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百万石の「参勤交代」は超高速より厳しい? 伝説のツアコン役に惚れる!

2016.12.17
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「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」(宝島社)2009年版&2014年版第1位を獲得、今も講談社から人気シリーズ「百万石の留守居役」を文庫書き下ろしで発表中の上田秀人さん。文庫時代小説を索引する作家として、現在まで多くの人気作を発表してきました。
シリーズ最新作『参勤』も話題の作者が人気のシリーズについて語ります。

作者プロフィール

上田秀人

1959年、大阪生まれ。大阪歯科大学卒。’97年、第20回小説CLUB新人賞佳作に入選し、時代小説を中心に活躍。'09年、「奥右筆秘帳」が「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」のベストシリーズ1位に輝いた。’10年、『孤闘 立花宗茂』で第16回中山義秀文学賞を受賞。’14年、「奥右筆秘帳」シリーズで第3回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。その他に「百万石の留守居役」「御広敷用人 大奥記録」「表御番医師診療禄」「禁裏付雅帳」「闕所物奉行裏帳合」など、多数の文庫人気シリーズを抱える。歴史小説にも旺盛に取り組み、『梟の系譜 宇喜多四代』『峠道 鷹の見た風景』『鳳雛の夢』『傀儡に非ず』『竜は動かず 奥羽越列藩同盟顛末』などがある。

上田秀人「参勤 百万石の留守居役」インタビュー

──これまでの上田さんは幕府の上のほうの人物を描かれてこられましたが、最近始まった「町奉行内与力奮闘記」(幻冬舎時代小説文庫)や「日雇い浪人生活録」(ハルキ時代小説文庫)のように、近ごろは比較的下からの目線で描かれていますね。そう考えると「百万石の留守居役」はその初め、きっかけにあたる作品かと思うのですが。

上田 そうですね。下からの視点で幕府を見る作品が多くなってきました。

──なぜ江戸留守居役を描こうと。

上田 留守居役は藩の外交官ですよね。動きに制約のある中での外交官が面白く思えたんです。遊郭なども舞台に使えますし、華やかになります。刀以外の、外交での問題解決の物語に手を出してみようと思ったんです。

──上田さんの作品は、主人公が中間管理職の立場にあることが多いです。読者にも身近に感じられるのでは?

上田 主人公に制約をかける上役がいて、機嫌を取らねばならないお得意先がいて、その中で難題を解決していかなければならない。いわば江戸時代の企業小説ですね。「百万石の留守居役」は、前田家という企業が幕府という大企業とどうつきあっていくかという話でしょうか。御家騒動などもありますし。

──ヒロインの琴とは結婚はしていませんが、婚約したまま国元に残しています。遠距離恋愛ものでもあるんですね。

上田 江戸時代で遠距離恋愛を一度やってみようと試みたんですが、ちょっと無理がありますね(笑)。現代ですら仲がもたないのに、当時は手紙のやりとりひとつとっても十日くらいタイムラグができてしまう。離れていながらも通じ合っている部分と離れているがゆえに不信感がつのる部分がある。今回、主人公の数馬をいったん国元に返すことで、互いの存在を確かめ合う機会ができます。それからふたたび離れていく。ヒーローとヒロインがどうなるかは、書いているほうとしても楽しみですね。僕はいつもいきあたりばったりなので(笑)。

──第8巻の『参勤』では、藩主のお国入りに、主人公の数馬が大名行列の差配役というか統轄、交渉役として奔走します。

上田 ツアコンですよね(笑)。旗もって、事前に何時に何人来ますからよろしくとふれてまわる。参勤留守居役というのは僕の創作なんですが、江戸を離れると、宿場町も出てくるし、風景も変わってきます。加賀に帰ったら帰ったで、江戸での殿様と国元での殿様の違いなども楽しんでいただこうかと考えています。

──参勤交代をテーマにした小説では、浅田次郎さんの『一路』や土橋章宏さんの『超高速!参勤交代』などがありますが、今回のは三千人の大行列で、規模も大きく、苦労もまた違いますね。

上田 土橋さんとは山村正夫記念小説講座でも顔見知りですし、僕も面白く読ませていただいています。加賀藩の記録をみると、出発と到着とで人数が違う。国元に着いたら何人か足らんぞ、ということがあったようです。小藩だとありえないことですが、途中で欠け落ちしちゃうんですね(笑)。大人数ならではのトラブルも書ければと思います。元禄の頃までは通り道になっている小藩にとっては怖さもあったでしょうね。五万石くらいだと国元でも藩士が千人くらいでしょう。それが加賀百万石だと三千を超える武装集団が領内を通っていくわけですから。だから交渉役の出番がある。通過する藩にお金を包んだり贈り物をしたり、世の中をうまくまわすための工夫がいります。

