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(監修:桑原 真人/川上 淳 漫画:神宮寺 一)
全20巻を数える「講談社 学習まんが 日本の歴史」シリーズに、別巻最新刊が登場。本州とは一線を画す独自の発展を歩んだ「北海道」の歴史を紐解く一冊だ。義務教育の真っ只中にいる少年少女はもちろん、青年も成人もぜひ知っておいたほうがいい(そして意外に知らないことの多い)史実を、誰もが手に取りやすい形で記した必読の書である。昨今話題の漫画『ゴールデンカムイ』や映画『シサム』などで北海道とアイヌの歴史に興味を持った人には、まさにうってつけの入門書だ。
著者は『機巧奇傳ヒヲウ戦記』漫画版や『幕末めだか組』、そして「講談社 学習まんが 日本の歴史」シリーズも手がける神宮寺一。ドラマチックかつ知的好奇心を刺激する歴史読み物としての面白さと、ダイナミックな躍動感に溢れた漫画的魅力を、今回の本でも両立させている。監修には、札幌大学地域共創学群教授の川上淳(古代~近世担当)、札幌大学元学長・現名誉教授の桑原真人(近現代担当)が名を連ね、溢れんばかりの情報量が満載。「別巻」とは名ばかりのボリュームだ。
本書冒頭の「はじめに」にもあるとおり、アイヌの人々は現在の北海道と呼ばれる北の大地に太古から暮らし、独自の文化・風習を築いてきた。しかし、アイヌには固有の文字がないため、文献がほとんど残っていない。ゆえに本書では、文字史料が残る時代、つまり和人による入植が本格的に始まって以降の歴史を主に漫画として描いている。アイヌの歴史をもっと知りたい人には食い足りないかもしれないが、それ以前の先住民族文化に関しては、巻頭のカラーページで豊富な図版とともに紹介される。旧石器~縄文文化期の遺跡から、13世紀に定着したと思われるアイヌ文化と生活様式の復元、そして江戸時代に描かれたアイヌ指導者イコトイの肖像画などを通して、その多彩な独自性を知ることができる。
そして、漫画は源頼朝が蝦夷島(えぞがしま)支配にも力を入れ始める鎌倉時代から幕を開ける。各ページには細かい注釈やマメ知識コーナーも用意されているので、初心者にも安心な設計だ。
アイヌの人々から「シサム(和人)」と呼ばれた本州人は、支配と服従の図式を持ち込み、やがて束縛と圧力を強めていく。その過程には歴史の興味深さとともに、いつの世にも「支配欲」にとり憑かれてしまう人間の業深さも感じずにいられない。江戸時代には松前藩が厳しい統治を行い、その上には幕府がさらに厳しく目を光らせた。時代の変遷とともに支配層の顔ぶれも入れ替わっていき、明治維新後は戦争の舞台ともなる。幕末~明治にかけての激動の時代は、著者の筆致にも熱がこもり、見応えがある。
一方で、長く険しい開発と発展の道のりも描かれていく。江戸時代後期、蝦夷地開発計画の実現のために尽力し、のちに「当代随一の蝦夷通」となる探検家・最上徳内のエピソードはひときわ面白い。アイヌの人々とも協力関係を築いた彼の生きざまには、つまらない支配欲とは無縁の清々(すがすが)しさがある。それゆえ権力の理不尽な圧力にも苦しむことになるのだが、それでも諦めず開拓の夢を追い続けた彼の不屈の生涯は、そのまま大河ドラマ化してほしいほど魅力的だ。
明治以降、ようやく本格的にアイヌ文化の研究に乗り出した日本人のなかで、アイヌ語研究の第一人者となったのが言語学者・金田一京助だ。大正7年(1918年)、彼は「ユカラ」の継承者であるアイヌの少女・知里幸恵と出会う。「ユカラ」とは、文字を持たないアイヌの伝統的口承文芸で、その思想・文化・歴史を伝える叙事詩として代々伝えられてきた。知里幸恵は祖母から教わった「ユカラ」をローマ字で書き起こし、金田一はそれをもとに『アイヌ神謡集』を大正12年(1923年)に出版する。彼らの感動的な邂逅と、切ない結末を描いたエピソードは、ひときわ印象に残る場面である(ちなみに、金田一京助は詩人・石川啄木の親友であり、啄木もまた函館・札幌・小樽・釧路を転々とした過去があった)。2024年公開の映画『カムイのうた』は、まさにこの知里幸恵をモデルにした物語であり、本書と併せて観ておきたい作品である。
先住民族でありながら、いわれなき迫害を受け続けてきたアイヌの人々の悲哀とともに、開拓民として未開の大地にやってきた庶民の苦闘にも胸を締めつけられる。そのどちらの生活・心情にも思いを馳せる想像力こそ、現代に生きる我々には必要だろう。本書にはいくつかの入植者のエピソードを反映した架空の移民家族のドラマも描かれ、歴史上の大物だけではない、庶民目線からの北海道史も描かれている。それもこの本の美点のひとつだ。
本書を読み終えるころには、ここで得た知識を胸に刻み、北海道の地を改めて踏みしめたい――そう強く願うはずである。
- 電子あり
目からウロコ! 「北海道」独自の歴史。
「講談社学習まんが 日本の歴史」の別巻誕生!
北の大地・北海道をめぐる一大スペクタクル。
サハリンへ、千島列島へ「宝」を求めて海をわたったアイヌの人々。
大陸の民との戦争、和人との共存といさかい……。
1950年、札幌の中学生が余市町の海岸沿いで、フランスのラスコーやスペインのアルタミラに匹敵する遺跡を発見した洞窟の岩壁に刻まれた謎の刻画。翼の生えた男や角のある人物。
いったい、いつ頃のどんな人々が……?
遺跡は「続縄文時代」のものだった。
続縄文時代……? そう、弥生時代ではなく続縄文時代。
北海道には『日本の歴史』とはまったく違う独自の時代区分、歴史があった!
◎元寇より早く、モンゴル軍と40年も戦っていたアイヌ軍
◎意外? 強力な軍事力で和人を悩ませたアイヌの人々
◎経歴詐称? 松前藩の祖・武田信広の正体とは?
◎秀吉、家康に贈り物攻撃 出世の決め手はラッコの毛皮
◎米のとれない松前藩の意外な「武士の収入源」とは?
◎「商場知行制」ができたのは、地形が険しくて馬が進めなかったから
◎蝦夷地に9回もわたった執念の男・最上徳内の数奇な運命
◎黒田清隆が頭を丸坊主にしてまで敵将の助命を願った理由とは?
◎旭川に「夏の皇居」=北京(ほっきょう)ができるはずだった!
◎アイヌ語を後世に残す先駆者となった19歳の天才少女
レビュアー
ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。
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