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うつやがんの危険が増す!「毒になる言葉」に晒されていませんか?

2016.11.30
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症状はあるけれど、いくら検査しても「異常値」が見つからないという患者が増えています。このような症状を「原因不明病」と名づけた梅谷さんは多くの患者と接する中であることに気づきました。それは“言葉”の持っている力が病気を招き寄せているのではないか、ということでした。

──言葉と身体と心には深い関係がある。──

確かに“他人からの心ない言葉”などにより心身のバランスを保つことができなくなり、大きなストレスを抱え、それが病のもとになることは充分に考えられます。言葉には身体や心に対する「毒」になる言葉、また逆に身体や心を癒(いや)す「薬」になる言葉があるのです。

──毒のある言葉による攻撃は、その人の気持ちを落ち込ませて「うつ」状態を作り出します。全身の自律神経系を緊張状態に置き、ホルモンバランスを崩します。また、免疫力を低下させるので、病気にかかりやすくなります。持続的な免疫力の低下は、がん発生の危険性を高めます。がんや高血圧、心臓病、胃腸病など、ストレスがらみの病気はとても多いのです。──

ではどのような言葉が「毒」になり、私たちの健康を蝕(むしば)んでくるのでしょうか。思い浮かぶのは「存在を全否定する言葉」です。この本では、典型的(極端)なものとして「あんたなんか産まなきゃよかった」という母子間での言葉がそれにあたると梅谷さんは指摘しています。

これだけではありません。「プライドを傷つける言葉」も「毒」になります。プライドといわれると、少し怪訝(けげん)に思われるかもしれません。でもこの「プライド」というもの、「自分に対する満足度が低い人ほど、逆に『プライド』を高くして身を守ろうする」という傾向が見られるそうです。ですから「自分の価値を証明する『プライド』に関する部分を攻撃されると、心のバランスを失って」しまうのです。

それ以外にも「不登校を生み出す言葉」など、「毒」になる言葉が取り上げられています。すぐに気がつくことは、それらの言葉がなんら特殊・特別な言葉ではないということです。「あなたのせい」とか「こんなこともわからないのか」というような言葉はなんら特別な言葉ではありません。思わず(!)感情に流されると使ってしまいそうな言葉なのです。

このような「毒」になる言葉から身を守るにはどのようにすればよいのでしょうか。たとえば職場で「毒」になる言葉に出会ったときは、
1.軽いストレスはそのまま耐える
2.ストレスを柔軟にかわす
3.たまったストレスは外に出す
と振る舞えばいいそうです。つまり

・軽いものは笑ってやりすごす。

・相手が怒っているときは黙って聞く。

・冷静になる。

・一言投げ返す。

・最後は勇気をもって反撃する。
こういった対応をすることで「毒」のある言葉から身を守ることができます。

もちろん言葉には相互の間柄=関係性が反映していることを忘れてはいけません。
──関係がうまくいっている人となら、「やさしい言葉」を交わせるけれど、不仲な関係だと「毒のある言葉」を浴びることになるのは当然の話。「言葉を変えることは、自分を変え、相手を変えること」。だから、言葉の深層を探ることです。相手の本当の不満や不安はどこにあるのか? どのような「構造」がその言葉を表面化させたのか? 「構造」を変化させるのに必要な「言葉」とはなにか? 他人を変化させるのは難しくても、自分が変われば、相手の対応も変わる。そのことをけっして忘れないことです。──

さらには「安定したセルフイメージを作り上げる」ことも「毒」になる言葉から身を守ることに役立ちます。「気持ちが落ち込んで抑うつ的な状態」になりそうなときに「自己評価を高める言葉」があればいかに人が救われるか、多くの臨床で梅谷さんは目の当たりにしたそうです。

──自分で「打たれ弱い」とか、「もともと神経質で」とか言う人は、自分の評価がとても低いことが多いのです。それが病気に対する抵抗力、免疫力を低下させているのではないかとすら思えます。──

これでは「安定したセルフイメージ」を持つことが難しくなります。ですから「自分を定義する言葉」を持つことも自分を助けることになります。
──自分の生き方を見直してきちんと「言語化」してみる。言葉にするということは、「操作可能なレベルに持ち込む」ということです。的確な言葉で「自分を定義」して、それをさらに無理のない言葉に置き換えていく。タテマエではなく、本音の部分をより無理のない生き方に変容させていくことで、私たちはもっと生きやすくなり、健康にすごすことができるようになるのではないでしょうか。──

「毒」になる言葉とは「無理」を強いてくる言葉でもあります。それに打ちひしがれない「自分」を作る(定義する)ことが大切なのです。

では、「薬になる言葉」とはどのようなものでしょうか。それは「毒になる言葉」の正反対の言葉です。「肯定」につながる言葉がそれにあたります。例として「大丈夫」「心配しないで」「たいへんでしたね」などという言葉があげられています。これらは相手の「苦労を承認する言葉」であり相手の「心の居場所」を見つけさせる言葉となっているのがわかります。

言葉は関係の中で発せられます。ですからどのような人間関係のもとで話されているのかは極めて重要なことになります。信頼関係がなければ言葉はすぐに「毒」となります。また「薬」の言葉が役に立たないばかりか、逆効果になることも考えられます。
──ストレスを引き起こす「言葉の毒」の犠牲にならないためには、なによりも安全で安定的な人間関係を築く必要があります。──

この本がコミュニケーションの在り方を問うものとなっているのを証している1節だと思います。言葉の持っている力を生かし、自分の人生を充実させるにはどのようにすればよいのか、豊富な臨床例とミニ・ワークが収められたこの本は、これ自体が「薬になる本」といえるものです。
──自分にふさわしい「言葉」を選ぶことによって、自分にふさわしい人生の意味を見出していくこと。「人生は生きるに値するもの、自分は愛されるに値する人間」だと、心と身体の奥底から実感できること。私が、外来で出会う方に今日も願っているのは、つまりはそういうことなのです。──

  • 電子あり
『「毒になる言葉」「薬になる言葉」 医者が教える、病気にならない技術』書影
著:梅谷薫

検査をしても異常が見つからない胃腸の痛み・苦しみを訴える人が増えている。あちこちの病院を受診しても原因がはっきりせず、原因不明だから治療のしようもない。現代において、「病は言葉から」だった! 知らず知らず身体も心もむしばむ言葉の毒。「言葉」が病気を生むそのメカニズムを解き明かすとともに「言葉」の力を味方につける具体的な方法を探る。「言葉」を変えれば自分が変わり、人生をも変えることができる。ふだんの“なにげない一言”を毒から薬に変える、言葉の選び方・使い方……。それは健康はもちろん、“自分らしく幸せに生きる”ための鍵です。その実際的な“処方箋”を、豊富なケーススタディとともに伝授する。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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