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SNSの反応もコスパやタイパ重視の関係もしんどい。うまく人とつき合うコツ

友だちがしんどいがなくなる本
(著:石田 光規)
2024.03.18
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「友だち」はつくるもの?

「お昼ごはんを何度か一緒に食べたら“友だち”になる」とか、そういう明確な定義が一切ないのが「友だち」のおもしろいところであり、やっかいな点だと思う。

そんな明確でないものを「つくる」には、どうすればいいのか。しかも……、

友だちは、その実態があいまいで、気もちに左右される関係です。そのため、ふとしたときに壊れてしまう弱さをもっているのです。いま仲のよい友だちとずっと友だちでいつづけられる保証はどこにもありません。(中略)
人とのうまいつき合い方や距離感を覚えるのは、たしかに重要でしょう。しかし、
いくら人づき合いの方法を学んだとしても、仲のよい友だちと別れる瞬間が来ることはあります。

そうそうそう! このレビューで紹介する『友だちがしんどいがなくなる本』は、「友だちづくり」を「無理ゲー(実行不可能な行為)」という。

じゃあ「友だちづくりなんてやーめた!」と土俵を降りればいいのだろうか。それもカッコいい気がするけど、正直に打ち明けると、少し居心地が悪い。なぜ? 本書はそんな不安とも向き合ってくれる。「友だち」にまつわる悩みを解きほぐし、地に足のついた解決策を示す良書だ。

著者の石田光規先生は、早稲田大学文学学術院教授で、孤独と孤立の研究者。孤独の専門家が、「人間関係リセット症候群」、「スクールカースト」、「SNS」、「蛙化現象」といった現代社会の人付き合いにまつわる問題に、社会構造や哲学にふれながら、ていねいに切り込んでいく。

小学校の高学年から高校生に向けてわかりやすく書かれた本だが、大人の胸にも届く言葉がたくさんならんでいる。

文章とともに時折描かれるマンガにも共感するはずだ。どれも人間関係のしんどい瞬間をうまく切り取っている。

「ビデオ通話でいい?」と相手に言われて「でも直接会いたいです」と踏み込める人は、現在どのくらいいるのだろう。たぶん数年前はこんなこと悩みもしなかったはず。

多くの人がスマートフォンを常に持ち歩き、SNSでつながり、そしてコロナ禍を経験した。そうした現代社会のかたちと、現代の友だちのかたちは、深く連動していることを本書は教えてくれる(だから、人とのつき合い方の世代間ギャップを知るうえでも、この本は大きな助けとなるはずだ)。

「友だち」という序列

大好きなページがたくさんある本だが、なかでも私がとくに気に入った部分を紹介したい。

まずはこちら。石田先生は、おつきあいのある人すべてを基本的に「知り合い」と呼び、「友だち」とは呼ばないのだそう。その理由は、「友だち・友人」といった言葉や概念がとても苦手だから。なぜ苦手なの? すごくドライな人なの? いや、そうではないと思う。

友だちという言葉が苦手な第一の理由は、「友だち」という言葉にひそむ順番をつける(つけさせられる)ような感覚がイヤだからです。
私たちは、だれかを「友だち」とよぶとき、たいていはほかの人と「友だち」を区別しています。
(中略)
順序づけは、なにも私だけがするわけではありません。「友だち」と「そのほか」の人を分けた瞬間から、多くの人は人間関係になんらかの序列をつけています。
そのため、友だち関係を意識しすぎると、「ほかの人から見て、私はどのくらいの位置にいるのだろう」などと、余計なことを考えたりもするのです。

友だちをつくった瞬間に、友だちではない人が発生する。自分が線をひいた瞬間に、自分も誰かの線引きの対象になる。まったくもってその通りだ。思い当たるふしがいっぱいある。この「なにかを特別な存在にすると、そうでない存在が必ずあらわれる」ことは、本書でたびたび登場する。

そして、冒頭で紹介したように、友だちの条件なんて決まっていないし、一生ずっと友だちでいる保証もない。このあいまいさと、序列づけの組み合わせは、だいぶしんどい。あと何メートルでゴールできて、途中どんなハードルが待っているか、そもそも走るのでOKなのかさえわからない、謎のかけっこをやらされてる気分になる。

