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新しい価値観へ“注意深く”いざなってくれる一冊

2015.01.06
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この本は、荻上さんがディズニープリンセスの物語にある「お約束」を1.0から3.0までのコードにわけて分析した内容になっています。『白雪姫』や『シンデレラ』」のように王子様がプリンセスを救ってくれるディズニーコード1.0、『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』のように、明確な意思を持って自分で夢を掴むディズニーコード2.0を経て、『シュレック』や『トイ・ストーリー』などの「アンチ・ディズニー作品」からもヒントを得て、『アナと雪の女王』に代表される多様性や自由やありのままが認められるディズニーコード3.0の世界が描かれるまでの経緯が“注意深く”描かれています。

テーマとしては、このコラムで以前紹介した『お姫様とジェンダー アニメで学ぶ男と女のジェンダー学入門』という本とほぼ同じと言っていいでしょう。どちらも私にとっては大変面白くためになったのですが、ジェンダー観や新しい価値観を紹介する話は、言葉の選び方や、表現の仕方によっては、そういう匂いがするだけでも敬遠されることも多いのが現実ではないかと思います。

でも、実は敬遠している人こそを救ったり楽にさせたりする話であったりするのに、イメージだけで避けられるのはすごく惜しいことだと個人的には思っています。だから、ときには強い言葉を選ばずに、広く興味を持ってもらえるようにするにはどうしたらいいのかと考えることもありますし、そのために“注意深く”あることも重要だなと痛感することがあります。

本や文章の書き手としては、自分語りが多くてエモく感情的な話には深い共感が集まりやすいと思います。そして、そういう「書き手」であることもしばしば求められます。ただその反面、最初から拒否感を持っている人や、さわりを読んでみて共感できない人に話を理解してもらうことには失敗することもあります。しかも、深く共感してくれる人というのは、期待していたほどは多くなかったりもします。

でも、フラットで、最後まで誰にでも読めるわかりやすさと、最初で満足してしまわず、全体を通しての起承転結があって読者を飽きさせない構成というものが実現していると、最初から興味のあった人からの深い共感も得られるし、そこまで共感ができない人にも、こんな考え方があるということを伝えることもできる。

そんなことを考えると、常に冷静で、私的な感情を極力排除して、誰にもわかるように順序だてて、言いたいことに耳をかたむけてもらうという大切さを、この本から感じましたし、それができるのは、絶対にこの話を理解してもらいたい、そのほうがみんなにとってもいいはずだという信念が根底にないといけないのかなと感じたのです。

レビュアー

西森路代

1972年生まれ。フリーライター。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般や、女性について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に「女子会2.0」(NHK出版)がある。

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