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【ヤバすぎる背景】日本の貧困問題・貧困事情はなぜ表面化しないのか?
(著:藤田孝典)
総務省統計局のこのような統計数字があります。
労働力調査(基本集計) 平成28年(2016年)8月分 (2016年9月30日公表)
(1)就業者数,雇用者数
就業者数は6465万人。前年同月に比べ86万人の増加。21安倍ヵ月連続の増加
雇用者数は5722万人。前年同月に比べ83万人の増加。44ヵ月連続の増加
(2)完全失業者
完全失業者数は212万人。前年同月に比べ13万人の減少。75ヵ月連続の減少
(3)完全失業率
完全失業率(季節調整値)は3.1%。前月に比べ0.1ポイント上昇
最後の完全失業率こそ前月マイナスですが、数字は好転しているようです。これは実感としても正しいのでしょうか。景気は緩やかに回復していると考えた人は、この本がいう「貧困をわからない」状態にあるのかもしれません。就業人口の増加は、景気の上昇を反映しているかも知れませんが、必ずしも生活の改善(上昇)を意味しているわけではありません。ここにも“貧困”への感受性の弱さ、無神経さがあります。景気の上昇は企業、資本の好況を意味しますが、それがそのまま貧困の解決にはなりません。
「ワーキングプア問題」を忘れないでください。
──働いてもまともな賃金が得られる保証がない職種も増えている。そして、その仕事はたいてい非正規雇用で、終身雇用ではないため、不安定な就労形態をとっている。賞与や福利厚生がない職場も多く、働いたからといって、生活が豊かにならないことが現在の労働市場で起こっているのだ。(略)働いても貧困が温存されてしまうのである。──
就業してもそれが貧困問題の解決に繋がっていかないのです。
貧困問題・貧困事情が理解されないのはなぜでしょうか。ここには貧困にたいする偏見、先入観があります。藤田さんは大きく5つのもの(神話と名づけています)を取り上げています。
1.労働万能説:働けば収入を得られるという神話
2.家族扶養説:家族が助けてくれるという神話
3.青年健康説:若者は元気で健康であるという神話
4.時代比較説:昔はもっと大変だったという時代錯誤的神話
5.努力至上主義説:若いうちは努力をするべきで、それは一時的な苦労だという神話
このような「神話」に取り憑かれていては「貧困の実態・正体」はわかりません。それどころか「貧困の拡大」に繋がることにもなります。
──労働万能説を論じる人々は、労働していない若者や、労働を望まない若者を怠惰だと見なす傾向がある。そのため、できるだけ早く労働するように、なかば「仕事は選ばなければ何でもある」と、労働に若者を駆り立てる。たとえ、駆り立てられた若者が行き着く先がブラック企業であったとしても。──
「労働万能説」はブラック企業を黙認することにもなりかねません。労働環境の改善を阻害し、ワーキングプアを増大することになります。就業人口の増加といっても、このようなブラック企業に勤めざるをえない人々、また、待遇が恵まれていない非正規雇用人口を含んでの増加ですから、企業の利益に荷担することはあっても、生活の改善、貧困から脱出ということには繋がりません。企業の利益増は好景気と考えられやすいのですが、それでは“労働の実態・実体”は見落とされてしまいます。
「家族扶養説」では、そもそも家族が貧困であること、その連鎖の中にいるということを見落としてはなりません。この扶養説は“家族重視”という美名で「社会福祉や社会保障の機能を家族に丸抱させ」、家族全体の貧困化を進ませることにもなります。
「時代比較説」や「努力至上主義説」には、現実に「必死に努力しても報われない社会が到来していること」を認めないという頑迷さがうかがえます。
──生まれつき資産の蓄えられた家庭に生まれるか否かによって、「持っている人」と「持っていない人」が固定化している。正社員、非正規社員という働き方によっても、格差は拡大する。つまり、努力をするかしないかに関係なく、人生の大筋は生まれ持った運で決まってしまい、そこから脱却することは容易ではない。努力で何とかなる、頑張れば報われるという時代ではなくなっているのではないだろうか。──
