今日のおすすめ
「捨てたら本当に必要なものが入ってくる」という絶対法則。服を捨てたら人生が変わった!
(著:昼田 祥子)
“おしゃれがすべてだった人”が捨てた1000枚の服
大昔、家庭科の授業だったかで「衣服は肌を守ってくれます」と教わって、その言葉がとても気に入った私は、大人になった今も服に袖を通しながら「私を守ってくれる」と念じている。そこにお調子者の性格が合わさって、どこに出しても恥ずかしくないくらいの堂々たる着道楽が出来上がってしまい、当然クローゼットにはみっちりと服が詰まっている。
なので『1000枚の服を捨てたら、人生がすごい勢いで動き出した話』のページを用心深くめくって読んだ。近年こんなに慎重に読んだ本はあるかなと思うくらい、私の何かを刺してしょうがなかったのだ。
著者はファッションエディターの昼田祥子さん。
そう、私はみなさんにずっと「服を買え! 買え!」と言ってきた人間です。
そんな人が、服を1000枚も捨てる?
一見華やかそうな仕事ですが、会社員時代は徹夜して会社に寝泊まりするのは当たり前。それでも一度も辞めようと思わなかったのは、死ぬほど服が好きだから。服が持つパワーを誰よりも知っているからこそ、みんなに伝えたい。
おおげさではなく、一年365日24時間のほとんどを服に捧げてきました。
つまり、これはただ事ではない。整理整頓や必要最低限のファッションを啓蒙する本ではなくて、もっと心の奥をひっくり返すような、そんな本。私がこわごわと読んだのも、そのあたりに理由がある。そして、私も服を捨てたくなったし(実際、捨てた)、服を慈しむ気持ちがますます湧いてきた。
私は、何も奪われていない
この本の第1章は、繊細な言葉と内省で「捨てること」と「捨てられないこと」を解きほぐしていく。捨てられないものに囲まれている人にぜひ読んでもらいたい章だ。
フリマアプリへの出品をきっかけに服を手放すことを始めた昼田さんは、ほどなくして壁にぶつかる。フリマアプリで売れると楽しい、じゃんじゃん売りたい。でも「捨てられない服」ばかりが残っていくのだ。思い出があったり、まだ着られるものだったり。たぶん「わかるわかる」とうなずく人が大勢いるはず。
なんで捨てられないんだろう。クローゼットで眠る何百枚もの捨てられない服を前に、昼田さんはこう考える。
いや、これは服の問題じゃない。
これを手放してしまったら自分の何かを失いそうで怖いのだ。
ものを捨てるときに身をちぎられるような不安に襲われる人(まさに私)は、ものを失うことではなく自分の何かを失いそうで怖い。
だから昼田さんは、服ではなく自分と問答を始める。
「この服を手放すことで、シャツが似合うという私のよさは失われる?」
「いや、違う……」
「そうだよね」
「だったら捨ててみたら?」
こうして一着ずつ辛抱強く服を手放していくうちに、あることに気がつく。
あんなに手放すことを恐れていたけれど、やってみたら私は、何も奪われていない。むしろ捨てるたびに自分に強さが戻ってくるような、何かが内側にできあがっていくような感覚がある。
「スッキリ」だけじゃなくて「自分に強さが戻ってくる」? 本当に? でも、本当なのだ。服を捨てるとき、一緒に「捨てられなかった理由」も手放す。この本でたびたび語られるのは、自分を守ってくれていたけれど同時に縛ってもいた「観念」を捨てることなのだ。
縁が切れた服
たくさんの観念がつぎつぎと消えていく軽やかな本だ。たとえば、昼田さんがどうしても捨てられなかった「仕事を頑張りたくて買った高価なジャケット」は、過去への執着をまとっていた。
その服自体に意味があるのではなくて、服をフックにして、
・あの頃の私は、楽しかった
・あの頃の私は、頑張っていた
・あの頃の私は、自分が誇らしかった
という過去のいい感情を味わいたいから、手放せなかったのだと思います。そこにとどまっていたいという「過去への執着」です。
(中略)
楽しい/頑張っている/誇らしいなどのいい感情は、今この瞬間にその服がなくても味わえるものです。つまり、思い出の服は不要です。
もう着ないアイテムなのであれば、縁は切れています。
ある、あるぞ私のクローゼットにも「過去の執着」が、それはもう数え切れないくらい! 数ページ読んでは自分のクローゼットに舞い戻りたくなる。そうやって服を手放すと、クローゼットがスッキリするだけじゃなく心の風通しがよくなる。
そしてこんな言葉に救われる。
「自分に似合うものがわからない」という声をよく聞きます。
それは「似合うものしか着てはいけない」「着るなら似合う服がいい」という世間の刷り込みからきているのだと思うのですが、今の私は、正直なところまったく気にしていません。(中略)
私がしっくりきていればそれでいい。「似合う」と思って買ったものでも顔立ちや体つきは毎日少しずつ変わっていくのだから、「似合わない」は明日くるかもしれない。でも着たいから着る。自分がよければいいんです。
メイクでも「この口紅はブルベ向き」なんて言葉が飛び交うが、安心するために他人が決めたルールをコテコテと盛り込んでも、ちっとも幸せじゃないのだ。やめたやめた、好きな色をじゃんじゃん塗って、しっくりくる服をしつこく着るぞ!
