・小さな成功を地道にたくさん積み重ね、大きな成功にたどり着こうとする。
・自分の実力をひたすら磨き、一人でがんばる。
・とことん考えた自分のアイデアを自分流に発表する。
・何事も全力投球。どんな仕事でも「100点」を目指す。
・どんな環境であっても、すべての案件について個別に努力する。
・新しい商品やサービスで未知の市場を創る「ファースト・ムーバー」を目指す。
・人脈を広げようと、いろいろな人とコンタクトを取る。
・ネットワークができたら、どのような協力をしてもらおうか考える。
・より良くするために、優れたオプションを多くつけるべきだと考える。
・何ごともていねいに、小さなことでもその都度、判断する。
このような姿勢、考え方をどう思われるでしょうか? 正論だと思われる人が多いのではないでしょうか。そう考えた方には必読の1冊です。
これらは間違っているとはいえないけれど、最適なものではありません。それを説いてるのがこの本です。
では、原題の『SMARTCUTS』とはどのようなものなのでしょうか。
──「スマートカット」とは、本来時間をとられるべきではないところをスマートに、つまり賢く回避しながら、力を入れるべきところに力を入れて大きな目的を達成する技だ。──
間違えやすいですが、これは「手っ取り早く短期間で利益を出す」ことのみを考える近道「ショートカット」とはまったく異なるものです。
──ショートカットは、時として道徳感の欠如や節操のなさにつながる。つまり、スマートカットは誠実さを保ったショートカットと言っていい。スマートであざやかな手法で大きな成果を生みつつ、外部に対して悪影響を与えないのである。──
スノウさんはアメリカ大統領、コメディアン、ハッカー、企業家たち、成功者と呼ばれる人たちの中に、他の成功者とはっきりと違いが分かる短期間で成功を収めた成功者たちに着目しました。彼らの軌跡を解明する中で発見したのが、この「スマートカット」と名づけた成功法です。
──もはや昔ながらの出世の階段を上るような時代ではない。それは政治の世界に限らない。ビジネスしかり、教育やエンターテインメントの世界でも同じだ。従来の成功への道のりは時間がかかるだけでない。競争力や革新力を発揮したくても、現実味に乏しいのだ。“下積み主義”を棄てて、真の成果主義に軸足を移すことになるのだから、悪い話ではない。だが、そこで成功するには、これまで以上にハッカー流の発想と企業家型の行動力が求められる。単にがむしゃらに働くのではなく、賢くスマートに働く必要があるのだ。──
「ハッカー流の発想と企業家型の行動力」のキーになるのが「ラテラル・シンキング(水平思考)」というものです。
──従来の論理思考や分析思考が深く掘り下げる垂直思考だとすれば、さまざまな視点から物事を眺めて斬新な発想を生み出すのが水平思考だ。──
既成概念や先入観にとらわれないこと、いろいろな角度から問題をとらえかえし解決をはかることが必要です。
このラテラル・シンキングを身につけられると可能性が一気に広がります。
──エンターテイナーや有名人が「一夜にしてスターダム」にのし上がることがあるのは(略)自分の古巣で懸命にがんばりつつも、別の階段を一気に駆け上がり、人々を驚かすのだ。こうした階段の切り替えは、企業の成長を加速させやすい。軸足を移し、ビジネスモデルや主力製品を切り替えて上向いた企業は、従来の道にとどまり続けた場合と比べて、はるかに大きな成果を挙げる傾向にある。──
自分の可能性を広げる重要なことにもうひとつ「メンター」の存在があります。メンターがどれくらい重要性なのかは多くのハリウッド映画にしっかりと描かれています。
──『ベスト・キッド』しかり、『スター・ウォーズ』しかり、『マトリックス』しかり、最初はいまひとつパッとしない主人公が壮大な旅に挑むパターンだ。つまり空手の達人「ミヤギ」、ジェダイの騎士「オビワン・ケノービ」、伝説のハッカー「モーフィアス」だ。──
確かに彼らメンターの存在(導き)によって主人公たちは大きく成長しました。でもそうはいっても映画に登場するようなメンターと出会うことはそんなに簡単なことではありません。
──昔ながらのメンター制と言えば、企業家精神の旺盛な若者と年配の経営者とが差し向かいで「成功とは……」などと問答しているイメージが思い浮かぶ。だが、スマートカット志向の弟子はちょっと違う。個人的な関係をメンターと築き上げ、目の前の課題だけでなく、人生のさまざまな問題について助言を求める。また、メンターの人生にも関わっていく。(略)教える側も教わる側も互いの不安をさらけ出しながら信頼関係を育む。これが学びのスピード・アップにつながる。──
メンターとの付き合いかたにもスマートカットにふさわしい付き合いかたがあるのです。制度としてのメンターでは効果がありません。信頼関係があるからこそ「ともすれば無視しがちな難解な教えも心に留められる」ようになるからです。個人的な関係、それに基づいた信頼関係を築くことができれば大きな効果を生むことができます。
このようなことを心掛けながら信頼できる最適なメンターを探し、付き合うことがなによりも肝要です。スノウさんによれば「歴史を振り返ると、大成功を収めた多くの偉人は良き師、良き助言者に恵まれていること」は明らかなのですから。
もうひとつ、心がけなければならないことがあります。
──本当に重要なことは、一見してわかるようなことでも、大きなことでもない。さじ加減ひとつで変わってしまうような微妙で細かいことこそ、最も重要なのだ。──
この本の終わりには「実話に学ぶ9の鉄則」が記されています。とはいってもそれだけを読んでみてもダメです。それこそ「ショートカット」という行為ですから。
ジャーナリストのスノウさんが描いたこの本の登場人物のエピソードを幾度も味わいながら「スマートカット」の真髄を感じるのが正しい読み方のように思います。楽しく充実した読書体験になります。
ところで、冒頭の問い(?)への「スマートカット」的な対応は以下のとおりです。どうでしょうか?
・小さな成功を元手におおきなチャレンジをして、一気に目的を達成する。
・その道の達人(メンター)に教えを請う。
・とりあえずアイデアを発表し、フィードバックに会わせてどんどん変える。
・頑張らずにすむ「合格ラインの点」を取り、余った力で重要だと思うことをやる。
・整備された環境(プラットフォーム)を活用し、ムダな努力を省く。
・「ファーストムーバー」が市場開拓をしたあと、素早く問題点を改善した商品やサービスを出して利益を取る「ファースト・フォロワー」を目指す。
・たくさんの人脈を持っていそうな1人とコンタクトを取る。
・ネットワークができたら、まず相手の役に立つことを考える。
・より良くするために、思い切ってオプションをなくす「シンプル化」を考える。
・集中力を高めるために、細かいことはルーティン化して判断を省略する。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
note
https://note.mu/nonakayukihiro