「強い女の子」の「女の子らしさ」
3年くらい前、モード系の女性向けファッション誌で、レスリングの世界チャンピオン吉田沙保里さんの特集があった。メイクも服装も素敵で素敵で今でもよく覚えている。なかでも一番よかったのは、最後のページに載っていたスポーツウエア姿でのカットだ。ドキっとした。鍛えあげたひろい背中と明るい横顔がとても「彼女らし」くて「女性らしい」と思ったのだ。真正面から考えはじめると急に捉えづらくなる「女性らしさ」が目の前に飛び込んできたと思った。
『ヒロインはじめました。』も、やっぱり「女の子らしい」マンガだ。
たとえ、ヒロインの転び方が、
こうであって、相手の男子の転び方が、
こうであっても、だ。とことん「女の子らしい」。
「俺のボディガードになって」
ヒロインの“周子”は高校1年生。
抱えている紙の束は周子が受け取った入部案内の数々です。冒頭でご紹介した“転び方”(もはや転んでないでしょって思うくらい綺麗な転がり方)を見てわかるように、身体能力にとても長けた女の子です。だから勧誘がたくさん来ます。
こちらは先ほどひっくり返っていた“芹沢”君。学校一のモテ男で、転び方はダサいが顔や表情はめちゃかっこいい。
あまりにかっこいいし、ノリもいいので、こんな噂すら立っています。
周子と芹沢君はひょんなことから知り合うのですが、周子は芹沢君のことを「うらやましいなあ」って思うわけです。だって「ヒロイン」みたいな高校生活に憧れてたから。彼氏ができたり、胸を焦がす恋をしたり。
幼い頃からあらゆる格闘技に親しんできて、めちゃ強くて、でもその「強キャラ」な自分は少し横に置いて「女の子でよかったなあ」に専念したいんです。そして、そんな願望をぽつぽつと語る周子の言葉を黙って聞いていた芹沢君からこんなオファーが。
このシーンは第1話でのやり取りです。やだ、お話し終わっちゃうじゃん! ……と思ったら。
こんな「だから」って聞いたことある? でも、この感じが、本作が描く「女の子らしさ」にすごく繋がっている気がする。
「強い女の子」のヒロインがはじまる
芹沢君は「やりたいこと」をはっきり口に出すタイプの男の子です。「護衛がほしいな」とか。そのノリで、「世界で一番の女の子にする」と宣言した周子に対しても色々問いかけます。
周子の回答に共感する女の子は少なくないはず。
デートの待ち合わせ中に「自分はなんてオシャレじゃないんだろう」と思う気持ちもめちゃわかる。周子は、自分を「ヒロインじゃない」と思っているんですが、読んでいるこちらは「結構ヒロインだよ……」となるわけです。あなたは不安でしょうがないかもしれないけれど、今ど真ん中にいるんだってば、って。そして、ソワソワする姿と並行して、周子の「いいところ」も存分に発揮されていきます。
こういう鋭いことを言ったり。柔道着姿で組手中なのがまた良い。
「熱が出て具合が悪そうな彼の家にお見舞い」という夢のシチュエーションも周子がやるとこうなる。引き締まった脚がかっこいい。本作は“髪の毛”と“脚”の描写がめっちゃいいんですよ。大好き。そして、芹沢君は「そんなことやめなよ」とは絶対にいいません。「すごいな」や「危ないから降りな」とは思っているけれど。「強い周子」そのものは修正対象じゃないんですよね。
めちゃめちゃ言われたい。運動神経も良くて、プロレスにも精通しているけれど、芹沢君にとっての周子は「女の子」なんですよ! 芹沢君、わかってる……!
そんな芹沢君の言動や気持ちに ふれて、「自分はヒロインなんかじゃない」とモヤモヤする周子が、自分のままで、ちょっとずつ「女の子らしく」なっていくのがとってもかわいい。
ゆっくりゆっくりヒロインになっていく周子の姿は、見ててほんと幸せになる。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。