はっきり言って、「ギャハハハ」と大声で笑うような漫画ではありません。
「ふふふふ」と口角を上げて、上品に微笑む漫画でもありません。
ここに出てくる笑いは「ふっ!」。腹の底から沸き上がって鼻に抜けて行く「ふっ!」です。そして後から追いかけてくる心の中つぶやきは「いいぞ!」、もしくは「よく言った!」。
こんなふうに言えたなら、人生どんなに楽か。
そう思っている方が多いのか、この『テイコウペンギン』はTwitterで350万いいね!がつき、YouTubeでも大人気なのです。
抵抗ペンギン!? まずは、そこに引っかかりますよね。ああ、皇帝ペンギンをもじっているのだなと。
でも違います。ここに出てくるのはアデレーペンギン。世界で一番大きい皇帝ペンギンではなく、中型のごくごく一般的なペンギン。夢は、鉄道定期券のイメージキャラになること。
しかし現実は、ブラック企業の社畜。上司に理不尽なことを言われながら、残業と休日出勤に明け暮れる毎日を送っています。
いるいる、こういう上司。出社してないけど会社のことは気になってるんだよアピールが強いというか、問題が起きたときに知らなかったではマズいと探りを入れてくる姑息なヤツ。だったらお前も出て来い!!
思わず私も、建設会社のOLだった若かりし頃を思い出してしまいました。
それにしてもこのペンギン、何をやっている会社に勤めているのか気になります。
「お前は新人だから電話は全部取れ」と上司に言われ、数年経っても新人が入らないので電話を取り続けているのです。
しかも、お客様相談室という部署は存在しないのに、クレーム電話に出なければならないって。そりゃあ、こんな対応もしたくなりますよね。
あー、これも経験あります。OLの後、放送作家になった私ですが、番組にかかってきた電話を受けるという業務以外のこともやっていました。
一番、酷かったのは某テレビ局新社屋完成記念特番。4時間にわたり1人で50本近い苦情電話を受け、ずっと謝りっぱなし。しかも2ヵ月半、毎日のように深夜まで働いたのに、制作費がなくなったからと振込まれたギャラはたったの3万円(税込)。まさにブラック!! もう一度、言ってやる、ブラック!!
私ですらこんななので、会社勤めをしている人は、さぞ大変だろうな、パートやバイトで働いている人は、もっと大変だろうなと思います。
でも、面と向かって文句、言えないじゃないですか。感情をあらわに文句を言う相手に「ちっちぇなぁー」とか言えないじゃないですか。
腹の立つことがあっても、グッと押し殺すしかないですもんね。レベルの低いヤツと同じ土俵に乗っちゃいけない。早く忘れよう、早く忘れようって自分に言い聞かせて。
でも、無理矢理押さえ込んだ怒りって、些細なことで息を吹き返すのですよ。そして、ああ言い返せばよかった、こう言い返せばよかったと自己嫌悪に陥るのです。
だからこそ、言いたくても言えなかったことを感情的にならずにスパッと切り返す『テイコウペンギン』に共感を覚えるのだと思います。
なんでも著者である、とりのささみ。さん、漫画家を目指して20年前に上京したものの芽が出ず、この『テイコウペンギン』も10年間、Twitterで描き続けていたのだとか。つまり、見聞きした他人の話ではなく、実体験なのです。
そう思うと、とりのささみ。さんを始め、これを読んだ多くの人と繋がっている気がするから不思議です。共通認識は、ささやかな抵抗でしょうか。
いずれにしても、嫌なことは溜め込まず、『テイコウペンギン』を読んで腹の底から「ふっ!」と吐き出すことをオススメします。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp