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フィットネス実業団が介護を変える突破口だった! 介護ビジネスこそが日本を救う。
(著:丹羽 悠介)
マッチョを大事にする会社は、人を大事にする会社
「あこがれ」は人を引き寄せる。『マッチョ介護が世界を救う! 筋肉で福祉 楽しく明るく未来を創る!』の著者でビジョナリーの代表である丹羽悠介さんは、介護ビジネスに「よい人材」を呼び込むために「マッチョ」に注目した。
「マッチョ」と「福祉」が結びつくと、こんなにワクワクするのかと驚く。そして、ただ闇雲にくっついたわけではないことを知って興奮する。目指す方向をきちんと見定めた経営者のロジカルで熱い言葉が並ぶ本だ。
本書の舞台は、東海地方で介護ビジネスを手がける株式会社ビジョナリー。ためしに「ビジョナリー」で検索して企業サイトを見てほしい。とてもスタイリッシュだ。しかもSNSはInstagramからX(旧Twitter)、YouTube、さらにTikTokまで揃ってる。インスタには無数のマッチョの写真が並び、TikTokで動画を投稿する人事部長も強そう。ビジョナリーは「フィットネス実業団」を擁する会社だ。
「フィットネス実業団があるよ」とマッチョに話すと、「マジっすか!」とみんな興味津々になる。マッチョがマッチョであり続けるのは、かなり大変だ。よく「筋肉は裏切らない」というが、あれには「ただしお前が裏切らない限り」という重要な条件が付いていることを忘れてはいけない。
だからマッチョたちは、トレーニング、食事の管理、休息、そして仕事との両立を毎日頑張っている。でもこれが大変なのだ。オフィスの給湯室でプロテインを飲み、飲み会を断ってジムに行く巨大な自分を、周囲はどう見るか。ああ、企業に所属しながら堂々とフィットネスに打ち込める環境があれば……。
そんなマッチョの理想郷のようなビジョナリーの話の前に、介護ビジネスの前提条件と現状を紹介したい。
介護は典型的な労働集約型の仕事であり、マンパワーで成り立っています。担い手が集まらない限り、事業の拡大は望めません。
だから、たとえば投資家が労働集約型ビジネスの成長性を測るとき、その企業の「従業員の年齢構成比」と「採用状況」は重要な指標になる。でも?
近年あらゆる業界で人手不足が叫ばれています。ビジョナリーのフィールドである介護ビジネスはなかでも人手不足が深刻です。
介護は体力勝負の部分もあり、若手・男手が広く求められる分野です。
ところが、その担い手は決して若くはなく、男性も少ないのが現状。
採用は難航している。日本の人口の年齢ピラミッドは縄文土器のようなツボ型で、介護を必要とする高齢者は膨らんでいるのに、介護業界で働く若手は少ない。では、ビジョナリーで働く人たちの年齢や性別はどうなっているか。
うちの介護スタッフの平均年齢は29歳、男女比は男性7:女性3となっています。
すごい! 本書では、この「フィットネス実業団」が生まれたきっかけと、企業と人が成長するうえで大切なことが語られている。ビジネス書として読むもよし、介護業界のブレイクスルーを学ぶもよし、明るく元気な人生のために何が必要かを考えるもよし。元気が出る本だ。
フィットネスコンテストで悔し泣きする選手
企業イメージを向上させるスポーツ実業団のなかでも、なぜ「フィットネス」を選んだのか。まず、丹羽さんのこんな体験が元になっている。筋トレを始めた丹羽さんが、フィットネスコンテストに出場したときのこと。丹羽さんは予選敗退したが、それは想定内のことで、悔しくなかったのだという。ところが、3位入賞の参加者の悔し涙を目撃し、丹羽さんは衝撃を受ける。
あえなく予選敗退した身からすると、3位入賞でも誇らしい立派な成績だと思っていました。そんな彼が人知れず男泣きする姿を見たとき、私は予選落ちしてもヘラヘラしていた自分が心底恥ずかしくなりました。
それと同時に、1位を目指して本気で努力を続けて、それが叶わないときに全力で泣ける姿を心からカッコいいと思い、強い憧れの気持ちを持ちました。そして「こんなカッコいい男たちが、介護で働いてくれたら、業界が変わるのではないか」「カッコいい男達に憧れて、介護を志す若者が増えるのではないか」と考えるようになったのです。
フィットネス大会の決勝戦では、下の順位から名前を呼ばれる。このとき3位や2位で名前を呼ばれた人の表情はとてもドラマチックだ(そして素人の私が見ると、彼らと1位との差がほとんどわからない。接戦なのだ)。
