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官能的本格ミステリ「エロミス」の奇才・早坂吝の最高傑作!
前代未聞(?)の超衝撃作、『○○○○○○○○殺人事件』で第50回メフィスト賞を受賞した早坂吝さんは、新人作家ながら、すでにミステリの歴史に名を刻まれたお方なのだと僕は認識しています。それぐらいデビュー作のインパクトは凄まじかったし、2作目の連作短編『虹の歯ブラシ』では官能的な部分がさらにパワーアップ、それでいて官能小説ではなく本格ミステリと呼びたくなる作風なのだから、こんな人がいるのかとますます好きになりました。
そんな〝リビング・レジェンド〟早坂吝さんの最新作が『誰も僕を裁けない』。この作品は美少女〝援交探偵〟上木らいちシリーズ待望の第2長編。帯文には〈必ず驚かされる。史上初(?)の「社会派エロミス」誕生!!〉なんて書かれているじゃないですか。
──しゃ、社会派エロミス!? なんだ、それは?
「社会派」といえば松本清張さんとその作品群が、「エロミス」といえば早坂吝さんとその作品群が真っ先に脳裏を掠めますが、どうもそのふたつの作風が結びつかない。
ただ、今回の長編はそれまでとはいささか様子が違うぞ、との予感はありました。本書に先駆けて『メフィスト 2015 VOL.3』に一部掲載されていた『誰も僕を裁けない』を読んで(この時点では社会派エロミスのキャッチコピーはなかったはず)、既刊作品と比べてちょっと空気が重たいというか、なんか雰囲気が違うな、との感想を抱いた記憶は未だに新しい。
そんなふうに思わされた主因は、主要登場人物である戸田公平の心理描写でした。早坂さんの作品らしく笑えて、エロくて、でも、そこはかとなく漂う空気の重さは、彼の存在に大きく関係しています。プロローグの法廷シーンに始まり、その後、過去に遡って戸田がクラスメイトの女子の自殺に関わってしまうまでの描写で、本書の〝雰囲気〟は確立される。
その後の刑事や弁護士との会話、物語の進行に合わせて彼の置かれた状況が変化していく描写にはリアリティと説得力があります。もし自分が戸田と同じ状況に立たされたら、そのときはきっと彼と大差ないことを考え、憤るに違いない、と身につまされること多々。それがどんなものか、ここで具体的なことを書くと物語の核心に触れてしまいかねないので割愛しますが、それでいて、『誰も僕を裁けない』はやはりエロミスなのです。肝心(?)のエロパートも主には戸田が担っているため、彼が本作の主人公と断じて差し支えないかもしれません。
その一方で〝援交探偵〟上木らいちの本作におけるエロへの貢献度はというと、序盤に〝客〟との絡みがある程度で、彼女自身、艶めかしい展開に持ち込めず落胆するところが面白かった。エロの部分では活躍できない彼女の存在が、ミステリとしての重要なポイントにもなっているので、お見逃しなく。
そんな彼女視点パートの説明をもう少しだけ加えておくと──、らいちは、大企業の社長から「メイドとして雇いたい」と記された手紙をもらい、これは迂遠な愛人契約オファーなのだと決めつけて承諾、特異な形の館で過ごすことに。しかし、手紙の差出人は当主の社長ではないかもしれない、とすぐに疑い始める。やがて館内で殺人事件が発生。二十代に見えるヒステリックな妻と、奇妙な名前の子供たち……。その子供たちのうち少なくともふたりは、何か隠し事があるらしく、そのことに怯えている。事件は連続殺人へと発展し、帯文の〈必ず驚かされる〉の謳い文句そのままの結末に……!
デビュー作『○○○○○○○○殺人事件』でもそうでしたが、早坂さんは超大技トリックを誰にも気づかれないような形で、さらっとぶち込んでくるから油断ならないです。しかしそれは、著者の才気の証左であり、SNSでは本作を早坂さんの「最高傑作」と賞賛する向きも多いようです。その賛辞に僕も納得です。
それだけに──らいちシリーズは、どうしても好き嫌いのはっきり別れる作風ですが──生理的にエロが苦手な方以外で食わず嫌いしているなら、是非、本書を手に取ってみてください。『誰も僕を裁けない』は、早坂吝という奇才にしか書けない作品です。まったく同じトリックを用いても、こんな形でエロを盛り込めるのは早坂さんだけ。いろいろと度肝を抜かれること請け合いですよ!
レビュアー
小説家志望。1983年夏生まれ。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。
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