今日のおすすめ
実録ヤクザ映画は、本物の組長にどこまで力を借りるのか?
(著:伊藤彰彦)
「仁義なき戦い」シリーズで有名な深作欣二監督の最後のヤクザ映画「北陸代理戦争」のモデルとなった組長が、映画に出て来る事件の舞台と同じ喫茶店で殺された……。
「映画の奈落 完結編 北陸代理戦争事件」は、このショッキングな出来事を映画製作者・映画史研究者である著者が、当時の資料を分析し、映画関係者だけでなく、その筋の方々にも取材を重ねたノンフィクションです。
そして、「なぜ、この事件が起きたのか?」「犯人は、わざとこの映画と同じシチュエーションを選んだのか?」という謎が、当時の関係者の生き様や、葛藤とともに紐解かれていきます。
私自身、残酷、流血、殺人系映画が苦手なので、東映ヤクザ映画は、ほとんど見たことがなく、なぜ、男の人はこういう映画が好きなのか、なぜ、ヒットしたのかも、長いこと理解できませんでした。
しかし、昭和20〜40年代にかけて、地方自治体が公営ギャンブルの場内警備にヤクザの力を借りていたという事実、よりリアルで面白い映画を作ろうとする映画人としての職人魂が、実録ヤクザ映画へと突き進んで行ったことが、この本を読み進めていくとわかります。
中でも、映画制作のために取材を行った脚本家たちと、モデルとなった北陸ヤクザの組長との会話は、奇跡的に残っていたインタビューテープから掘り起こされているので、実に生々しいのです。
そして、真実を追求するあまり、取材中にヤクザの接待を受けたり、撮影にもヤクザの力を借りたりというズブズブの関係が、後に大事件へと発展していく過程が、なんともリアル!
さらに、喫茶店で組長を殺された報復として、仇である組長殺害計画の実行部隊の動きと意外な結末、死を覚悟しながら殺害の日を待つ彼らの本音は、人間の本質をついたノンフィクションならではの面白さです。
また、脚本の中の登場人物が、最終稿で男から女へと書き換えられたことによって、映画に深みが出たという制作秘話も知ることができます。
この本は、おそらく一生かかっても関わることはない未知の世界であるヤクザ社会と、古き良き時代の日本映画の製作現場をのぞき見したような気分にさせてくれます。
GWは特に予定もないからDVDでも見ようかな、だけど新作や人気作はレンタル中で、何を見たらいいかわからない (まさに私ですが……)という方は、まず、「北陸代理戦争」を見てから、この本を読むことをオススメします。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に構成作家として携わり、雑誌や映画の脚本も執筆。今までにインタビューした有名人は、1500人以上。また、2014年まで京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」のクラスを持ち、現在も東京都千代田区、埼玉県志木市主催の生涯学習で「小説講座」の講師を担当。
関連記事
-
2016.02.15 特集
記者はなぜ必要か?「究極の知力と精神力」を追体験できる傑作【読者・書店員 絶賛】
『ミッドナイト・ジャーナル』著:本城雅人
-
2016.03.03 レビュー
【衝撃ベストセラー】昭和の芸能裏社会、なぜここまで書ける?
『やくざと芸能界』著:なべおさみ
-
2016.02.25 レビュー
これは何かの冗談か? たった一人の男が体験した「芸能事件簿」
『昭和の怪物 裏も表も芸能界』著:なべおさみ
-
2016.02.12 レビュー
【内部告発】警察・公安の不正捜査、報道できない暗黒面
『警察捜査の正体』著:原田宏二
-
2014.02.26 レビュー
「笑わせることを身上とする往年の喜劇人と笑われることが人気のバロメーターの今のタレントさんとは、全く違うのです」
『最後のクレイジー 犬塚弘』著:犬塚弘/佐藤利明
人気記事
-
2024.06.28 レビュー
能登半島地震の悲劇を徹底取材──「政治の人災」を繰り返さないための防災マニュアル
『シン・防災論―「政治の人災」を繰り返さないための完全マニュアル』著:鈴木 哲夫
-
2024.06.26 レビュー
【衝撃の手記】ゴーン会長のもと、日産社長を務めた男はそのとき何を考えていたのか?
『わたしと日産 巨大自動車産業の光と影』著:西川 廣人
-
2024.07.01 レビュー
「趣味はダイエット、特技はリバウンド」という方へ! モチベーションアップのコツ
『にゃんこダイエット モチベーション ブック 一念発起×初志貫徹 痩せにゃいわけない辞典』編:ダイエット・モチベーション・クラブ
-
2024.06.30 レビュー
「弱いまま、強くなる」 MEGUMIさんが、美容を“やる”理由とは!?
『心に効く美容』著:MEGUMI
-
2024.06.24 レビュー
ホンモノ中華料理にアナタの肥えた舌を捧げよ!
『進撃の「ガチ中華」 中国を超えた? 激ウマ中華料理店・探訪記』著:近藤 大介