──大名行列に出くわすとただお辞儀をするものと思っていましたが、平伏したり片膝をついたり、藩同士のつきあいの度合いによってもいろいろあるんですね。大名行列が武士の格式や体面のぶつかる場だというのがよくわかりました。

上田 それに、行列は進むより止まるほうがたいへんです。誰かが急に止まると将棋倒しになってしまうし、一度停止すると再び動きだすまでがたいへんなんですね。揺れる駕籠に乗り続ける殿様も辛い。狙われることを考えると、むやみに戸を開けて外の景色をながめてばかりいるわけにもいきませんし。

──殿様が床下から狙われないように、本陣の畳に鉄板を敷くのには驚きました。

上田 ほんとうにあったようですね。風呂桶も組み立て式のを運んでいたようですし。だから遠方の薩摩藩などにしてみれば拷問ですよ。参勤交代は華やかに見えるけど、しんどかったはずです。藩のお金がなくなるのも当然です。

──このシリーズの特色である交渉ごとで問題を解決していくというのが、第8巻ではよくあらわれていますね。

上田 刀で解決せず、口先で丸め込む。それをこのシリーズでは見せていきたかったんですね。

(聞き手/末國善己)

===続きは「IN★POCKET」2016年12月号でお楽しみ下さい。===

「百万石の留守居役」人物紹介

瀬能数馬(主人公)

若き加賀藩士。祖父が元旗本で、加賀では外様の中の外様。老練さが物を言う藩の外交官である江戸留守居役に抜擢され、苦労を続けている。

琴(ヒロイン)

婚家から出戻ったとはいえ、大名顔負けの五万石を誇る本多家の娘。数馬のことを気に入り許嫁となるが、数馬の江戸赴任で“遠距離恋愛”中。

佐奈

江戸赴任した数馬を助けるために、琴のつけた女中。瀬能家の家政を取り仕切り、役目上妾宅が必要になった数馬の(形だけの)妾となる。

本多政長

徳川家康の懐刀・本多正信の血を引く。加賀藩の筆頭宿老として、金沢にて隠然たる力を持つ。幕府とのつながりも噂される“堂々たる隠密”。

前田直作

加賀藩重臣である人持ち組頭の一人。金沢で襲撃されたところを数馬に救われ、数馬の江戸行きのきっかけとなった。身分を越えて親しい。

前田綱紀

外様第一の加賀藩主。利家の再来として呼び声も高い。江戸城の実権を握っていた大老酒井忠清の画策で、五代将軍候補にまつりあげられる。

石動庫之介

瀬能家の頼もしい家士。介者剣術の遣い手で、数馬の剣の稽古相手。

小沢兵衛

藩の金を横領し加賀藩を追放されるも、堀田家にかくまわれた留守居役。

堀田正俊

老中。家綱に替わる五代将軍に、館林藩主の綱吉を就けるため奔走する。

著:上田秀人

大人気上田秀人の代表シリーズ、時代小説文庫書下ろし「百万石の留守居役」、待望の第八弾! 若すぎる留守居役瀬能数馬は、藩主綱紀お国入りの交渉役として、参勤交代の準備に奔走する。金沢に残した数馬の婚約者琴が襲撃されるなど、国元では不穏な動きが相次ぐ。藩主綱紀も、異例の急ぎ足、わずか十日間の帰国を命じた。道中の諸藩に気を配る交渉役の数馬に、藩主の継室の座を狙った思いもかけぬ難題が降りかかる!

著:上田秀人

いよいよ、開幕。「奥右筆秘帳」上田秀人の大型新シリーズ。加賀百万石。江戸城の実権を握る大老酒井忠清(ただきよ)は、なんと外様大名の加賀藩主前田綱紀(つなのり)を、次期将軍に擁立しようとする。外様潰しの策略か、親藩入りの好機か。藩論は真っ二つ。襲撃された重臣前田直作(なおなり)を助けた若き藩士瀬能数馬(せのうかずま)の運命も、大きく動き出そうとしていた。<文庫書下ろし>

著:上田秀人

幕政を握る大老酒井の狙いは、やはり外様潰しか。加賀藩主前田綱紀を次期将軍に推挙しようとする動きに、御三家はじめ江戸城内でも動揺が広がる。国元で唯一賛成の旗印を掲げ孤立した重臣人持ち組頭前田直作は、過激な御為派に狙われる。その直作の江戸召還に、護衛役で同行することになった瀬能数馬。御為派は中山道の難所碓氷峠で、一気に勝負を出た。数馬は血路を切り開けるか? そして藩の命運のかかった藩主の決断は?

