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古墳はなんのためにつくられたのか?
仁徳天皇陵と伝えられる大仙陵古墳は、エジプトのクフ王のピラミッドより、秦の始皇帝陵より巨大な世界最大級の墳墓であります。また、大小さまざまな古墳は全国各地にあり、本書によれば16万基を超えるそうです。これは全国にあるコンビニの倍以上だそうで、「日本は古墳大国である」と言ってもあながちはずれてはいないでしょう。
農地の真ん中に小山があって、近づいたら古墳だった、というような経験は、誰もがお持ちではないでしょうか。案内板が風雨にさらされ、文字が判読できなくなっているのを見たことがある方もいらっしゃるでしょう。(地方公共団体などの)管理が行き届かなかった結果ですが、それもやむなしかもしれません。なにしろ全国で16万基、やたらと多いうえに、あれ、基本的には役に立たないのです。
農地であれば農作物を生産できたはずですが、それも不可能です。案内板の文字が消えていても誰も文句を言わないのは、文化財に当然寄せられるべき地域住民の尊敬も得られていない証左でしょう。
なぜこんなものがつくられたのでしょうか?
その理由としてもっともよく知られる説については、本書の冒頭で語られています。
「王墓はなぜ築かれたのか?」本書のテーマはこの素朴な疑問である。エジプトのファラオが築いたピラミッド、中国の皇帝たちが造った山陵など、人類史には王の埋葬のためのモニュメントが数多くある。それらは、王が自らの権力を誇示するために築造したと考えられてきた。したがって「王墓の大きさは権力の大きさに比例する」「王墓は王の権力の象徴にほかならない」という理解が常識とされており、教科書にもそう書かれている。
ところがこの論、かなり疑わしいのです。
これって、嘘じゃねえの?
粗雑にまとめるならば、それこそが本書のテーマです。
「権力の象徴」と考えるとヘンなこと
考えてみれば、おかしなことはたくさんあります。
どんなに立場が弱い民であろうとも、「役に立たない」と知れているものに、労力を割くのは嫌うはずです。たとえ田んぼの真ん中にある小山だったとしても、造築に最低一日はかかるでしょう。ふざけんなと思う民は多いんじゃないでしょうか。
まして、ピラミッドは、(一説によれば)数万の人員を20年にわたり働かせた結果だといいます。権力を誇るためだけに? 暴動の要因になりかねません。それは君主(支配階層)がもっとも恐れることであるはずです。
墓を築く技術があるのに、なぜ生活に直結するような社会のインフラにエネルギーを投下しなかったのだろう? 農地を広げ都市の整備に力を割くのではなく、個人の墓に過ぎない古墳を巨大化するなどナンセンスではなかろうか?
道路を整備するとか、貿易をさかんにするとか、大規模な灌漑をおこなうとか、支配階層だからこそ可能な事業はいくらもあったはずです。そちらのほうが豪族などの協力も得られやすいでしょう。王であれば、「ブルータスお前もか」、腹心の裏切りにあう危険は常にあります。それを防ぐためにも、自分の墳墓を築くのが得策とは思えません。
また、墳墓を築くという慣習は、日本であれば古墳時代(弥生時代後期と飛鳥時代前期)に集中しています。「王墓=権力の象徴」であるならば、おかしなことではないでしょうか?
古墳時代以降も、権力者がいなくなったわけではありません。墳墓が築かれなくなった理由がわからないし、本書がシミュレーションしているように、今後、新たに築かれる可能性だってあるはずです。「王墓=権力の象徴」説では、そこを説明することができません。
本書は、世界の墳墓のありさまを見ながら、定説となっているこの説の誤謬をあきらかにしていきます。さらに、この説がなぜまことしやかに語られるようになったのか、その理由に関しても掘り下げていきます。
描き出された古代の王のすがたは、従来のイメージとは大きく異なるものでした。
本書のオビには「ミステリー」という惹句(じゃっく)があしらわれていますが、まさしく出来のいい推理ドラマに接したような読後感をもたらしてくれます。
人間の過去を推理し復元する考古学には、得意な領域と不得手な領域がある。発掘すればどんなことでも分かるわけではなく、過去の5W1Hの中で「いつ(When)」、「どこで(Where)」、「何を(What)」、「どのように(How)」は比較的容易に回答できる謎である。ところが、「誰が(Who)」、「なぜ(Why)」についてはかなり困難だ。普通の考古学では、文字資料が伴っているなどの幸運な場合を除き、ここでお手上げ状態となる。
しかし、幸いなことに人類の歴史を調べてみると、見かけ上類似した現象がいくつもあることに気づかされる。(中略)そのような現象を取り上げて、因果関係を比較すれば、考古学では不可能と思われた「誰が」、「なぜ」に肉薄できるかもしれない。
- 電子あり
「王墓はなぜ築かれたのか?」
本書のテーマは、この素朴な疑問である。
エジプトのファラオが築いたピラミッド、中国の皇帝たちが造った山稜など、人類史には王の埋葬のためのモニュメントが数多くある。
それらは、王が自らの権力を誇示するために築造したと考えられている。
したがって、王墓の大きさは権力の大きさに比例する、王墓は王の権力の象徴にほかならない、という理解が常識とされており、教科書にもそう書かれている。
しかし、本書ではこの定説に真っ向から反論し、新たな視野から王墓を理解することを目的とする。
本書では、王墓にまつわる次のような謎に挑む。
・「王墓=権力の象徴」説は、いかにして定説になったのか
・王墓は、権力者が命じた強制労働の産物なのか
・墓造りのエネルギーを、なぜ農地の拡大や都市整備に投下しなかったのか
・葬られたのは「強い王」か「弱い王」か
・高価な品々が、なぜ一緒に埋められたのか
・なぜ人類は、世界各地で王墓を築いたのか?
・「大洪水伝説」が残る地域と、王墓の誕生した地域が重なるのはなぜか
・王墓は、危機に瀕した社会が生き残るための最終手段か
・王が神格化され強大な権力を持つと、王墓が衰退するのはなぜか
この本は、「王墓=権力の象徴」というステレオタイプな理解で停止してしまっている、私たちの思考を根本から問い直すものである。
王墓は、王自らの権力欲のためのものではなく、人々が自ら進んで社会の存続を王に託した時に、はじめて誕生する。
王墓は、王を神へ捧げるための舞台であり、権力や富の集中を防ぐために、人類が発明した優れた機構なのだ!
古代史ミステリーの「定説」を覆す、必読の書!
レビュアー
早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 何が便利で、何が怖いのか』(講談社)。2013年より身体障害者。
1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。
https://hon-yak.net/
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