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2018.07.11

レビュー

他人の心が読める能力があった。裏社会でどう悪用するのか?『僕はどこから』

普段の生活の中でノートや手帳に日記をつけていたり、SNSを日々利用していますよね。多くの人は毎日文章を書いています。選ぶトピックや綴られた内容はもちろんのこと、行間や、句読点の位置に個性が出ます。

同じ人間が書いた文章でも、心情によって表記が揺れ動きます。少し自信がないときは、3点リーダーが続いたり、装飾語が多くなりがちです。逆に、興奮しているときは、感嘆符が多用されたり、文章が乱れたりします。普段きっちりと表記ルールを遵守(じゅんしゅ)するタイプの人でも、勢いでつぶやいたTwitter POSTには、誤字脱字が増えてしまうことがありますよね。

主人公の竹内薫は、小説家志望の青年。認知症を患う母をひとりで自宅介護しながら、アルバイトと執筆活動を並行しています。まだデビュー前なので、世に出て人に読まれるかどうかもわからないまま、ひたすら作品を書き続ける生活です。なかなか芽が出ないなかで、有名作家の作品を全文書き写しながら、世間に求められる文章を模索する薫。

全力で書き上げた新作を読んだ担当編集者からは「どの作品も、人の頭で考えているってカンジなんだよなぁ」と差し戻されてしまいます。君には君ってモンがないのかい? と。オリジナリティがなく、作風にも影響を受けてしまう。挙句の果てには、スランプになった作家のゴーストライターになることを持ちかけられてしまいます。



なぜこんなにも、他人の文章に近いものを生み出すことができてしまうのか? なんと彼は、「文章を書き写すと、筆者の心情が読み取れてしまう」という特殊な能力を持っていたのです。


公開するかどうかは別として、毎日何らかのかたちで、言葉を放っている。その時の気持ちがそっくりそのまま他人に全て読み取られていたらと思うと恐ろしいです。SNSでも、交流があるアカウントなら行間や投稿時間・添付画像からなんとなく気持ちは透けて見えるものですが、まったく知らない人、それも文章だけで読み解かれていたら?

気持ちや思考を伝えるために綴る文章であっても、本心を読み取られるのは怖い。FacebookやInstagramなどのSNSはその代表だと思いますが、前提としてみんな良いことしかPOSTしません。よそ行きの顔の奥にあるものがだだ漏れだったら、もう恥ずかしくてなにも外に発信できないです。

この能力、持っていたら精神的に疲れてしまいそう。他人の感情を読み取る上で、共感や怒りがうまれることもあるはず。知らなくていいことを全部把握できてしまう。外的なものに揺さぶられすぎるのも、考えものですね。

薫は、自身の力に気がついていながら、今までこの能力を悪用することはありませんでした。SNSやブログサービスなど、インターネット上では他人の文章を簡単に閲覧できるのだから、人生を優位に持っていくことはいくらでもできるはずなのに。彼はひたすら小説を書き綴るのみでした。そんな薫のもとに、同級生の藤原智美が現れてから、物語は一気に進んでいきます。薫の能力のことを知っている彼は、ヤクザ。反社会勢力で活動する藤原は、犯罪へ加担することを持ちかけてきます。


控えめな性格な薫でしたが、母の介護やそれに伴う生活費を考えた結果、犯罪に手を染めることを決意。

他人の思考を読み取り、コピーできる彼の能力が、どう活きてくるのか? また、どんな犯罪に巻き込まれてしまうのか? 心優しすぎる薫は、組織の中で立ち振る舞うことができるのか? など、2巻以降の展開が楽しみです。

レビュアー

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小沢あや

OL/小沢あや ライター。ウートピ連載「女子会やめた。」「アイドル女塾」のほか、キャリア・ライフスタイル系のメディアを中心に執筆中。

http://achico-w.hatenablog.com/

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