ぜひ実践書として読んでください。多くの知見にあふれています。

なにより興味深かったのは最新情報だけなく、古いものであっても、そこに独自性があるものは忘れてはならない、ということです。

情報に接しているとついつい“最新イコール価値がある”と思いがちです。もちろん新しさは重要ではありますが、それが情報の最大の価値というわけではありません。新しさを追うだけでは情報に使われてしまうことや情報に流されてることにもなりかねません。それは「独自性」を失うことにもつながります。

奥野さんがウェブでは「まとめサイト」を利用しようというのは、この情報の波に溺れてしまわないようにするためだと思えます。さらにこの「まとめサイト」の情報を確かなものとするために「ウラをとる」ということが肝要になります。

先の9つのことに留意して自分の「目」を身につければ「情報過多で死な」ずにすみます。なぜならこの「目」が働いているかぎり、いくら情報が降ってこようと、自然と情報がふるいにかけられ捨てることができるようになるからです。
──大量の情報の中から、自分にとって『使えない部分』をどんどん捨てて、目の前から消し去る。反対に「使える部分」はアイデアの材料としてじっくり料理する。──
情報に対してこのような振る舞いができるようになります。

すると、逆に大量な情報にも驚くことがなくなります。これが「独自性」になるのです。

これはもうひとつの重要なことに気づかせてくれます。奥野さんが言う「頭の横着」というものです。情報に押し流されたり、また先にいったように新しさを求めるだけだと情報に身を委ねてすますことになりかねません。このような「横着」に染まってしまうとフェイクの情報に踊らされることにもなります。

この本は情報過多の現代の中でどのようにすれば自分が獲得したい情報に出会えるかを綴った情報社会サバイバル法でもあります。自分の振る舞い方を見直すためにも読んで欲しい1冊です。

「できる人はなぜ『情報』を捨てるのか」、それは正しさを見出すためでもあります。

  • 電子あり
『できる人はなぜ「情報」を捨てるのか』書影
著:奥野宣之

30万部超え大ヒット『情報は1冊のノートにまとめなさい』の著者が新聞記者時代の経験を元に書いた、情報の取捨選択の仕方。

「効果的なアウトプットをするために、頭を寄せ鍋状態にすることを意識する」「化石化した情報を選択することで、情報の間違いがなくなる」「ウラを取ってある(であろう)情報には乗る」

など、情報に対する目からウロコのアプローチが多数。情報整理術の第一人者が贈る、情報の洪水をうまく乗りこなす方法。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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