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「赤と緑」が「近い色」に見える人たちがいる──色の見え方の違いをひもとく科学絵本

いろ・いろ 色覚と進化のひみつ
(作:川端 裕人 絵:中垣 ゆたか)
2024.03.30
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色はいろいろ

読んだことをすぐに誰かに教えたくなる絵本だ。「すごいよ、すごいよ」って家族や友だちに話したくなる。どうしてわたしがこんなに興奮しているかというと「みんな」の話だからだ。あなたも、わたしも、子どもも(この絵本は小学校低学年から読める)、おとなも、かつて同じ教室にいたあの子にも、『いろ・いろ 色覚と進化のひみつ』を読んでもらいたい。

リンゴの木の、果実の色と、葉っぱの色、そして幹の色。あなたはどう塗る?

「色覚=色の見え方」のふしぎな違いを、最新の研究をふまえて科学的に見つめる絵本だ。そもそも色覚って何?

「そもそも色は、外の世界にあるわけではなく」「意味があるようにぬっているのです」という言葉にしびれる。科学だ! このあと、ネコやハチにもご登場いただきながら「意味がある」とはどういうことなのかを平易に説いてくれる。

では、先ほどのリンゴの絵に話を戻す。男の子が描いた絵は、なぜそういう色使いになっていたのか。「意味がある」からだ。

日本の眼科などで「先天色覚異常」とされてきた色覚は、ヒトの進化の歴史を振り返ると(恐竜時代までさかのぼる)、異常ではなく、ヒトが進化して身につけたものなのだということが近年明らかになってきた。そう、異常ではない。

生物学で「進化型」とよばれる人たちにとって、この色使いはふしぎなものではなくて、ふつうの自然なもの。色には、「いろいろ」あるのだ。

「いっしょにいるとべんり」

「進化型」の人がいるということは、そうではない人もいるということだ。

「進化型」ではない色覚の人たちは、生物学では「祖先型」とよばれる。この“祖先”って誰? かなり昔のご先祖をイメージしてほしい。そう、森の木の上で暮らす“サル”だ。祖先たちのライフスタイルを見てみよう。



食べものをさがすときに、葉と果実を色で見分けると便利。意味がある。この色覚を受け継いだ「祖先型」の人びとは、現代の地球にいっぱいいる。

じゃあ、「進化型」は? 森を飛び出し、草原で生活を始めた“ヒトの祖先”の中から生まれた。彼らは日中に草原の動物を狩って暮らしていた。そういう生活で「意味がある」って?



葉と果実の色がわかっても、あまり意味がない! 狩りに必要なのは?

この絵本の作者の川端裕人先生は次のように紹介する。

そこで、こんどは赤と緑のくべつをしない人が
あらわれたのです。そういう見え方の人のほうが、
もののかたちや明るさのちがいを見分けるのに、すぐれていました。
きっと狩りでは、とてもたよりにされたことでしょう。

広大な草原で獲物をパッと見つけるのが得意な人が「進化型」。そして「祖先型」と「進化型」の人たちが共存する社会が、現代までつながってきたのだ。

だから、いまもサルと同じように赤と緑を
見分ける感覚を持った人と、あまりそれらを
くべつしない「進化型」の人がいるのです。
それぞれとくいなことがちがうので、
いっしょにいるとべんりだったのでしょう。
こういったふうにまざっているのが、人の強みとなったのです

恐竜から狩りをする祖先たちまでの生活を追うことで、「多様性」はわたしたち強みなのだと素直に理解できる。そしてわたしはこの文章のそばに描かれた中垣ゆたか先生の絵がとてもとても好きだ。好きでたまらない。

わたしのふるい友だちにも、昆虫を見つけるのがバツグンに上手い子がいたのだ。圧巻だった。バッタの居場所を教えてもらうたびに、彼の目で公園を見てみたいと思っていた。

色覚多様性を語ること

本書の最後には、おとな向けの解説がある。それによると、日本では、「進化型」の人は男性の5%、女性の0.2%ほどいるのだという。さらに、「進化型」にも、いろんなタイプがあり、なかには「先天色覚異常」とは診断されないが「進化型」の見え方をしている人も多くいるのだという。



わたしが想像しているよりも色覚多様性の世界は広くて、いろいろだった。

そしてこの絵本の冒頭には「この本を読んでくれるみなさんへ」というタイトルで、子ども(とおとな)に向けて、次のような言葉が添えられている。

「進化型」の人は、ぴんとこないところもあるかもしれません。その場合は、身近なおとなといっしょに読んでみてくださいね。

この絵本は「祖先型」の配色でつくられている。「進化型」の色覚について語ることの難しさについても、川端先生はおとな向けの解説で率直に語っている。それはそのまま、現在の社会の姿につながる。

そんななかで「“進化型”の人だけで街をつくったら?」というページがある。その街には、「祖先型」の人には見えにくい看板もある。川端先生によるヒントをもとに、かなり苦労して看板の文字を読みとったときの衝撃たるや。やがて映画館や駅にある非常口の配色を思い出した。「ユニバーサルデザイン」がどういうもので、なぜ大切なのかを、子どもとおとなが一緒に考えるきっかけになるはずだ。色覚と社会にまつわるおとな向けの参考文献も多数紹介されている。

いろんな色覚をもつ人に読んでもらいたい。進化のふしぎと、「多様性」という言葉がもつ本質的な姿に触れられる。そして、広い世界の入口に立たせてくれる絵本だ。

  • 電子あり
『いろ・いろ 色覚と進化のひみつ』書影
作:川端 裕人 絵:中垣 ゆたか

「色の見え方」を通して考えよう、わたしとあなたの多様性。

わたしたちが感じるさまざまな色は、目と脳のはたらきで、頭の中にできるものです。だから、人によって見え方はいろいろです。たとえば、多くの人にとってはっきり違って見える「赤と緑」が、「近い色」に見える人たちがいます。100人のうち、数人が持っている特別な見え方です。この絵本では、わたしたちの色の見え方がどのようにできたのか、恐竜時代にさかのぼり、進化の歴史から振り返って見ていきます。
さあ、色の見え方のふしぎな世界をいっしょに探検しましょう!

この世に生きるすべての子どもと大人に伝えたい、色覚と進化の驚きとふしぎに満ちたひみつ!

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori 

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