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【美術の迷宮①】18禁「豆判春画」の臨場感
(監・文:浅野 秀剛 資料提供:浦上 満)
「春画ブーム」……という言葉を、昨年あたりから耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。春画と言われると、江戸時代のエロ本でしょう?とだけ思い浮かぶ人が大半だと思います。実際に私もその程度の知識でした。が、ここ数年、その春画が盛り上がりを見せているといいます。
きっかけはロンドン・大英博物館で2013年10月から2014年1月まで開催された展覧会「春画―日本美術の性とたのしみ」でした。約9万人の来場者を集め、大成功に終わったのです。その勢いを弾みに、日本では実施困難だったという春画展がついに実現したのが2015年9月。それまで春画をメインとした展示は日本では例がなかったのですが、3ヵ月にわたって開催され、計21万人の動員を記録しました。
さて春画の中に、「豆判春画」という種類があります。江戸時代後期の文政期(1818〜30年)頃からさかんに作られるようになった、多くは12枚揃えで9×12cmほどの手のひらサイズのものをそう呼びます。当時大名や裕福な町人は、新年の暦を記した豆判春画を交換して楽しんでいたといいますが、ここに目をつけたのが浮世絵の版元。彼らによって販売されはじめた豆判春画を、庶民も懐に入れて楽しむようになりました。
残念ながら豆判春画は非合法の出版物なので、それぞれの絵を誰が描いたのかということは特定が困難。しかしほとんどの下絵は、江戸の浮世絵師が担当したと考えられています。このたび発売されたばかりの「ART BOX 豆判春画」は、浮世絵の蒐集家として名高い浦上満さんの「和気満堂コレクション」の一部である、豆判春画の200枚21セットを初めて作品集として刊行したもの。夫婦、殿と奥女中、花魁と客、などさまざまなシチュエーションが収められていますが、1枚ずつ親切に解説が書いてあるのがありがたいポイントです。ティッシュペーパーのように見える紙が「ティッシュではなく、化粧道具とともに女性が懐に忍ばせた紙」であるなど、当時の様子がなんだか身近に感じられる豆知識が詰まっています。
「鳥獣戯画」ファンとして個人的に気になったのは、「豆判戯画」のシリーズ。狐や福禄寿など一風変わったキャラクターが登場する中、「老婆との行為の後。老婆は満足そうであるが、男は吐いている」の解説文には思わず吹き出してしまいました。
東京・永青文庫での春画展では、18歳未満は入場禁止ながら、若い女性の姿も多く見られたそうです。確かに局部が丸出しになっていたりするので、最初は少しドキッとするかもしれませんが、たまにインターネットを回遊していて突然出てきてしまう、裸のお姉さんの写真を使った18禁サイトの宣伝バナーに比べればかわいいもの。読んでるところを人に見られても「何を見てるの!?」と怪訝な顔をされることもないでしょうし、もしされても「江戸時代の芸術に興味があって」と言えばインテリな雰囲気すら漂うというものです。事実、鮮やかな色遣いだったり、流れるような描線であったり、鮮やかな着物の柄であったり、1枚ずつをじっと見つめても、その絵画としての魅力にどんどん引き込まれていきます。「その体位はありえないでしょ」「いくらなんでも性器大きすぎでしょ」と、ツッコまずにはいられない部分も愛すべきポイントです。
京都・細身美術館では、4月10日まで「春画展」を開催中。豆判に焦点を当てた展示コーナーもあるということなので、近くの人はぜひ足を運んでみては。遠方で現地に行くのは難しい人も、「ART BOX 豆判春画」でまずは手軽に春画の世界に触れてみましょう。
レビュアー
ライター・編集者。特技は過去にあった出来事の日付をいちいち覚えていること。好きな焼き鳥は砂肝。
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