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【食道がん】「納得のいく選択」のために必要な基礎知識から最新治療までを徹底解説

新版 食道がんのすべてがわかる本
(監修:細川 正夫)
2024.02.21
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私の祖父母や両親、そして親戚含めて、がんを患った人はひとりもいません。がんは、生活習慣などをきっかけに患う可能性がある病気だとわかってはいつつも、血縁にひとりもがんになった人がいないという理由から、どこか他人事の病気でした。

そんな気持ちを一変させたのが、2023年12月に発表された、とある大好きなミュージシャンの死。

その人の名は、チバユウスケ。

病名は食道がんでした。ミッシェル・ガン・エレファントやROSSO、The Birthdayといったバンドで活躍。名前は知らなくても、生放送の某音楽番組にてロシアの女性デュオがドタキャンした際、急きょ1曲生演奏を披露して拍手喝さいを浴びたバンドのボーカル、といえば思い出す方もいるかもしれません。

2023年4月に食道がんを公表し、続報などない中での突然の訃報でした。圧倒的にカッコよくて、唯一無二な存在だったチバユウスケをこの世から奪い去った食道がんとはなんなのだ!?と、怒りにも似た感情と共に強い関心を持つに至りました。

そんなタイミングで刊行されたのが、本書です。これはひとつの巡り合わせに違いないと思い、手に取りました。そしてあらためて、自分はがんだけでなく体の構造そのものを何も知らなかったということに気づかされました。

「食道」と「食道がん」を知る

本書では詳細かつわかりやすい図やイラストで、食道という器官が体のどこにあり、どういう組織で成り立っているかを説明しています。飲食物は重力ではなく、食道の壁を作る筋肉の動きで胃へと送り込むこと。さらには食道の外側にある外膜は、気管など隣り合う臓器との隙間を埋める組織で、丈夫な膜で覆われていないため、食道にがんができると周囲に広がりやすいなど、個人的に新たな発見がありました。

この、「転移しやすいがん」というのが食道がんの厄介なところ。しかもがん初期は特に症状もなく、飲み込みにくいといった違和感がある段階ではもう進行がんになっている、というケースも多いのだそう。

また、がんができる位置によってその名称が異なっており、当然ですがその治療法にも違いが生まれることも記載されています。

「発がん」を知る

では、食道がんになってしまう原因はなんなのでしょうか。主な要因としては、生活習慣が挙げられます。喫煙や飲酒、刺激物(熱いもの、辛いものなど)を好む、運動不足といった要素が重なり、食道がんになる場合が多いようです。飲酒時に顔が赤くなる人も要注意。その理由についても明記されています。ただし、もちろんですが、喫煙や飲酒だけが理由ではありません。

また、本書内では様々な箇所で喫煙が及ぼすリスクに言及。私はこれまでの人生でタバコをくわえたことすらないのですが、喫煙習慣のある友人が多いので、どうか吸い過ぎには注意してほしい……と強く思いました。

「治療法」を知る

いざ、食道がんになってしまったらどうすればいいのでしょうか。治療にあたってはいくつかのパターンが用意されており、手術はもちろん、がん治療として認知度の高い放射線療法や抗がん剤による化学療法、内視鏡による切除、対症療法などが挙げられます。

がんの病期(ステージ)によって治療法が異なることや、それぞれの治療方法に関する図説による具体的な解説、そしてメリットとデメリットも記載。


また、手術療法ひとつとっても、様々なケースがあることを丁寧に説明しています。がんに侵された食道を切除したあと、他の臓器を使って食道を再建する手術があるのですが、その複雑さに驚くと同時に、人間の体の神秘にも想いを馳せてしまいました。

ただ、食道再建手術も万能というわけではなく、胃を持ち上げて食道の代用とする場合、胃が小さくなること、そして本来食道がもつ機能(逆流防止)がないために起こるリスクについても知ることができます。

ちなみに、胃の内容物が食道に逆流する逆流性食道炎によって食道がんを発症するケースもあるとのこと。逆流性食道炎がある人は注意が必要だそうです。

「費用」を知る

がんと対峙する際に、どうしても気になるのがお金。がんは高額の治療費がかかる、というイメージもありますが、本書内では一般的な治療から特別な治療まで、保険適用なのか適用外なのかについても触れています。また、コラムページではがんの治療費についてまとめた解説も。個別のケースでそれぞれ費用は異なりますが、ひとつの参考になる資料です。

ここまで挙げた以外でも、本書では入院スケジュールや手術等の治療による後遺症について、さらには治療後のリハビリなど、食道がんに関するひととおりの知識を得ることができます。

また、転移のしくみや治療法別のメリット・デメリット解説などは食道がんだけでなく、他のがんにおいても参考になる情報。

未知なるものには不安も大きくなりますし、噂や偏った知識で誤った判断を下してしまうこともあるかもしれません。がんを予防する観点からも、あるいは医療機関受診前の参考資料としても、正しい知識をインプットして冷静に対処するため、本書が果たす役割はとても重要ではないでしょうか。

大切な存在が亡くなったことを悲しんで終わるのではなく、その人が戦った病気について少しでも知ることができて、私にとって本書との出会いは、とても大きな体験となりました。

『新版 食道がんのすべてがわかる本』書影
監修:細川 正夫

【ひと目でわかるイラスト図解】

【納得いく治療法を選択するために】
近年、食道がんを取り巻く状況は大きく変化しています。
鑑視下手術はますます広がりをみせ、手術支援ロボットを導入する医療機関も増えています。
術前補助療法と手術をおこなったあと、従来の抗がん剤とは作用のしかたが異なる新しい薬が使われる例もあります。

治療法の種類が増えるほど、自分にとってなにがベストの選択か、悩まれることも多いでしょう。
医師に自分の状態をよく聞き、提案された治療法について自分でも調べ直してみましょう。

がん治療はなんらかのマイナス面があります。
体にやさしいなどという言葉も使われますが、あくまでも従来の方法と比較してのことです。
自分が望む治療法だけでなく、食道がんそのもの、そして食道がんの治療法全体を広く理解する必要があります。

納得できる治療を受けるには、正しい知識をもつことが不可欠です。
患者さん自身の覚悟と努力が悔いのない選択につながります。
みなさまが本書を活用し、よりよい治療を受けられることを願っています。
(まえがきより)


【主なポイント】
*進行するまでほとんど無症状、気になる症状があれば放置しないで
*のどや胃にもがんを併発する重複がんが多い
*治療方針の立て方は、病期(ステージ)、悪性度などを目安にする
*主な治療法は手術療法、化学療法、放射線療法、内視鏡治療。組み合わせることも
*モニターを見ながら手術する「鏡視下手術」「ロボット手術」をおこなう医療機関が増えている
*手術を受けない場合の標準的な治療法「化学放射線療法」
*保険適用の新しい治療薬「免疫チェックポイント阻害薬」の働き方

【本書の内容構成】
第1章 食道に、いったいなにが起きている?
第2章 状態に合わせた最良の治療法を選ぶ
第3章 手術を受けることになったら
第4章 抗がん剤と放射線で治すとき
第5章 治療後の生活をいきいきと過ごす

レビュアー

ほしのん イメージ
ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009

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