イタリアを代表する児童文学者ジャンニ・ロダーリさんのショート・ショート集です。仕事で遠くへ行った父親のビアンキさんがお話好きの愛娘のために、毎晩電話でお話をするという設定で語られた物語です。娘が受話器をしっかりと耳にあてて父親の話をじーっと聞いているシーンが浮かんでくるようなお話が一杯です。しかも(?)どうも長距離電話らしく、電話代が大変なのでショート・ショートになったということです。
子どもが穏やかな眠りにつけるようにということなのでしょうか、どのお話も心優しく、聞いている内に眠ってしまい、そのままそのお話の夢の中に行くような趣を感じさせます。
アイスクリームでできた宮殿、太陽にあたると溶けてしまうバター人の世界、チョコレートの卵の中から現れた宇宙ヒヨコ、同じチョコレートでもチョコでできた道を食べて歩く兄弟の話……どうです、そのまま夢に出てきそうですね。
その一方では鐘を鋳つぶして作った大砲で敵をやっつけようとしたけれど、撃ち出てきたのは砲弾ではなくなんと鐘の音でした。何度撃っても出てくるのは鐘の音……。敵も同じように鐘から作った大砲で撃ち返しますが、それもまた鐘の音……。鐘の音が響くだけのなかで敵も味方の兵士も平和が来たと大喜び。どちらも隊長だけがあわてて逃げていきます……。(ロダーリさんの第二次世界大戦の体験がどこか感じられます)
また、子どもの(人間の?)破壊衝動を笑いでつつんだお話や、庶民が一番エライ国の話など、まかり間違えると教訓臭くなるテーマも穏やかなファンタジーに包まれて語られています。
ファンタジーで言えばナンセンスなお話もまたたくさんあります。数字(!)が苦しむ話や(ビアンキさんの娘さんは算数が苦手だったのでしょうか)、空中に浮かぶパラソルを持った男の話、体の大きさが変わってしまう話など、まさに夢の中でしかお目にかかれないものもあふれています。
元々は70編収録されていたそうですが、そこから選ばれた56話、珠玉という言葉にふさわしい傑作です。呼んだ人は、どんな寒い夜でも心の底に暖かい火がともったことを感じると思います。
「ビアンキさんが電話をかけると、交換台のお嬢さんたちはほかの電話をつなぐのをやめ、ビアンキさんのお話に聞き入っていたそうです」
もうひとつ、
「二〇〇八年の初冬、ひどい不景気のせいで、クリスマス前だというのにミラノの街は沈みきっている。そんな中、唯一、元気がよいのは書店だった。
「最も経済的でセンスのよい贈り物」と、本を選んだ人が多かったからである」
という訳者のあとがきにも心優しさがあふれていると思います。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。