とんでもなく素敵な漫画と出会ってしまいました! 心の中を爽やかな風が吹き抜けたかと思ったら、完全にハートを掴まれていました!
「もの凄く好き」を福岡弁で言うと『ばりすき』。この漫画は私にとって間違いなく、『ばりすき』です!
『ばりすき』は、毎回ひと組の高校生カップルが登場するショートストーリー。
といっても「高校生がそんなことを。ええっー!」みたいな今どきの生々しい恋愛ではなく、初々しくてお茶目な高校生たちが出てきます。
例えば、なかなかLINEを聞けなかったり、デートに誘えなかったり、「好いとう」とか「好きやけん」の告白ができなかったり。純情一本やり! と言えば聞こえはいいのですが、要するにヘタレな男の子が出てくるパターンはさすがです。
でも私が好きなのは、恋話3の「藤崎くんと室見さん」。
帰りの電車の中で、藤崎くんがもらったバレンタインチョコをバクバク食べる室見さん。
コーラでチョコを流し込みすぎて「き…、きしょくわる…」と言いながらも、「安心しときー、すぐに地球上から消し去ってやるけんね」とチョコを目の敵にして食べ続けます。
それなのに、藤崎くんが「手作りチョコはカンベン」と言うと室見さんは……、
なぜ室見さんが、藤崎くんのチョコを食べる戦いに挑んだのかというと……。
最後にそんなオチが来るのか! 「カワイーっちゃけど」と思わず唸ってしまいました。
漫画本の帯に「かわいい娘がバリバリ出てくるばい!」とあり、どうせ男目線で見たエロ可愛いだろうと微妙に反発していたのですが、それとは全然違う可愛さなのです。言うなれば、勝ち気で健気で、男を立てながらも手のひらで男を転がす九州女的な。
ご当地ネタもしっかり盛り込んであって、私が一番笑ったのはこちら。
懐かしい! 「せんべい」じゃなくて「せんぺい」ね。
実は私の母と祖母が福岡の久留米出身で、家の中では常に久留米弁が飛び交っていました。
「にわかせんぺい」も子供の頃から慣れ親しんだお菓子。
といっても、硬~い瓦煎餅で、ド派手なオレンジ色の缶に、これと同じ変顔のお面が付いていて、子供心になんてグロテスク、こんなお面で遊ぶ人なんているか! と忌み嫌っていたのです。
そ、それが数十年ぶりにこんなところで出会うとは(笑)。
とにかく『ばりすき』に出てくる話はどれもお洒落で、トレンディドラマの黄金期を知っている私としては、たまらないものがあります。
でも、それよりももっと甘酸っぱくて、この感覚どこかで経験したことがあるなぁと思ったら、わたせせいぞう氏の『ハートカクテル』でした。
『ハートカクテル』は、講談社の「モーニング」で連載され、昭和のバブル真っ只中である80年代に大ブームを起こした漫画。
深夜にアニメもやっていたのですが、実写版(主演:三上博史、鈴木保奈美)は、トレンディドラマの先駆けとなった、お洒落な大人たちの話でした。私は『ハートカクテル』の世界観が好きで、ドラマの舞台となった函館にまで行ってしまったほどです。
その『ハートカクテル』よりも、もっと身近で誰もが経験したことのある学生時代の恋愛話が『ばりすき』には詰まっています。
胸がキュンとして、オチが明確で、まさに「令和のハートカクテル」。
若い人たちだけに読ませるのは勿体ない。私のようにはるか昔に学生だった人にも、あの頃を思い出しながら、読んで欲しい作品です。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp