「うざい」と言ったら逮捕されるの?
こどもでも大人でも、人間が集まって暮らしている以上は、何かしらのトラブルが起こる可能性はある。そんなときに自分や家族そして友達を守る方法って、いったい何があるのだろう。被害者にも加害者にもさせたくない。もちろん「思いやる気持ち」は役に立つはずだ。でも、もっと別の観点も身につけさせたい。
そんなとき助けになるのは法律だと思う。『まんが こども六法 開廷! こども裁判』は、こどもにも伝わりやすい易しい文章と図解と、正統派のかわいい少女まんがで日本の法律を教えてくれる。とくに、こどもが学校生活を送るうえで遭遇しそうなトラブルと、そのトラブルに関わる法律が多く取り上げられる。
本作のこどもたちは、近未来の小学校に通っている。この子たちの世界ではバーチャル裁判の「こども裁判」が導入されているので、小学生みずからが法廷に立ち、学校生活上のトラブルと向かい合うのだ。
落としたブレスレットを拾った子が、勝手に自分の物にしていたら、どうすればいい? こういうモヤっとした事件、あったなあ。これって罪に問われるの?
ハイ、有罪です。刑法第254条「遺失物等横領」の罪で懲役六月。このインパクトたるや。なお、そのあとの懲役はシミュレーションだ。なぜならこの世界でも少年法は存在しているから(別の章で少年法についてもたっぷり取り上げている)。ここで大人の私はちょっとホッとするのだけど、法廷でのやりとりは真剣だ。
本作に登場する裁判はどれも「教室あるある」のトラブルで胸が痛む。
私も「うざい」って言われたことがあるし、言ったこともある……。
被告人の言い分に対して「なに言ってんの!」って怒るのは簡単なのだけど、「なぜそれがいけないのか?」「どんな法に触れるのか?」をちゃんと伝えたいし、私も理解したい。
この展開で、本書の「まえがき」の次の言葉を思い出すのだ。
法律も包丁と同じです。どうやって使うものなのか、どうやって使えば人を幸せにできるのか、逆にこの道具では何ができないのかを学ばなければいけません。この本は、それを実現する本です。
「うざい」「死んでほしい」と言われてしまって心がとても傷ついたら、どうすればいいのか? そして言ってしまった側は、それがどんな問題に発展する恐れがあると理解すべきなのか? 両方から知るべきだと思う。
「本当のことだから言っていい」わけではないし、「うざい」「バカ」と言って傷つけるのも侮辱罪となる。そして、名誉毀損罪や侮辱罪の場合、被害にあったときにただ黙っていても取り締まってはもらえない。声を上げないと裁判は始まらないのだ。
こども裁判、大人も読むといいよ
本書はこどもに向けて作られた本ではあるけれど、大人も読んでほしい。わかっていそうでわかっていない裁判にまつわるあれこれが整理されている。
よく耳にする民事訴訟の流れもこの通り。イラストがかわいい(ちなみに本作のナメクジはいろんな裁判のイラストで証人になりがち)。
いじめと犯罪の境界ってどういうもの?
これは家庭や学校や社会で繰り返し伝えたい内容だ。「上履きを隠す」って、いじめじゃなくて犯罪なんですよ。大人がまず知っておくべき。
そしてSNSが発達した今だからこそ、知っておきたい次のようなトラブルも本作は丁寧に取り扱う。
大人もこういうことをやりがち。カンニングをした女の子がネット上でバッシングされたら、それはいじめなの? 因果応報なの? いじめです。
日本で一番重要なルールである日本国憲法の第31条「法廷の手続きの保障」。やっちゃいけないだろうなあと曖昧なイメージを持っている人は多いはずだけど、憲法でもはっきり明記されている。
これはヒロイン“未織”の成長物語でもあるんですよね。最初はクラスメイトから「うざい」と言われて苦しむ側だった彼女が、裁判と法律を学んで、学校で傷ついたり困ったりしている人をこども裁判で助けていきます。
ということで、本書のこども裁判は「いじめ」で始まり「いじめ」で終わる。最後にこのページを引用します。親や先生以外に助けてくれる人はいるの? 絶対います。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。