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ホームズとワトソン、この2人の間の友情というものがこのシリーズを際立たせていると思います。

名探偵ホームズ 最後の事件
(著:アーサー・コナン・ドイル 訳:青山浩行 絵:日暮まさみち)
2014.08.07
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ホームズ・シリーズのおもしろさはあらためていうまでもないと思います。少年少女向けに訳されたこのシリーズではそのシンプルもあってでしょうか、ワトソンとホームズの関係がくっきりと浮きぼりにされていてとても気になりました。(といってももちろんBL的な意味じゃありません)。

イギリス人は紳士(男性)間の友情というものをとても大切にしているようです。この本にもホームズの兄のマイクロフトも一風変わったクラブ(ディオゲネス・クラブ)を主催しています。イギリスのこういったクラブは男性のみが会員になることができました。そこではそこのクラブはまるで治外法権のように独特なルールで運営されていました。あるコメディ映画ではとある女性が制止を振り切ってクラブに入り、会員男性が仰天するシーンが描かれたりしていました。このようにクラブはあくまで上流・中産階級の男性を会員とし、女性会員は認めていなかったのです。といって男性天国であったかどうかはわかりませんが……。ちなみにこのディオゲネス・クラブはというと
「ロンドンでもいちばん人づきあいが悪く、いちばんクラブ嫌いの人間たちが集まっている」
というものだそうです。行ってみたくなりませんか。

そのような風土(?)でつちかわれた男の友情とはどんなものだったのでしょうか。『マイ・フェア・レディ』でヒロイン(映画ではオードリー・ヘップバーンでしたが舞台では初演はジュリー・アンドリュースが演じていました)を教育(!)するヘンリー・ヒギンズとその友人のピカリング大佐との関係がその友情を象徴していると思います。『マイ・フェア・レディ』はもともとアイルランド出身のイギリス作家ジョージ・バーナード・ショーの『ピグマリオン』が原作です。ちょっとシニカルな感もありますが、ショーの描いたヒギンスとピカリングの間の友情はホームズとワトソンをつい思い浮かべてしまいます。(ピカリングもワトソンと同じでたしかインド帰りだったと思います)

探偵と医師、学者と退役軍人、なんとなく似ているように思うのは私だけではないと思います。このピカリングはヒギンスに苦言と助言を呈する立場でした。さてワトソンはというと……。
『緋色の研究』で描かれたようにワトソンは聖バーソロミュー病院の実験室で初めてホームズと出会います。高い家賃がきっかけで二人は共同生活を始めます。(シェアハウスですね。)ホームズは自分の仕事を「探偵コンサルタント」といっていましたが、ワトソンにはそれがどんなものかあまりピントきませんでした。といって相性が悪かったというわけではありません。時折のぞかせるホームズの推理力に素直に驚いたり、ホームズのヴァイオリンの腕に感歎したりしていました。

2人が急接近したのはある殺人事件がきっかけでした。ロンドン警視庁からホームズに事件の解明の依頼があったのです。ホームズはワトソンと2人で事件現場に向かいます。ここからホームズとワトソンの長く深いつきあいが始まります。(事件の詳細は『緋色の研究』を読んでください)みごと事件を解決したホームズですが、事件の解決にしか興味のないホームズはその事件がどうのように報道されようと気にする気配すらありません。ホームズの活躍を軽んじていた報道に対して、ワトソンはその事件と解決への道のすべてを世間に明らかにすることを決心したのです、ホームズの伝記作家として。

事件ごとに深まる2人の友情はこの『名探偵ホームズ 最後の事件』まで変わらず続きました。けれど、この『最後の事件』でホームズは宿敵・モリアーティ教授とともに行方不明となってしまいます。現場に残されていたのはホームズの銀のシガレットケースとメモ……そして2人の永遠の友情もまた残されたままだったのです……そして……。(この後はシリーズを読んでください)このホームズ・シリーズ全16巻は2人の友情物語として描き出したものとしても、とても楽しめるものだと思います、もちろん大人にとっても。

『名探偵ホームズ 最後の事件』書影
著:アーサー・コナン・ドイル 訳:青山浩行 絵:日暮まさみち

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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