超高齢化と過疎化が進み、65歳以上の高齢者の割合が町の人口の8割に達する町、裏山町。「老人の老人による老人のための町作り」をキャッチフレーズにした老人ばかりがエコヒイキされる町で無気力に生きる高校生4人組の物語、『老人の町』。
「65歳以上の高齢者の割合が8割に達する町」という設定は、2018年の現在では、「そんな状態じゃ自治体として成立できないだろう」、というようなツッコミを「まだ」入れられるフィクションの出来事と捉えられるでしょう。
一方でいわゆる限界集落と呼ばれる「人口の50%以上が65歳以上の高齢者になって社会的共同生活の維持が困難になっている集落」は年々増加しています。つまり、明日乃隆による『老人の町』は、すでに絵空事の話ではないということが恐ろしくも生々しい社会派ジュブナイルと言えるでしょう。
老人を襲撃し金品を奪う集団が裏山町に現れ、たまたま襲撃現場に居合わせてしまった忍はそんな老人を見捨てられず助けてしまう。
それと同じくして、町では老人を狙った、死体から心臓を抜く猟奇殺人が急増する。そんななか、忍はじめとする4人組は顔見知りの老人が目の前で何者かに殺害されたことから犯人捜しに乗り出すも、様々な人物の思惑と裏山町にまつわるカルマに忍らは飲み込まれていく……。
このように、本作は同時並行で様々な登場人物によって、重層的なストーリーが繰り広げられてゆきます。
忍たち高校4人組の日常的パートはジュブナイル小説のような若々しさと若さゆえのバカバカしさでギャグマンガのように穏やかな部分もあれば、忍が武装集団に脅され、ムリヤリ仲間にされて老人を襲うシーンではクライムサスペンスのような部分が入り乱れている万華鏡のような作品です。
誤解を恐れずに言えば、ミレニアル世代(1980年~2000年生まれの世代)の読者は本作に共感できるのではないでしょうか。
毎月の年金支払い金額が高くてなかなか貯蓄ができないとか、年金の負担額と受け取り額が世代によってかなり差があるといったわかりやすい不公平感はそういった具体的な数字があるためわからなくもありません。
しかし、若年世代が老人世代に持つ不公平感は日常の生活における様々な場面で少しずつ感じて溜(た)まっていく澱(おり)のような感情で、一方的に少しずつ集合意識として老人世代全体へ向けられる憎悪ではないのでしょうか。
「自分の人生は老人よりも先があるのに、なんで先が短い老人に縛られなきゃならないのか」という老人ホーム職員の叫びに、「俺たちは老人を大事にする意味がホントにわからねえ……」と漏らす老人を襲う武装集団のリーダーの言葉は、現代の若者世代についてまわる苛立(いらだ)ちと余裕のなさを物語っています。
あまりおおっぴらに口には出せないような、根深い社会問題に対する憤りを代弁してくれた本作のおかげで、少なからず溜飲(りゅういん)が下がったのは事実です。
世代間格差問題をはじめ、介護士待遇や、介護士による虐待の問題、老人ホームの姥捨て山化の問題など高齢化社会にまつわる様々な社会問題を下敷きに強烈なスピード感で駆け抜けていく本作は、老人の町ならぬ老人の国に突き進む日本が抱えている根深い問題を突きつけてくる問題作です。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。