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2014.08.08

レビュー

生活知、民衆知とでもいえる言葉にあふれているこの本は、やはり現代の〈心学〉なのではないでしょうか。

近江商人に〈三方良し〉という言葉があります。これは「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」ということで、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ。近江商人の心得をいったものです。(『デジタル大辞泉』より)

また、江戸時代には石田梅岩が無料の塾を開き、後に〈石門心学〉(通称は心学といいます)といわれるようになった学問を広めました。この心学は、心と自然とを一体のものとして生きなければならない、私心をなくして天地の理に従い生きなければならないというもので、なにより〈正直〉というものを尊んだ考え方でした。

斎藤一人さんのこの本は現代の〈心学〉ではないかとすぐに思いました。石田梅岩は今でいうビジネスの重要性を認め、ビジネスを持続的発展させることで、それがそのまま社会的貢献につながるということを説いていました。これは「宇宙の法則」や「この世はシンプル」という斎藤さんの考え方に通じるものがあるのではないかと思います。

斎藤さんの〈言葉〉についての考え方も〈心学〉の〈正直〉につながるものを感じました。「幸せだなあ」「ありがたいなあ」という言葉を千回(「千回の法則」声にしようというのです。
「「考え方」を変えてから「行動」を変えようとするのはまちがいです。(略)話す言葉が変わってから行動が変わり、病気が治ったり、商売が儲かったりするのです。はじめのうちは、無理に行動することはありません。声に出すだけでいいのです」
これはいわゆるポジティブ・シンキングではないと思います。ポジティブ・シンキングではまず「考え方」を変えることから始めるからです。そこには無理な力が働くことにもなりかねません。ポジティブ・シンキング自体がプレッシャー風にもなりかねないのです。斎藤さんは、そういったことも考えていたのでしょうか
「「力まないで、ただ声に出すだけでいいんだよ」といってあげましょう」
しかも
「声に出す言葉に心を込める必要はないということです。(略)なぜなら、心はやがて伴ってくるからです。放っておいても心は伴ってくるから大丈夫。「豊か」「健康」「元気」「笑ってワクワク」……自然にこんな言葉を声に出していると、どんどん幸せになれます」
ここの考え方が斎藤さんならではではないでしょうか。生活知、民衆知とでもいえる言葉にあふれているこの本は、やはり現代の〈心学〉なのではないでしょうか。そんなことを考えさせてくれる一冊でした。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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