著:上田秀人

五万石の姫・琴と婚約し、異例の若さで加賀藩江戸留守居役に抜擢された数馬への風当たりは強い。先任の小沢は藩の秘事を土産に、なんと幕閣筆頭の座を狙う老中堀田家へ抱えられていた。留守居役には遊興も宴席も戦場だ。なれぬ吉原で、言葉の刃(やいば)で弱みを突いてくる相手に、数馬は、反撃なるか!? 早くも人気沸騰シリーズ、江戸編本格スタート!

著:上田秀人

四代将軍家綱の死去。宮家擁立に失敗した家綱の寵臣大老酒井忠清は権力の座から滑り落ちる。代わって台頭したのが、館林公綱吉を擁立した堀田正俊。加賀前田家には頭の痛い問題があった。不祥事で放逐した留守居役の小沢が事もあろうに堀田家に抱えられている。繋ぎのできるのは、新米留守居役の数馬だけ。藩の命運を懸けた高度な交渉に数馬が挑む。そして、失意の大老酒井は再逆転を狙い伊賀者に秘策を命ずる。百万石、危うし。

著:上田秀人

若き留守居役瀬能数馬の後ろ盾は、岳父となる“五万石の陪臣”本多政長。だが徳川の闇を知る本多家は、幕府にとって天敵でもあった。四代家綱の寵臣酒井忠清に替わり権力を握った老中堀田正俊は、加賀前田家の抱える本多家に狙いをつけた。老獪な駆け引きはなくとも剣の腕をもつ数馬は、老中と藩主の秘密直接会見に意外な場所を提案する。加賀潰しの包囲網から、数馬は藩を救えるのか!?

著:上田秀人

初めて直系ではない将軍となる綱吉を支える老中堀田正俊。その野望に、各藩の緊張は高まる。加賀藩主前田綱紀は早くに正室を亡くしている。外様第一の継室の座をめぐり、各藩の留守居役たちが動き出す。親幕の保科家の会津に向かった若すぎる留守居役数馬も、老獪な筆頭家老相手に微妙きわまる外交に臨む。そして、加賀を追われ恨みをもつ刺客たちが数馬に襲いかかった!

著:上田秀人

大藩加賀に参勤交代の季節が近づいた。江戸から琴の待つ金沢へ。会津で国家老相手に渡り合い、貸しをつくることができた数馬は、またも難題、国元に帰る藩主一行のお膳立てを命じられる。道中の各藩の留守居役を集めた吉原での会合に、一人で臨む数馬に、思いがけぬ援軍が。だが、富山藩の不満、敵意を抱く老中堀田家による包囲網、と加賀をとりまく状況は風雲急を告げる。貸しはすぐに借りになる。加賀藩の留守居役、走る!

著:上田秀人

仙台藩下級武士の玉虫左太夫は、学問を究めるため江戸へ出奔。江戸では、後に昌平坂学問所の長官となる林復斎の邸に潜り込むことに成功する。また、仙台藩の儒学者・大槻磐渓と邂逅し、江戸藩邸で藩主・伊達慶邦との目通りも叶う。数年の精勤ののち左太夫は蘭学を学ぶために、復斎のもとを離れることを決意し、条約の批准に渡米する外国奉行・新見豊前守の従者の座を掴み取る。安政7年1月、左太夫の乗った船は品川沖を出港した。

著:上田秀人

世界周航から帰国した左太夫は、藩から京洛の動静を探るよう命じられる。江戸で勝海舟に、福井で松平春嶽に会ったのち、京で坂本龍馬と再会。久坂玄瑞とも接触して薩摩や長州の情報を仕入れ、会津藩からは幕府の苦境を聞かされる。そんなさなか、薩摩と会津が手を組むという事態が起こる。左太夫はすぐに国元に戻る決意をする。白河の関に差し掛かったとき、ある思いが脳裏をよぎる。「ここを封じれば……奥州は独立できるか」と。

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