観念が消えていくと何が残るか。それは本音だ。昼田さんの場合、服捨てによって「できるだけラクしたい」という本音がポコンと出てくる。そして自分の本音に寄り添って自分に誠実に生きていくと、生命力が増していく。生命力にあふれた人には、その人にふさわしい道が拓ける。
野暮ったさは回避したい
本書はファッションエディターである昼田さんならではの視点が楽しい本でもある。
服を捨てに捨てて、「できるだけラクしたい」という本音に基づき、ワントーンコーディネートに集約されつつあった昼田さんのクローゼット。でも野暮ったさを回避するには?
ふと思い出したのが、「上下の質感に差をつけるほどおしゃれに見える」という法則でした。(中略)
質感は難しく考えず、素材の表情、と捉えてみてください。マット、ツヤ、透け感などいろいろな質感がありますが、上下の組み合わせが「マット×ツヤ」のようにコントラストがつけばつくほど、メリハリが出るのでしゃれて見えます。(中略)
華やかな色を着なくても、どんな地味な色のコーディネートでも、質感に差があれば、華やかさは演出できます。
このテクニックがとても好きで、毎日あれこれ試している。
そしてこのエピソードも大好きだ。
あるとき、安い服はぞんざいに扱い、高い服は丁寧に扱おうとする自分に気がつきました。買うときも値段によって、自分の慎重度や真剣さが違う。このままだと一生私は服に振り回されてしまう。(中略)高くても安くても態度が変わることなく、どんな洋服ともフラットに付き合える自分でありたい。
そう決めると「自分の意識」が変わります。一番顕著に変わったのが「ユニクロ」との付き合い方でした。
安いから失敗してもいい、ではなくて、たかが1900円でも失敗したくない。だって1900円で失敗する人は、1万9000円でも19万円でも失敗してしまうでしょう。毎回が真剣勝負です。ユニクロは一番手を抜けない相手になりました。
1900円で失敗する者は19万円でも失敗する。おでこに書いておきたいくらい刺さった。そして「自分はどうありたいのか」を軸にすると、何もかもがスッキリと整うことに驚く。このあと続く昼田さんのユニクロ論は必読。
「私にはこれがなくても大丈夫」と言い聞かせながらものを捨てると、どういうわけか、より自分にふさわしいものが転がり込んでくる。たとえば、本書にならって長らく捨てられなかった思い出のカットソーを捨てたら、チャレンジしがいのある仕事を紹介してもらったり、以前デパートで見かけて「いいな(でも高いな)」と思っているうちに売り切れてしまったジャケットとセール会場でばったり再会した。
この本でもそんな「捨てたら、捨てただけ新しいものが入ってくる」エピソードがたくさん登場する。物質だけじゃなく、その人の内面にくっついてきた観念を捨てて、自分の芯となる本音を解き放つのだから、なるほど人生はすごい勢いで動くはずだ。
ところで、この本を手に取った方は、ぜひ帯とカバーを外して表紙の裏表を見てほしい。「服を1000枚捨てて、風通しがよくなる」をリアルに体感できる装丁だ。私は「あーっ!」って声が出ました。昼田さんが私たちに伝えたいメッセージが伝わってくる。
- 電子あり
クローゼットに収納術はいりません。
「クローゼット=本当の自分」にできれば、勝手に整うものだから。
ただ、自分の心地よさに従うこと。
本来の自分を生きるという覚悟を決めること。
捨てられずに人生を詰まらせているものに向き合い、手放していけたとき、人生はすごい速さで自分でも思いがけない方向に進んでいきます。
1000枚の服を溜め込んだファッション雑誌編集者の人生を変えた「服捨て」体験と、誰でもできるその方法を伝えます。
●「縁が切れた服」を捨てる
●「他人のために買った服」を捨てる
●「心地よくない服」を捨てる
●「おしゃれでなければならない」を捨てる
●「似合う服を着る」を捨てる
●「全身くまなくコーディネート」を捨てる
●「いい服を着たい」を捨てる
●「プレゼントを使わない罪悪感」を捨てる etc.
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori
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