「ガンバレ」なんて口に出したことなかったのに
「ときどき後楽園ホールにプロレスを観に行く」と母親に話した時の反応が忘れられない。食事の手を止め、真顔で「あなた、今どんな男の人と付き合っているの?」と尋ねてきたのだ。そんな単刀直入な質問は初めてだった。後楽園ホールの雰囲気を考えると、母の緊張はわからんでもないな、と思った。
歌舞伎もバレエもプロレスも「興行の色気」が美しい。でもプロレスはちょっと特別だ。さっきまでマイクを握りしめて「何月何日の名古屋で、絶対オマエをぶちのめす!」などと激怒しながら次回のご案内もスマートにこなす有能なレスラーが、試合後にはグッズ販売の受付にいるのだ。ホカホカ。
この距離感!
試合中はこんな感じで声援が込み上げてくる。「がんばってください!」と他人に面と向かって言ったことなんて人生で皆無なのに。後楽園ホールにいる私を母が見たら仰け反るだろう。彼女の不安は、ある意味正しい。
ということで、今回は『プ女と野獣 JKが悪役レスラーに恋した話』というたいへん素晴らしい恋愛マンガのご紹介です。万人がキュンとなる恋の可愛らしさと、“プ女=プロレス観戦を嗜む乙女”の夢が詰まってました。贅沢。大赤面。
私の“推し”は悪役レスラー
主人公の"百花"は17歳の高校生。
おでこを出したヘアスタイルがよく似合う大人びた雰囲気の美人JKです。彼女の真剣な眼差しの先にいるのは……、
悪役レスラーの“久我選手”。「やっぱかっこいい?」って私も心底思った。パイプ椅子がマジ似合う。プロレス界には、女子が「きゃー」と歓声をあげてしまうイケメンレスラーもいれば、「ワーッ!ヘッドロックしてくださーい!」と男たちがじゃれつくレスラーもいます。久我選手は後者のタイプですね。
ああ、高度にプロフェッショナルな姿に惚れ惚れ。……百花ちゃんと好みがシンクロしすぎて全ページ同意あるのみでこれを書いていますが、JKが好む異性のタイプとしては少しレアケースかもしれません。
この微妙な表情。最高にいい。「やべー筋肉」にも色々あるよね。
“推し”が私をフォローした!
百花ちゃんは久我選手のツイッターにもこまめにレスをつけます。
男性ファンが主な久我選手にとって「たぶん若い女の子なんだろうな」と思わせる百花ちゃんからのレスは癒し。レスに丁寧にお返事をしてくれます。あー、すでに幸せでお腹いっぱいだ。でも続きます。勇気を出してファンレター(写真付き)を書き、もっと勇気を出して出待ちをして、
「私」を見つけてもらいます。泣く! で、ファンにとって心臓が止まるかと思うようなドキドキする大事件が連発し、ついに……!
久我選手にフォローされる百花ちゃん!!!!!
「誤操作かも」というこの戸惑いが可愛い。
とはいえ、百花ちゃんは女子高校生。どんなに大人びた容姿でも17歳は17歳です。「未成年のファンに手を出した」なんてことは絶対ダメ。
先輩の冷静かつ大人な言葉にうなだれる久我選手。握りしめたスマホと、ただただ焼けるお肉……名シーンだ。
こんなふうに、「ファン」と「選手」の恋が丁寧に描かれているので、どこを読んでもグラグラとめまいがする。同時に、透明であたたかい気持ちにもなる。
大好きな選手のことは「ガンバレ」って大声で言いたいし、その声援が選手に届いてくれたら、こんなに幸せなことってない。はー。ピュアな恋とプロレスって相性最高です。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。