こんなふうに「なぜ、しんどいのか」を解き明かしていくうちに心が落ち着いてくる不思議な本だ。「友だち関係ってしんどいよね! 疲れちゃうよね! 解決できる技はこちら!」とイージーに片づけないところに、私は人間に対する誠実さを感じるし、学術の底力を見る。

そして、石田先生はこんなヒントもくれる。

いまの友だちとうまくいかなくても、行ける場所はたくさんあるのです。
そのときに気をつけたいのは、「交流」をおもな目的とした場はなるべく避けるということです。
交流目的の場だと「なにか話さなければいけない」「友だちにならなければいけない」という圧力がかかってきます。

私は交流会がすこぶる苦手で、かつてどうしても行かなきゃいけないことが何度かあり、「これは仕事」と1000回くらい念じて会場へ向かって疲労困憊(ひろうこんぱい)していたが、その理由がよくわかった。「なにか話さなきゃ」と焦るうちに、そこに集まる人にまだ興味がないことに気がつくのだ。あれは虚無だ。一緒に芋掘りでもしたほうがよっぽど交流できたかもしれない。

「人それぞれ」の壁

もうひとつ、ギクッとしたのがこちら。

みなさんが知り合った人(友だちになるかもしれない人)とつき合っていくうえで、もうひとつ意識してほしいことがあります。
それは、「人それぞれ」という考えに向かいすぎないことです。(中略)
この言葉には、相手の発言や態度を受け入れているような響きがあります。(中略)
その一方で、「人それぞれ」という言葉は、相手と距離をおくときにも、ひんぱんに使われます。

「人それぞれだからね」と会話をフワッと終わらせたことのある人は、大勢いるはず。私は、何か非常に受け入れがたい人や行動を見たときに「いろんな人がいますね」と言ったり思ったりする。どこか凶暴さを秘めている自覚はあったが、そうか、あれはキツい壁だったんだ。

そして石田先生は、この「人それぞれ」について、次のように考えを重ねていく。

「一人ひとりの気持ちや考えを大切にする」ことは、いまや世のなかのルールといってよいでしょう。
だからこそ、そういったルールを守れずだれかを否定してしまった人は、きびしく罰せられることもあります。(中略)
こうした社会ですごしていれば、「一人ひとりの気もちや考えを大切にしていない」と判断されるリスクをおそれて、「人それぞれ」に逃げ込む気もちもわかります。
しかし、あらゆることを「人それぞれ」と考え、他者との間に壁をつくってしまうと、だれかと深い関係を築くのはむずかしくなります。

このあとに続く「人それぞれ」との現実的な向き合いかたは、行動に移そうとすると勇気が必要かもしれないけれど、もしも私が相手にそう接してもらえたら、こんなにうれしいことはないと感じることばかりだった。子どもにぜひ読んでもらいたい。そして大人も読んでほしい。

チクッと胸がいたむのに、最初から最後までとても居心地のいい本だ。今まで「イマドキの人づきあいって、そういうものでしょ」と乱暴にマスクされてきたことを、静かに明らかにしながら、人とのつながり方を一緒に考えてくれる。そしてもちろん、「友だちのすばらしさ」もゆっくり味わえるのだ。

  • 電子あり
『友だちがしんどいがなくなる本』書影
著:石田 光規

「友だちのことは好きだけど、いっしょにいると『しんどい』と感じることがある」
「会話についていくため、作業的に話題のコンテンツを見ている」
「メッセージの返信が遅くならないようにチェックしてしまう」

こんなふうに感じて、苦しくなっている人はいませんか。
じつはその苦しみ、あなただけが抱えているものではなく、いまの世の中の多くの人がもつ悩みです。

友だち関係について「しんどい」と感じるのは、じつはあなた個人の問題ではありません。
じつは、いまの社会が、多くの人に「友だち関係を維持すること」を強いるような構造になっているのです。

気鋭の社会学者が解き明かす、まったくあたらしい「人間関係の教科書」です。

●私がすべての人を「知り合い」とよぶ理由
●かつての社会と現代社会でまったく変わった「友だちの在り方」
●「ずっと友だち」でいなくてもいい
●インターネットとスマートホンが劇的に変えた、私たちのコミュニケーション
●古代の哲学者たちは「友だち」をどう研究したのか
●ゲーム理論から考える、正しい友だちとの付き合い方
●学校でも家庭でもない、ゆるやかな「場」をもつことの重要性
……ほか

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori

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