この情熱的なエピソードを種に、そこから事業化にこぎつけた過程も紹介されている。こちらもとても面白い。費用が会社の規模に合っているかを確かめ、ニーズの有無を測るためにリサーチを重ね、さらにメディア戦略を立てた。実業団メンバーの労働形態や条件も整えた。そして、フィットネス実業団を今後さらに成長させるための構想だってちゃんとある。そう、これはビジネスなのだ。
そして介護だってビジネスだから、「よい人材」を集め、「よいサービス」を提供し、高い評価を得て、対価も手にし、企業は成長する。本書は一貫して「介護というビジネスをどう育てていくか」に照準を合わせている。なのでとても明快で気持ちがよい。
第2章ではビジョナリーのビジネス戦略や社員の採用基準が公開されている。この採用基準は『「出会えてよかった人」でいること』なのだという。“いること”というのがとても重要だ。
その場限りの都合の良い「出会えてよかった人」ではなく、一緒にいないときですら、「出会えてよかった人」と思える人を優先的に採用したいと考えています。
これは、私たちのコアバリュー。もっとも大事にしている価値観です。
実業団への応募者でも、どんなにナイスなボディをしていても、「出会えてよかった人」と思えるようなタイプでない限り、採用にはいたりません。
本書では「出会えてよかった人」でいるための具体的な3つのキャラクターも明示されている。たしかに、こんな人と仲間になりたいと思わせる人柄ばかりだ。第3章では、このコアバリューを実現するための人事評価基準が述べられる。こちらも非常に具体的で、納得できて、おもしろい。事業やマネージメントの参考になるはずだ。
介護は「感謝されて、必要とされて、クリエイティブ」
介護の仕事に携わる人たちが、何に喜びとやりがいを見出しているかも教えてくれる本だ。
たとえば、フィットネス実業団の選手たちは、入社を決める前に介護の現場仕事をインターンとして経験する。入社後のミスマッチを防ぐためだ。すると、誰も「介護は無理です」と言わなかったのだという。
「何もかもが初体験で、何をするにも手際が悪くて下手なのに、利用者の家族から“今日1日、本当にありがとう”と何度も感謝されました」とか、「初対面なのに“あなた、次はいつ来てくれるの?”と尋ねられてビックリしました」といった感想が返ってきました。
若い男性というだけでも珍しいのに、何事も軽々とこなす頼り甲斐満点のマッチョたちが介護を担ってくれるのですから、利用者とその家族には感謝の気持ちが湧いてくるでしょうし、「またぜひ来てほしい!」と願うことでしょう。
この「ありがとう」の効果を、丹羽さんは昨今の若者を取り巻く環境をもとに、次のように考えている。
自己肯定感が低すぎる現代の若者たちにとって、インターン時に選手たちが体験したように、介護で「ありがとう!」と日常的に感謝されて、頼りにされているという実感が得られたら、「自分は自分でいいんだ」という当然の事実が再確認できるようになります。これは、介護の仕事に出合った頃、私自身が実感したことでもあります。
丹羽さんが介護にやりがいを感じたエピソードは、5章で自身のキャリアや挫折とともに丁寧に語られる。「どん底」を経験した丹羽さんが、介護の仕事と出合い、「感謝されて、必要とされて、クリエイティブ」な魅力に気がつくさまは、人間と触れ合う仕事の面白さや、すべての人が持つ尊厳を連想させる。
そういった涙ぐみそうになるパートと、経営者がビジネスを育てていく戦略パートの両軸で読み応えがある。家族経営のスモールビジネスがパブリックカンパニーを目指して方向転換を図る過程や痛みもリアルに語られる。すべてにおいてビジョンが明快で、そのビジョンを実現するための戦略と、それを支える情熱が伝わってくる良書だ。
- 電子あり
第1章 フィットネス実業団はこうして生まれた
施設介護へのシフトが、フィットネス実業団を生み出しました
第2章 介護ビジネスこそが日本を救う
「なりたい自分」を諦めてなくてもいい世界にします
第3章 介護が教えてくれた「出会えてよかった人」でいるための方程式
第4章 ゼロからの介護ビジネス経験が生んだ“へそ曲がり”の仕事術
「ホウレンソウ」不要な組織こそが最強です
第5章 どん底の私を介護が救ってくれました
憧れの美容室で社会人としてスタート
第6章 ファミリービジネスからビジョン経営へ
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori
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