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【宇宙の始まり】エネルギー世界を徹底解明
(著:ロジャー・G・ニュートン 訳:東辻 千枝子)
優れた入門書とはどのようなものなのでしょうか。なによりもわかりやすいということ、それから公正に広く内容を紹介しているということが上げられると思います。とりわけ後者は入門書を読んだ読者が自分自身の関心、興味に惹かれて次のステップに進む上でとても大切なことだと思います。
これは入門書には良識とでもいえるものが必要だということにほかなりません。
この本ではそれがこのようなところに感じられます。
「地球上で文明を維持するためのエネルギーはすべて、究極的には太陽から来ているということ(略)わずかな例外の1つが核のエネルギーであり、それは太陽のエネルギーのもとでもあります。もう1つは地熱のエネルギーで、その源もまた、原子核のエネルギーです」
「私たちが太陽に依存しているのは化石燃料ばかりでなく、再生可能な風や水、バイオマスとして利用できるものなどももちろん含まれています。風が吹くのも川が流れるのも、結局は温度の違いや高度の違いがあるからで、太陽の熱、引力、あるいはその両方によっています」
このようにニュートンさんは太陽が生物にとっていかに重要なものであるかという、いわれれば当たり前のことを手放さずにさまざまなエネルギーの世界を紹介していきます。
熱エネルギーから始まって電気エネルギー、化学エネルギー、核エネルギー、さらには量子力学のエネルギー、宇宙のエネルギーがどのようなものなのか、入門書に必要なわかりやすさも図解等で過不足なく紹介されています。
エネルギーの発生の仕組みだけでなく、人間にとって肝心なエネルギーの貯蔵と輸送についても1章がさかれ、丁寧に記されています。エネルギーの貯蔵でおもしろい記述があります。
「液体水素をエネルギーの貯蔵や、自動車の推進などの輸送に使うということは、ガソリンの使用とは根本的に異なっています。単に地中から取り出して精製して使われる後者は、エネルギーの「源」ですが、前者はエネルギーの運び手にすぎません。というのも燃料電池が水素を電気エネルギーに変えてつくり出すよりも、多くのエネルギーが(避けられない損失も入れれば)水素を発生させるために必要だからです」
考えさせられる指摘ではないでしょうか。
「水素を燃焼させても二酸化炭素は排出しません。しかし、製造工程で化石燃料を消費し、運搬や保存にも他の化石燃料以上にエネルギーを消費するため、液体水素はどう考えてもガソリンの代替にはなりえないことをしっておきましょう」
……確かに水素エネルギーというものは水素源にエネルギーを与えて初めて得られる二次エネルギーであることは確かなようです。
ニュートンさんはもう一つエネルギーの輸送についてもおもしろいことをいっています。
「もし月や火星などにエネルギー源が見つかった場合、その地球への輸送手段として実用に耐えるのは」「レーザービーム」という方法だといっている部分です。といっても「残念ながら、このアイデアを実現できるような強力なレーザーの製作には、まだ誰も成功していないのですが」と付け加えてもいるのですが。
最終章の「宇宙のエネルギー」ではこのような指摘がみられます。
「地球が太陽から受け取るすべてのエネルギーの源についての議論から、「すべてのエネルギーの最初の形は核エネルギーだ」と考える人もいるかもしれません。しかし、そうではありません。それは電磁エネルギー、すなわち、「光の放射」の形ではじまりました。小さな、しかし超高速度で成長する“赤ちゃん宇宙”はきわめて高温で、しかも大量の光子に充ち満ちていました。ある意味では、電磁エネルギーの形は、物質のエネルギーに対して「裸の」エネルギー、あるいは“純粋なエネルギー”とみなすことができます。物質の形でのエネルギーの出現は、もっとずっとあとの話です」
難解な宇宙の始まりをこのような記述で始めるところにも入門書に必要な良識ある態度を感じます。
宇宙誕生時に生まれた“純粋なエネルギー”がどのような形で残っているのか。エネルギーの世界というものを貯蔵、運搬まで含んだ広がりで取り上げたこの本は入門書として一級ではないかと思いました。ここからさきは、読んだ方がなにを探ろうかと決めるものなのではないでしょうか。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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