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「妙に行儀がいい」記者たちがそろっている取材現場、なぜそのようなことになったのか。ジャーナリズムは今どんな姿をしているのか!?
(編:大鹿靖明)
「記者会見場(東日本大震災とそれに続く東電の福島第一原発爆発事故の会見)は、まるでそろばん教室のようだった。つめかけた記者たちは一斉に手持ちのパソコン画面に目を落とし、猛スピードでキーボードをたたいていく。未曾有の大地震が起き、原発が相次いで爆発したというのに、レクチャー担当者のほうに目をむけたがらない」
この取材現場で持った危機感、といっていいすぎならば違和感が大鹿さんにこの本を書かせる(インタビュー取材)きっかけになったのです。確かに取材シーンをテレビニュースで見るとカメラのシャッター音とキーボードをたたく音、無言でビデオカメラをまわす人たち、大鹿さんがいうように「妙に行儀がいい」記者の姿が目に浮かんできます。
「問いただすというよりもむしろお尋ねするする、教えてもらうといった塩梅である。記者たちの姿勢は、隠された真相を暴くという挑戦的なものだったとは言い難かった」
という大鹿さんの感想もむべなるかなという思いがします。なぜこんな現場になってしまったのか、それを大鹿さんは報道機関の組織変化、記事制作過程の変化がもたらしたものではないかといっています。複数の部署がかかわる大きな報道の場合、取材メモをそれぞれの部署にまわす必要が出てきています。それが黙々とメモをとる記者を生んでいるのです。「パーツ屋」とも呼べるこのような記者のあり方では一つのテーマに向き合い続ける執念や責任感、情熱が生まれにくいともいえるでしょう。
大鹿さんが10人のジャーナリストのインタビューで、ジャーナリズムのありようを問いかけたのがこの本です。この10人は多士済々、組織ジャーナリストとして現役の人やそこから飛び出してフリーになった人、一貫してフリーであった人までと、大鹿さんが「これは」と思えるジャーナリスト(ノンフィクション作家、ルポライター)が登場しています。
10人の人たちのジャーナリズムに対する考え方、ジャーナリストとしての生き方、それはそのままその人たちの生き方そのもの姿なのですが、文字通り十人十色といった興味深いものです。
学生時代からの探検熱を忘れられず組織から飛び出した角幡唯介さん、「飛ばされた時をチャンスとして勉強をした」という長谷川幸洋さん、組織にいながらさまざまな組織との対峙姿勢をくずさなかった大塚将司さん、同じ組織ジャーナリストでありながらも自分のテーマを追い続ける栗原俊雄さん、「いまのジャーナリズムを覆っているのは、わかりやすいニュース解説を求める」姿勢でそのわかりやすさが、一方ではリテラシーの低下をもたらし「知のデフレスパイラル」をもたらしていると警鐘を鳴らしている高橋篤史さんまた、放送から文字へと歩みを進めた堀川惠子さんとどの人からも興味深い話を大鹿さんは引き出しています。
それぞれの人が、それぞれのやり方で自分の知りたいことを追い続け、伝えなければならないと思ったことを伝える……それが思いのほか難しい時代になっているのでしょうか……。
ジャーナリズム一般というものなどどこにもなく、ジャーナリストというものがいるのだ、ということをあらためて感じさせるものでした。そして、新聞社に属している人も含めて、ほとんどの人が〈雑誌ジャーナリズム〉を高く評価していること、とりわけ雑誌が求める企画力の重要性に言及しているのが目にとまりました。雑誌が力を持つということがジャーナリズムの上でも重要なことであるということを気づかせてくれる一冊でした。
ところでテレビ報道に触れて、テレビ出身の堀川さんのひと言がとても気になりました。
「がんばれ報道は、そこに異を唱える人を許さない。戦時中の雰囲気と共通する怖さがあるように思います」
と……
(上記の方々の他、安田浩一さん、大治朋子さん、小俣一平さん、杉山春さんが登場されています)
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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