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人跡未踏の地か? 人間の坩堝か?──最高の探検を語り尽くす!

探検部を卒業し、今をときめく人気ノンフィクション作家となった高野秀行と角幡唯介。
未知の世界への憧れを原動力とする点は共通するが、テーマのえらびかたやアプローチの仕方は2人で大きく異なる。
高野は混沌とした人の渦へ頭からダイブし、角幡は人跡未踏の地をストイックに攻める。
探検家前夜から、探検の実際、執筆の方法論、ブックガイドまで、夢追い人二人の仕事の流儀が惜しみなく明かされた1冊。
文庫化を記念して、ここに一部をお届けします!

2016.10.14
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世界中の超秘境を行く! 高野秀行&角幡唯介の足跡

グリーンランド探検(角幡・2014~15年)
北極圏1600km探検(角幡・2011年)
カナダ・ケント半島天測放浪(角幡・2012~13年)
アマゾン川全流遡行(高野・1990年)
太平洋マグロ船同行取材(角幡・2014年)
ニューギニア・トリコーラ山北壁初登攀(角幡・2001年)
雲南省独龍江旅行(角幡・1999年)
ミャンマー・ケシ栽培(高野・1995~96年)
西南シルクロード探査(高野・2002年)
ヤル・ツアンポー峡谷探検(角幡・2002~03年・2009年)
ブータン雪男調査(高野・2010年)
ヒマラヤ雪男捜索(角幡・2008年)
トルコ・シャナワール調査(高野・2006年)
ソマリランド取材(高野・2009~14年)
コンゴ・モケーレ・ムベンベ探査(高野・1988年)

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作家虎の穴

高野俺、西木正明*さんの文庫の解説に書いたことがあるんだよ。なぜ探検部には作家が多いのかということを。探検部のやってることはとにかくわけがわからない。それを人に納得させるということを大学時代に一所懸命やっていると、それはプロにつながりやすいということ。

たとえば山だったら、「ヒマラヤの未踏峰を登りにいく」と言ったら、説明する必要はまったくない。でも、未知の動物を探すとか剱岳を3000メートルにするとなると、説明しないと意味がわからないんだよね。

西木さんたちはベーリング海峡を歩いて渡るというプロジェクトをやったんだけど、北極の氷の上を歩いてソ連とアメリカの国境を越えるという発想に単純にしびれただけだと思うんだよ。でも当時、ソ連とアメリカは冷戦まっただ中で、そこが最前線なわけでしょう? それを歩いて渡るなんて普通に考えれば無理に決まってるから、なにか壮大な大義をぶち上げないと計画が成立しない。

で、「人類はアフリカから来てベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に入ったという学説を自分たちが歩いて証明する」というこじつけを行うんだよ。ベーリング海峡を渡って人類何万年の歴史解明に寄与するとか。計画書にはそういうすごい理念が連ねられていたはずなんだよね。本当はただベーリング海峡を歩きたいだけなのに、言葉をもって自分たちの正当性を認めさせようとした。そうしないと自分たちの存在意義とか活動の意味がわからなくなってしまうので。そういう習慣なんだよね。

角幡そういうことを学生時代から一所懸命やってると直木賞作家になれるんですかね。

高野関係あると思うんだよ。だって、文章を書く目的って、自分の思っていることを書くことじゃないでしょう。読み手に「へえ、なるほど」と思わせるのが目的でしょう。そんなことを学生時代からせっせとやっていると、一部の人にはそういう能力がすごく磨かれるということはあると思う。

角幡確かに僕、大学では文章なんかまったく書いていない。卒論も書いていないんですよ。探検部の計画書しか書いていなかった。

高野だろう? だから鍛えられてるんだ。探検部で非常識な活動をやっていると文章技術がきっと上がるんだよ。

1988年、アフリカのコンゴでモケーレ・ムベンベ調査を行う高野(写真左)

角幡唯介(写真右)。2001年、ニューギニアで

角幡計画書っておもしろいんですよね。部室に過去の計画書がたくさんファイリングされていたのでよく読んでいたんですが、「なんでこんなところに行くのか」とか、「なんでこんなことするのか」と自分なりに考えて書いてるから、すごくおもしろいんです。
計画書ではみんな夢を語っているじゃないですか。くだらない夢もあるんだけど、それをなにか理由つけて熱く語っている。そういうのが文章の訓練になっていたのかもしれないですね。

高野そういうことだと思う。

角幡'70年代あたりの昔の計画って発想のスケールが大きい感じがしましたね。常識に縛られていない計画が多かったような気がするんですよ。

高野たとえば?

角幡三原山の噴火口に降りてマグマを見に行ったり。ああいうのって今はなかなか発想自体が出てこないんじゃないですか。へんに気を遣わなきゃいけない時代だし、おとなしくなってしまっている。当時はもうちょっと自由にやれたんだろうなと。

高野まあ、探検部が社会にとっても利用価値があったんだと思うよ。船戸さん*は出版社からお金もらってマダガスカルに行ったりしているんだけど、よく聞くとほとんど単なる旅行なんだよ。それでも、特派員とかあまりいない時代だから、写真撮ってきてちょっと文章書くだけで、充分、雑誌の記事として価値があったんだよね。そういう時代。三原山だって、目的は映像に収めることだったんだよ。

角幡「地球の太陽を見る」とかいうキャッチフレーズだったんですよね。

高野そうそう。当時はそういうことをやる人がいなかったんだよね。それが'80年代になると、海外ぐらい誰でも行くようになったし、探検部の「行った者勝ち」的な役割が相対的に下がったんだろうな。

角幡出版社とかテレビ局も探検部を利用して記事や番組を作ろうという風潮がまだあったんですか。

高野うん、そうだと思う。だから世間が知ってるよりは、探検部出身の作家とかマスコミ関係者って多いじゃない?

