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【久遠チョコレートの挑戦】目指すは社会貢献ブランドではなく、一流ブランド

2024.02.29
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危なっかしい人が起こす奇跡

久遠チョコレートって知ってます? 2014年に立ち上げられたチョコレート・ブランドで、愛知県豊橋市の本店ほか、北海道から鹿児島まで60ヵ所の拠点を持ち、年商はフランチャイズ店も含めて18億円もあるというから、かなり大きい。

久遠チョコレートの看板商品は、1枚からバラでも買えるテリーヌチョコレート「QUONテリーヌ」。日本全国のさまざまな食材を用い、季節限定品・地域限定品を合わせると、その種類は150種類以上だ。世界30ヵ国以上のカカオを使い、カカオバター以外の植物性油脂を一切使わない、こだわりのチョコレート作りを心がけている。

本書は、その久遠チョコレートの代表である夏目浩次氏が、いかにこのブランドを作り上げたかを記したもの。

これから話すのは、僕の無謀ともいえる挑戦と、ぶつかり続けた壁と、次々と現れる課題を乗り越えるために絞り出した知恵と汗の物語だ。

ここまで本稿を読んで、「あ~、よくある経営者のビジネス成功記ね」と思った方。もう少し、お付き合いください。

実は、この久遠チョコレートで働く人の6割は、身体や心、発達に障がいのある人たち。さらには引きこもり経験者や、子育て中・介護中でフルに働けない女性たちなのだ。夏目氏は「障がいの有無で分けるのではなく、凸凹やグラデーションのある人たちが、イキイキと働ける世界」を目指しながら、「誰もが認める一流のチョコレートブランド」を作ろうとしている。

素晴らしい!
しかし、この夏目氏。かなり危なっかしい人なんですよ。
ちょっと羅列しますよ。

あまり深い考えもなく大学に入学。授業でユニバーサルデザインや、ノーマライゼーションについて知り、その実現のため、根っからの文系なのに理系の土木系コースに進む。(が、しかし)普通ならゼネコンあたりに就職を考えるところなのに、市議会議員だった父の跡目を継ごうと政治家を志す。信用金庫に就職して、地元で政治家への足固めをしようと目論む。(が、しかし)生来の飽き性で挫折。信用金庫もやめて大学に舞い戻り、大学院生になってユニバーサルデザインについて研究を始める。(が、しかし)根っからの文系ゆえに学会で発表しても「数字によるロジックがない」とボロクソに突っ込まれる。

ただ僕自身は、徹底的に当事者目線で研究していたつもりだった。

あー、この時代の夏目氏が目の前にいたら説教したい!
ユニバーサルデザインやノーマライゼーションを実現したい。
それはいいよ。いいことだよ。
その前にさ、自分がしっかりしようよ。

そんな夏目氏に転機が訪れる。「障がい者が働く作業所の全国平均月給(工賃)は1万円だという現実(当時)」を本で読み、ショックを受けるのだ。ここから夏目氏は、障がい者が「稼げる」ビジネスを立ち上げようと奔走する。修士論文を棚上げにして(←だーかーらっ)。彼が福祉の現場をリサーチして、聞こえてくるのはこんな声ばかり。
「なぜお金のことを聞くのか」
「福祉はお金ではないんだ」
「仕方ないんだよ」
そんな言葉で闘争心に火がついた夏目氏は、障がい者を雇い、地元商店街でパン工房を開く。(が、しかし)トラブルばかりでパンは売れず、あっという間に自転車操業の借金1000万円。

さぁ、どうする! 夏目氏!

障がい者が「稼ぐ」選択肢を!

ここからの巻き返しが、すっごく面白いのでぜひ本書を読んでほしいのだが、ココは押さえさせてほしい。

福祉とお金を切り離し、障がい者の「やりがい」とか「生きがい」のための「居場所」を作る。そんな言葉を聞くと、僕は違和感を覚えるのだ。資本主義の社会で自分らしく生きるには、誰にだってお金が必要。お金を稼ぐという「リアル」があって初めて、リアルな「やりがい」や「生きがい」を持てるものだと思うからだ。

同意! 激しく同意! 

