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2023.02.02

レビュー

中世ヨーロッパレベルの酒造技術しかない世界に、現代のお酒を持ち込んだら──。その一杯で異世界侵略!?

「現代のお酒」は最強の武器?

「なんておいしいんだろう」と感動するときは、味そのものと、その味を生み出した技術に圧倒されている。とくにお酒は飲めば飲むほどびっくりする。テクノロジーと人間の欲と探究心を飲み込んで進化してきたんだろうなあと思うのだ。最近の日本酒や日本産のワインを飲むと「よくぞここまで磨いてくれました」と拝みたくなる。

『ドランク・インベーダー』は、異世界に現代のお酒を持ち込む物語だ。ワイン、日本酒、蒸留酒、ひたすらドンドコ運び込まれる。異世界のみなさんと仲良くなるために「まずは一杯いかが」という感じ? ちがう。



異世界の支配層をお酒でベロベロにして侵略したいらしい。異世界と日本は、どういうわけだか“門(ポータル)”で結ばれてしまったのだという。たしかにお酒は武器よりも静かに穏便に相手の世界へ運び込める。

とはいえ、異世界にもお酒くらいあるんじゃない? そう、たっぷりある。ワインとかね。でも私たちの世界のワインとは違うようだ。



酒造技術が進化しておらず、ワインの先祖のようなワインが今も愛飲されている。それはそれで一口飲んでみたいが、この食レポを読む限り「おいしーい!」とは思わないかも。

つまり異世界と日本のお酒のクオリティには、石槍と無人戦闘機くらいの差がある。

この異世界侵略計画における重要人物が本作の主人公“トウジ”だ。バーで4年間働いてきたお酒大好きな大学生4年生。お酒の知識はものすごいが、お酒を愛するあまり卒業後の進路はグダグダという男。




さあ、異世界に贈る「最高のお酒」はどれにする?

高けりゃいいってもんじゃない

まずは本作におけるトウジのスタンスや、彼の人となりを紹介したい。



すごくいいやつなんですよ。強い酒愛とまともな人間性の持ち主。お酒は人を幸せにするための飲み物であるべきで、誰かの人生をぶち壊す凶器になんてしたくない。だからこそトウジは異世界侵略計画に加わる。



こちらが酒漬けにされそうな異世界の女王様・“ドロシー”。少女のような姿だけど、不老不死の魔女だ。おそろしく年齢不詳。

トウジは親善大使としてドロシー様に謁見し、酒席に招かれ、彼らの酒造技術が中世レベルであることを知る。そんな彼らが「おいしい」と思ってくれるお酒は?



「飲む人のことを考えるべき」、名言だ。ドロシー様たちには、最高級のブランデーやシャンパンのおいしさは感じてもらえないはず。これは初めてお酒を飲む現代の人にも当てはまることかもしれない。



異世界に贈るお酒の考察が楽しい。トウジの酒愛が伝わってくる。

こうして選んだお酒は、はたしてドロシー様のお口に合うのか?



よかった。初めて出合うおいしさにビックリすると、たしかにこんな表情になる。この「モスカート・ダスティ」は中世ではおそらく実現不可能なお酒だ。



ドロシー様の「ウメー」って顔がかわいい。どうもお気に召したようだ。ここからトウジによるお酒の解説が始まる。



たしかに映画やドラマで見かける中世のお酒はぬるくて雑味も多そうなイメージだ。科学の進歩はお酒も変えた。



お酒はパラメーターの宝庫。科学の力で繊細なコントロールを施せば、お酒も進化する。



しかもモスカート・ダスティはアルコール度数が低い。お酒初心者にフレンドリーなワインなのだ。本作は酒好きとお酒を初めて飲む人の架け橋のようなマンガだ。




実はドロシー様はお酒にめちゃくちゃ強いようなので、蒸留酒もこの通り。侵略計画は難航するかも?



酔い潰れてしまった場合の対策法もさりげなく教えてくれる。大事!

本作に登場するお酒は、どれも侵略の道具であるはずなのに、トウジの手にかかると最高の一杯になってしまうようだ。



おいしそう。飲む人のことをたくさん考えて差し出されたお酒なのだから、おいしくないわけがない。トウジと飲んだら楽しいだろうな。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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