角幡そうですね。

高野アラスカの写真撮ってた星野道夫*さんは慶應の探検部だし、ノンフィクション作家の髙山文彦*さんもそうだし、吉田敏浩*さんも明治でバリバリやってたんだよね。関野吉晴*さんももちろんそうだしさ。

角幡長倉洋海*さんもそうですよね、確か。

高野そうそう、同志社だったかな。こんなに作家とかジャーナリストを輩出してるサークルってあまりないんじゃないかな。

角幡へたな文芸サークルより……。

高野そうなんだよ。

角幡本多勝一もいますしね。

高野おお、そうだ。張本人を忘れてたよ。最初に大学探検部を作った男。

角幡僕は探検部入ったころによく読みましたね。最初はやっぱりかなり影響受けました。『冒険と日本人』とか『植村直己の冒険』とか『リーダーは何をしていたか』とか「極限の民族」3部作とか。冒険や登山関係のものが多かったですけど、普通に『殺される側の論理』なんかも読んでましたし。

高野角幡のころもみんな読んでたの?

角幡いや、そんなことないと思います。僕くらいじゃなかったかな。

高野俺たちのころはみんな読んでたんだよ。だいたい入部してすぐ、1年のころに読むんだよね。そこで感銘を受けて、「反体制にならなきゃダメなんだ」とみんな思うわけ。そのうちたいてい離れていくんだけど、でも一度は通る道だったな。

角幡僕、本多勝一の文庫本の解説*を書いたんですよ。登山のことを語っている本。僕は冒険とか登山のことについていろいろ考えてきて自分なりの理論を持っていたので、自分のほうが本多勝一よりわかっているという自信があったんです。でも久しぶりに読み返してみたら、僕の論理そのままのことが書いてあったんです。自分で作り出した理論だと思っていたんですけど、彼の本で読んでいたことを忘れていただけだった。そういうことを解説に書いたら本人から手紙が来て、「あなたは僕のことを僕よりもわかっている」(笑)。

高野おおー。

角幡大先生からたいそうなお褒めの言葉をいただきました。いい思い出です。
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*注

西木正明
作家。早大探検部OB。初期のカリスマ的幹事長として部内では知られ、ベーリング海峡徒歩横断計画を率いた。『オホーツク諜報船』(角川書店)、『夢顔さんによろしく』(文藝春秋)など著書多数。「凍れる瞳」「端島の女」(文藝春秋)で第99回直木賞受賞。
 
船戸さん
船戸与一。冒険小説作家。早大探検部OBで、西木正明の1年後輩、高野、角幡の先輩にあたる。『山猫の夏』(講談社)、『砂のクロニクル』(毎日新聞社)、『夢は荒れ地を』(文藝春秋)など著書多数。『虹の谷の五月』(集英社)で第123回直木賞受賞。
 
星野道夫
自然写真家。慶應義塾大学探検部OB。主にアラスカを舞台にした自然・動物写真で知られる。1996年にカムチャツカ半島でヒグマに襲われ死亡。『Alaska』(朝日新聞社)、『ノーザンライツ』(新潮社)など著書多数。
 
髙山文彦
ノンフィクション作家。法政大学探検部OB。『火花 北条民雄の生涯』により、第31回大宅壮一ノンフィクション賞、第22回講談社ノンフィクション賞を受賞。
 
吉田敏浩
ジャーナリスト。明治大学探検部OB。ミャンマーを長期取材した『森の回廊』(日本放送出版協会)で第27回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
 
関野吉晴
探検家。一橋大学で探検部を創設。アメリカ大陸からユーラシア大陸を通ってアフリカ大陸まで人類発祥のルートをたどる旅「グレートジャーニー」で知られる。著書、写真集も多数。
 
長倉洋海
フォトジャーナリスト。同志社大学探検部OB。タリバンに対抗した軍司令官アフマド・シャー・マスードに密着した取材で知られる。『マスード 愛しの大地アフガン』(JICC出版局)で第12回土門拳賞受賞。
 
本多勝一の文庫本の解説
『日本人の冒険と「創造的な登山」』。山と溪谷社刊。
高野秀行 イメージ
高野秀行

高野秀行(たかの・ひでゆき)
1966年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大探検部在籍時
に執筆した『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。著書に『アヘン
王国潜入記』(集英社文庫)、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫)
ほか多数。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で酒飲み書店員大賞受賞、『謎の
独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)で講談社ノンフィクション賞、梅樟忠夫・
山と探検文学賞受賞。

角幡唯介 イメージ
角幡唯介

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年、北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。
同社退社後に執筆した『空白の五マイル』(集英社文庫)で開高健ノンフィクション賞、

大宅壮一ノンフィクション賞、梅樟忠夫・山と探検文学賞受賞。『雪男は向こうから

やってきた』(集英社文庫)で新田次郎文学賞受賞。『アグルーカの行方』(集英社文庫)

で講談社ノンフィクション賞受賞。

『地図のない場所で眠りたい』書影
著:高野秀行/角幡唯介

探検部を卒業し、今を時めく人気ノンフィクション作家となった高野秀行と角幡唯介。未知の世界への憧れを原動力とする点は共通するが、テーマの選び方やアプローチの仕方は大きく異なる。高野は混沌とした人の渦へ頭からダイブし、角幡は人跡未踏の地をストイックに攻める。夢追い人二人の、仕事の流儀!

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