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2016.11.21

インタビュー

『疾風の勇人』誕生秘話──所得倍増計画で、戦後日本を最も成長させた男

いま「田中角栄ブーム」だと言われるが、それに引けを取らない政治家が戦後にいたのです。「所得倍増計画」で日本を先進国の一員とした名政治家・池田勇人です。現在モーニング連載中の『疾風の勇人』では、彼の人生を大胆かつ詳細に描いており人気作となっています。いまこそ知っておくべきなのは、この池田勇人なのです! 今回は『疾風の勇人』作者の大和田秀樹氏にお話をうかがいました。

──池田勇人を選んだ理由はなんでしょうか?

もともと戦後史は漫画にしたいと思っていました。年表で戦後活躍した政治家がどういう人生を送ったのかを見ていったときに、一番ドラマチックな人生を送っているのが池田勇人でした。それと映画や小説などで取り上げられたことのない人物というところにも惹かれました。みんなが知っている人より、みんなが知らない人物を読み解いていくほうが面白いんじゃないかと思い、池田勇人を主人公にしました。大学入試では東大に落ちて京大に行き、そのために大蔵省に入っても傍流を歩み、大病を患って大蔵省を退職し、最初の奥さんを病気で亡くし……そんな人物が最終的には総理大臣にのぼりつめるって、すごく少年漫画的で、漫画の主人公にふさわしいと思います。

──なぜタイトルを『疾風の勇人』にしたのでしょうか? また、「疾風」とタイトルに入れた理由を教えてください。

作品の中でも「疾風のごとき政客人生」という言葉を使っているんですが、 池田勇人は初当選から11年で総理大臣になって、総理を4年間務めた後に亡くなってしまいます。疾風のごとく通り過ぎて行ったという表現がピッタリだと思いタイトルに「疾風」と入れました。

──どのくらい前から、作品の構想はあったのでしょうか?

うっすらで言ったら20年ぐらい前からです。もともと歴史は好きで、一番好きな時代は明治維新の後でした。幕末に活躍した人たちのその後に興味があったのですが、そこから興味が広がって第一次世界大戦に興味を持ち、第二次世界大戦へと広がっていきました。そして戦後史まで興味がつながると、「ドッジライン」や「シャウプ勧告」など単語としては知っているけれど、学校の授業では詳しく習わなかった出来事がたくさん出てきました。それらを知るにつけ戦後史が戦国時代や幕末に匹敵する面白い時代だと思いました。本格的に資料を集めだしたのは7、8年前からです。

──漫画を描く上で、参考にしている資料はいくつかあると思いますが、ストーリーを作っていくなかで、影響を受けた資料は何でしょうか?

「佐藤栄作日記」は、佐藤と池田の関係性を知るのにすごく重宝しています。それとイギリスの首相だったウィンストン・S・チャーチルの「第二次世界大戦」も、『疾風の勇人』で描く世界情勢の前段階を知るうえで非常に役に立っています。トルーマンやチャーチルの人となりを知るうえでもすごくいい資料だと思います。この本は口述筆記なのですが、チャーチルがまわりくどい自画自賛ばかりしていて読み物としても面白いです。回顧録は意外と皆さん、自画自賛していますね(笑)。

──池田勇人の風貌とキャラ設定は、誰かを参考にしたのでしょうか?

風貌は若い時の写真を参考に、よりかっこよくデザインしています。キャラ設定は資料をもとに膨らませて描いています。池田の秘書だった宮澤喜一や大平正芳が自身の若いころを振り返った文章の中で、池田についてけっこう書いているので、2人が書く池田のエピソードはすごく参考になりました。

──この作品を描く上で、一番力を入れているところはどこですか?

顔芸(顔のアップ)です。本当は状況説明はさらっとやって、もっと顔のアップでバンバン見せていきたいのですが、戦後はいろいろと状況が複雑で説明しないといけないことが多く、そういう見せ方があまりできないところが歯がゆいところです。でもできるかぎり顔芸で見せるようにしています。

──ストーリーのプロット・演出・コマ割りなどで、工夫しているところはどんなところでしょうか?

めくりです。めくって「ドーン!」という読みやすさにはこだわっています。本当はもっと見開きを多用したいのですが、週刊連載だとページ数的に見開きがあまり使えないので、めくりを効果的に使うようにしています。それと状況説明の部分をいかに読みやすくできるかにも毎回腐心しています。資料を読むといくらでも面白い小ネタが転がっているのですが、ページに限りがあるので、毎回泣く泣く削っています。

──先生は、戦後史の政治家で池田勇人以外では、誰が一番好きですか? その理由は何でしょうか?

一番と言われると難しいですが、小渕恵三はけっこう好きです。小渕さんが首相になった当時、森喜朗など他にも強面(こわもて)の有力な首相候補はたくさんいたと思うのですが、そんな中で弱そうなちっこいおじさんがポッと出てきて首相になった。しかも経済政策がうまくいってそこそこ成功し、意外と任期も長かった。そんな小渕さんにすごく興味があり、いずれ掘ってみようかなと思っています。それと海外の政治家で言えば、マーガレット・サッチャーが好きです。フォークランド紛争の時、閣議で「この内閣に男は1人しかいないのですか?」と言ったかっこよさにシビれます。イギリスの歴代首相の中で最も任期が長かったということは、圧倒的な指導力があったのだと思います。

──壮大な「政治大河ドラマ」であるという感じをうけますが、どの程度くらいまでフィクションの要素を入れているのでしょうか?(広島弁を多用しているところなど)

連載開始前、取材で池田の生まれ故郷の広島県竹原市に「池田勇人展」を見に行ったのですが、同郷の竹鶴政孝(ニッカウヰスキー創業者)と対談している映像では池田はバリバリ広島弁をしゃべっていました。ですので広島弁多様はフィクション要素というほどではないと思います。大筋はあくまでも史実通りですが、フィクションの要素は相当入っています。その場のノリで入れているので割合はよくわかりません。読者の皆さんにはフィクションの部分を見つけて楽しんでもらえればと思います。

──最新第3巻の見どころと、ファンの方へのメッセージをお願いします。

吉田の密命を帯びた池田がワシントンに乗り込みます。講和に向けていよいよ物語がダイナミックに動き出しますのでお見逃しなく。そして池田の壮絶な過去編も収録されています。このエピソードを知った時に、池田という人物の厚みがすごく出ると思いました。この挫折から首相にのぼりつめたわけですから、明治生まれの男の気骨を感じずにはいられません。見どころ盛りだくさんの3巻をどうぞよろしくお願いします。

(渡光弘)

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