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2018.07.22

レビュー

源義経=チンギス・ハーン伝説、蘇る!テムジンと名を変え義経は中国大陸制覇へ

「モンゴル帝国を築いたチンギス・ハーンは、実は源義経ではないか」という説は、どこかしらで聞いたことがあるのではないでしょうか? 元々この話は、ドイツ人医師シーボルトにより広まったそうで、その真偽のほどは諸説さまざまですが、もし、これが本当だったら……。そんな想像でしかなかった話が、『ハーン  -草と鉄と羊-』で生き生きと動き出しました。

主人公はもろちん、クロウこと源九郎義経。1185年の壇ノ浦の戦いで平家を滅ぼし、武勇をあげたクロウでしたが、後に鎌倉幕府初代将軍となる頼朝に疎まれ、命からがら蝦夷地に逃げ延びます。

歴史の本によると義経は、1189年に奥州平泉で自刃。その首は頼朝の元に届けられたことになっていますが、ここに出てくるクロウは船で大陸へと渡ろうとします。

すべてを失い、まさに裸一貫のクロウにとって唯一の持ち物は、平家滅亡の折に失われた三種の神器のひとつ「草薙の剣(くさなぎのつるぎ)」。こんなところで草薙の剣が出て来るなんて! たいして歴史を知らない私ですら「おう」と、うなってしまいました。

船が転覆し、やっとの思いで大陸にたどり着いたクロウは、こう言います。

当時のユーラシア大陸は、様々な民族が入り乱れ、統一されていませんでした。金で女真(じょしん)族に拾われたクロウは、遊牧民族タタルに連れ去られ、獄中でモンゴル族のジャムカと知り合います。そしてジャムカの手引きで、タタル族と敵対するケレイトに加わります。

クロウは、遊牧民族の中でも最強といわれるケレイトの部族長であるオン・ハーンの一番のお気に入りとなり、テムジンという名を授かります。テムジンとは、「優れた鉄の男」という意味。

大陸制覇の野望を持つオン・ハーンは、「鉄を制する者が天下を制す」と考え、テムジンを絶対的に服従させたいと考えていました。

ところがテムジンは、無謀にも「オン・ハーンの首を獲る」ことを計略。最大の実力者を殺し、自分がその座に着けば、黙っていても兵士は自分に従い、この大地を手に入れられると思ったからです。

しかし、この計略を察したオン・ハーンにテムジンは敗れ、逃走。またしてもモンゴル族に助けられます。そして、こう言うのです。

テムジンったら、すぐトップに立ちたがるんだから! と思わずツッコミを入れたくなるのですが、源頼朝よりも人気があり、朝廷からのおぼえもめでたかった九郎義経としては、鎌倉幕府に代わる天下が欲しかったのかもしれません。

モンゴルを支配するためには、力のある味方が必要と考えたテムジンは、図体が大きく力持ちのカサルとモンゴルの格闘技・ブフで決着をつけようとします。しかも、かなり姑息(こそく)なやり方で。それでも悪びれずにこう言うのです。
        
「勝つためなら手段は問題じゃない」

源義経だったときも、テムジンとなった今も、戦のやり方は変わらないということなのでしょう。

そんな折、今度はタイチウトという違う部族がテムジンたちの村を襲って来ます。その先頭に立つ男を見て、「あいつも欲しいな!」と言うテムジン。2000人の兵に対し、わずか2人で敵の野営地に忍び込んだテムジンは、相手の馬を逃がし、兵糧を燃やすという奇襲を仕掛けます。

          

チンギス・ハーンが義経ではないかと言われる根拠となった、「どちらも奇襲が得意」という話がここに出て来て、思わずニヤリです。

この漫画の面白さは、断片的にしか残されていなかった史実が、壮大なストーリーとして、1つに繋がったこと。大陸に渡った義経の身に、こんなことが起きていたのではないかと想像を巡らすのは、この上なく楽しいです。

歴史の授業で習った「元寇」(文永・弘安の役/蒙古襲来)は、チンギス・ハーンの孫、フビライ・ハーンが日本を侵略しようとしたものですが、もし、チンギス・ハーンが義経だったら、お爺ちゃんの話を知ったフビライ・ハーンが敵討ちに来たともとれるのではないか?
 
そういえば、義経がやっとの思いで大陸にたどり着いたときのセリフ、「あんなちっぽけな島国は兄上に貸しといてやる」が妙に引っかかったのは、「くれてやる」ではなく、いつか取り返すということなのか? などと、どんどん妄想が膨らんでしまいました。

もし、私が高校生のときにこの漫画があったなら、世界史が苦手な私でも、もっと興味を持てたのに。

今年の4月末に発売された第1巻は、即重版になった『ハーン -草と鉄と羊-』。野望渦巻く壮大なストーリーは、これからが益々、面白くなっていきそうです。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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