少しも大袈裟ではありません。「持ってない人」は満足に学ぶこともできません。学びたいと思っていても、彼ら、彼女たちを待ち受けているのは「ブラックバイト」や「奨学金」という卒業後も続く借金地獄です。
「下流老人」とリンクする「貧困世代」が間違いなく増えています。もはや前時代的な「努力」「苦労」などという言葉では理解も分析もできない事態を迎えています。「働き方改革」や「一億総活躍社会」というお題目では何の解決にもなりません。「仕事」は就けばいいというものではありません。その「仕事」がどのようなものなのか、その「仕事」に就くことで彼ら、彼女らの生活は改善されたのかということがすべてなのです。
藤田さんは「住宅問題」に着目します。
──住宅は権利なのか、商品なのか。わたしたちの社会では、住宅をどう捉え直していくのかが問われている。市場原理に委ねれば、弱肉強食で、良い住宅を強い者だけが独占してしまう。そこからはじき出された多くの人々は、最低限の住まいすら得られない。日本の住宅政策は若者の貧困という課題を前にして、大きな岐路に立たされている。──
住宅問題を軽視してはいけません。「先進諸国では住宅政策を整備することが福祉の基本であり、政府も率先して取り組んでいる」ことなのです。藤田さんは日本居住福祉学会会長の早川和男氏のこのような意見を紹介しています。「日本では、個人が自力で得るものとして、住宅を捉えてしまったことに問題があり、人はどのような住宅で幸せな暮らしを送るべきかについての議論も、構想もしてこなかった」と。住宅は「最大の福祉制度」なのです。金利ゼロの“恩恵”で起きている不動産バブルはまったく対局の事態を引き起こしています。不動産で一部景気は上がっているように思えても、それの“恩恵”は一部の人だけで、貧困の解決には少しもなりません。
貧困に対して私たちはなにをすべきなのでしょうか。藤田さんは5つの提言をしています。
1.新しい労働組合への参加と労働組合活動の復権
2.スカラシップの導入と富裕層への課税
3.子どもの貧困対策とも連携を
4.家賃補助制度の導入と住宅政策
5.貧困世代は闘技的民主主義を参考に声をあげよう
これらの提言の詳細は読んだ人がその諾否を考え、よりよい対策があれば提案するということが、今求められていることだと思います。
「政策や社会システムによって、意図的に作り出されて」きた「貧困世代」、「一生涯貧困に至るリスクを宿命づけられた状況に置かれた若者たち」の問題は決して“自己責任”などという言葉で語ってはなりません。新たな社会システムを探り、構築することが求められているのです。この本は、貧困という社会問題を考える上で必読です。
- 電子あり
大多数の若者たちは、現代日本の社会構造のおかげで、夢や希望を叶える活力を持ちながらも、それを生かせずにもがいている。しかも悪いことに、若者たちは支援が必要な存在だと認識されておらず、社会福祉の対象としては扱われてこなかった。貧困世代約3600万人はまるで、日本社会がつくった監獄に閉じ込められている囚人のようだ。若者は働けば収入を得られる、若者は家族が助けてくれる、若者は元気で健康である、昔の若者のほうが大変だった、若者の苦労は一時的なものだ……こうした「大人の言説」はすべて間違っている。本書では、所持金13円で野宿していた栄養失調状態の20代男性、生活保護を受けながら生きる30代女性、ブラック企業でうつ病を患った20代男性、脱法ハウスで暮らさざるを得ない20代男性の事例などの、筆者自らが聞き取った体験談を分析し、いかに若者が社会からこき使われ、疲れ果て、貧困に至っているのかを書き尽くす。貧困世代のつらさを全国民が深く理解し、いびつな社会構造を変えなければ、下流老人も含めた日本固有の貧困問題は絶対に解決しないのだ。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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