「稼ぎたい」「働きたい」という障がい者の思いに寄り添う受け皿としてのビジネスに、なりふり構わず猛進していく夏目氏。NPO法人を立ち上げ、社会福祉法人を設立し、事業を多角化し、ネットワークを広げ、その活動が知られるようになると、今度は福祉業界からの批判にさらされる。そして社会福祉法人を追い出される。

今、振り返ると、僕も理事会の合意形成をおろそかにして多少ワンマンにやりすぎた、という反省がある。

一緒に働いたわけでもないのに、本書を読んでいると「あぁ、そうなんだろうな」と思ってしまうと同時に、夏目氏のことが少々好きになっている自分に気づく。

パンからチョコレートに品を変え、事業は拡大する。その事業を支えるのは、軽度から重度の障がい者たちだ。使える人/使えない人の線引きで、使えないと判断されてきた人の側に立ち、

困り事に直面したとしても、「できない」と嘆くのではなく、「どうしたらできるか」をとことん考える。

というやり方を貫き続ける夏目氏。「徹底的に当事者目線で」考え続け、ひとりひとり、ひとつひとつのノウハウを積み上げる。その結果、軽度・中度の障がい者の全国平均賃金が1万6000円(現在)に対して、久遠チョコレートは10倍以上稼げるビジネスにまで成長する。それだって、まだ途中経過でしかない。だって、夏目氏は久遠チョコレートを「社会貢献ブランド」にしたいわけではなく、「一流ブランド」にしたいのだ。

すっごい欲張り!
でも、それいいじゃん!
今度、川越の店に行ってテリーヌ買って食べてみるよ。

  • 電子あり
『温めれば、何度だってやり直せる チョコレートが変える「働く」と「稼ぐ」の未来』書影
著:夏目 浩次

★「カンブリア宮殿」(2024年1月11日・テレビ東京系)で話題沸騰!
★借金1000万円から年商18億円へ!
★壁にぶつかるたびに挑戦し組織を強くする! 胸が熱くなるビジネスノンフィクション
★障がい者の賃金を10倍に! 生きづらさを抱えるすべての人たちに、単なる「居場所」ではなく「稼ぐ場所」を作る! 
★凸凹から逆算してビジネスに変える数々の思考
★そこでは新たな会話が生まれ、新たなアイディア、新たな目標として返ってくる。
 その目標こそが、生きるエネルギーになる。久遠チョコレートはそんな会社だ。――松山ケンイチ(俳優)

世界各国のカカオや国内の様々な食材を組み合わせ、手作業で作られる色彩豊かなチョコレートが人気の「久遠チョコレート」。代表の夏目さんが「凸凹がある多様な人たちを誰一人取り残さず、かっこよく働ける場所を作りたい」という思いのもと、2014年、愛知県豊橋市で開業したこの店は、現在、北海道から鹿児島まで60の拠点を持つようになり、年商18憶円にまで成長。全国の企業や福祉事業所からビジネスに参画したいというオファーが殺到し、その問い合わせは、「ここで働きたい」という声も含めて年間1000件にも上る。たとえば俳優・松山ケンイチさんが手掛ける資源のアップサイクルブランド-momiji-とのコラボもその一つ。

夏目さんがこだわるのは、障がいや生きづらさを抱える人たちに、単なる「居場所」ではなく「稼ぐ場所」を作ること。「リアルな所得があってこそ、リアルな生きがいは生まれる」という信念のもと、全国の障がい者の平均賃金約1万6000円という壁を打ち破り、その10倍以上の賃金を支払う「稼ぐ場所」を創出している。

ただ、久遠チョコレートが今の場所に辿り着くまでには、「絶対失敗する」と笑われたり、呆れられたことは数知れず。周囲に何度も迷惑をかけ、怒られ、バッシングを受けながらの挑戦が続いた。

この本で語られるのは、夏目さんの無謀ともいえる挑戦と、ぶつかり続けた壁と、次々と現れる課題を乗り越えるために絞り出された知恵と汗の物語。学歴も技術もキャリアも自信もお金もなかった夏目さんが、世の中で「使えない」とされている人たちに「稼げる場所」を作ろう、と奮闘してきた道のりだ。そこには、逆境の中においても「無理だ」ではなく「どうしたらできるか」の逆算思考で組織を成長させ、ビジネスに変える数々のアイディアがある。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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