東京西多摩地区の山奥にバラバラ死体、法医昆虫学者の赤堀涼子(あかほり・りょうこ)は、捜査官としてその猟奇殺人事件に関わります。しかし、解剖医の出した死後日数と、赤堀が死体から発見した昆虫の発育状況(そこから導き出した死後経過)には、大きな隔たりがありました。
変人で、眉唾物扱いの赤堀の味方はワトソン役の岩楯裕也(いわだて・ゆうや)刑事ぐらいのもの。その岩楯が、死体の発見された村で出会う人々は怪しげな連中ばかり。
村人に慕われ、巫女と呼ばれる女。
父親と一緒に村に越してきた物憂げな美少年。
元犯罪者の息子と一緒に暮らす老夫婦。
事件が起こったとされる大雨の日に、タクシーで村にやって来た長髪の男。
やがてバラバラ死体の他の部位が発見され、赤堀が突き止めた事件の動機とは……。
本作は昆虫の蘊蓄が楽しい推理小説の佳品です。――ただ、それにしても、こんな36歳は嫌だなと思いました。
法医昆虫学者の赤堀涼子は、小柄、色白、童顔の36歳。作中の描写からして、おそらくは美人。美人なのは大いに結構なのですが、突飛で子供っぽい言動に戸惑います。
もっとも、年齢と言動にギャップを感じさせる赤堀の姿は、ともすれば今の30代の「写し絵」なのでしょう。僕が子供の頃に見上げていた30代には、落ち着きと威厳があった。勝手な思い込みなのだとしても、そう感じていました。ところが、赤堀も僕もそんな大人にはなれていない(赤堀より年下ですが、僕も30代)。
僕なんぞの場合は作家志望を理由に、いい歳こいてふらふら生きているので論外だとしても、たとえば堅実に、常識的に生きている子持ちの友人たちでさえ、威厳なんか毛ほどもなくて青臭い。
奇妙きてれつな言動が目立つ赤堀は、作中、最も非現実的な存在と読者に思わせながら、実はただコミカルに描いているというだけで、リアルな現代30代なのです。僕たち(一部の)幼い30代の写し絵だからこそ、恥ずかしくなって、こいつ嫌だな、と感じたのかもしれません。
そんな赤堀涼子が活躍する『法医昆虫学者』シリーズは、本作で4作目にあたるそうです。僕にとっては本書『メビウスの守護者』が、シリーズで最初に読んだ作品でした。
純粋に面白かった。でもそれとは別の理由で、この女の活躍する話をもっと読んでみたいと思わされました。好きじゃないはずの赤堀のことをさらに知りたくて、『法医昆虫学者』シリーズの第1巻を手に取ってしまいそうなのです。作者の術中、赤堀涼子という女の術中に、まんまとハマったのかもしれません。
レビュアー
小説家志望の1983年夏生まれ。2014年にレッドコメットのユーザー名で、美貌の女性監督がJ1の名門クラブを指揮するサッカー小説『東京三鷹ユナイテッド』を講談社のコミュニティサイトに掲載。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。書評も書きます。